モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第11回自分でも絵を描いてみたいけど絵心がないと思っている人へ(1)

グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。さて、今回はもっとも多かった「絵心がないんですけど、自分でも絵が描けるようになりたい」という方々の質問に答えてみます。

いつも本当に多くの方から「どうしたら絵が描けますか」⁠描くコツを教えてください」という質問を受けます。最初のころは「ルールはないのでとにかく鉛筆を動かせばいいんですよ!」と返事をしていたのですが、

  • 「スケッチブックとか、色鉛筆とか、絵の描き方の本とかだけは買い揃えているのに、実際何も手がついていない状況です。何をどう描いていいか分からないし、下手だから…。一歩が踏み出せないでいる感じです」

「⁠⁠マインドマップ』にもっと絵を活用したくて練習しているところなんです」と実際にノートを見せてくださる方々もいます。それがまたとても上手! それでも「実際みんなの前に立つと、なかなか描けないんです」とのこと。

あまりにも多いこうした声に、みなさんが納得のいく返事ができず、私自身もどかしさを感じるようになりました。何か伝えられることがあるはず…。でも一方で、みなさんが知りたがっていることと、私が伝えられることには何かズレもありそうな…、ウウウ~ン…。

「趣味としてではなく、実際にビジネスの現場で絵を描けるようになりたい⁠⁠。けれど、同時に多くの人が二の足を踏んでいる。ならば、その理由を解明して、1つでも、絵を描く方法や、もしくは、絵筆を持たなくても普段の議論で使える考え方をここで紹介したいと思いました。これから数回に分けて、いただいた質問に答えながら、納得してもらえる解答を探してみます。

今回、1回目は、中でも特に多い『マインドマップ』を実践されている方々からの質問に答えてみます。

あなたはどんな絵を描きたいと思っていますか?

Q1:『マインドマップ』は、脳の発想を促進するために、文章でなく、単語の連鎖や絵を使って記述する方がよいといわれています。ゆにさんの『グラフィックファシリテーション(※以下「GF」)』も『マインドマップ』みたいなものですか?

A1:『マインドマップ』「言葉」を拾う?
GFは「発言を取り巻く空気」もいっしょに拾っています。

実際に私が描く様子や絵を見たことがない方からは、他にも「⁠⁠リッチピクチャー』『見える化』みたいなものですか?」といった同様の質問をいただきます。実は、こうした絵や図で表現する手法が様々あることを、私はこの連載を始めるまで知りませんでした。

そこで、⁠マインドマップ』を実践されている方の言葉を借りると、⁠マインドマップ』は発言を"キーワード"や"言葉"のままで拾うのに対して、ゆにさんは発言から誘発される"イメージ"を拾っている感じ」だそうです。

確かに、以前のQ&Aで「キーワードを拾っているんですか?」という質問をいただいたとき「キーワード」という言葉に私は違和感を感じました(※詳しくは第9回をご覧ください⁠⁠。私の感覚としては、⁠キーワード」という単体で抜き取るというよりは、例えば「今いいこと言ってるなあ」とか「みんながなんか盛り上がってるぞ」というように、まさに発言を取り巻くその場の空気に反応して、その"流れ"や"固まり"で捉えている感覚に近いからです。

Q2:『マインドマップ』でもっと絵を描けるようになりたくて、今年は絵の訓練をしたいと思っています。参考になりそうなことがあったら是非教えてください!

A2:『マインドマップ』で必要な絵は"アイコン"や"マーク"?
それなら「画像検索」で練習してみては?

『マインドマップ』で描きたい絵とは、⁠文字」で書いたものを「絵」に置き換える、もしくはその「文字」から連想したことを「絵」にするイメージでいいでしょうか?

だとしたら、画像検索に向いていますね。

画像検索サイトでその「文字」「キーワード」を入力して検索すれば画像が出てきますから、それを参考に、⁠文字」に後から絵を追加していってみてはどうでしょう? GFで描く絵は「シーン」であることがほとんどで、そこには会話や感情など様々な要素が盛り込まれてくるので(例えば、カスタマーセンターに問い合わせたユーザーがオペレーターと話したことで怒りが治まっていく様子など)画像検索に向いていないのです。

『マインドマップ』で描きたい絵が、シンプルなマークやアイコン、挿絵的な単体のイラスト画のようなものであれば、他の練習アイデアとしては、例えば電車を待っている間に指示標識のイラストを参考に描いてみる、雑誌やフリーペーパーで使われているアイコンを真似して描いてみる、といった練習もできそうですが、どうでしょう?

ただ、最初は『マインドマップ』を描いている最中に、無理に描こうとしないほうがいいと思います。描くことに意識を取られて、議論や頭の中の発想を拾い損ねては本末転倒です。文字だけで仕上がった『マインドマップ』をもう一度見直しながら、絵を描き足していく。そのほうが、手当たり次第に絵の練習をするより、はるかに近道かと思います。

「絵を描く」ことに囚われていませんか?

Q3:私の『マインドマップ』は自己流で文字ばかりなので、もう少し絵が使えるようになりたいです

A3:「文字」だけでも表現力豊かに描けます。

「文字」をどんどん連鎖して書いていく『マインドマップ』を初めて見たとき、私は「どうやって書いているんですか?!」と質問してしまいました。その方は「もともと言葉の語源や比喩表現に興味があるんですけど、ゆにさんみたいに絵もささっと描けたらいいんですけど、絵心が無くて…」と回答してくれました。しかし、お互い無いものねだりでしょうか。文字や文章が苦手な私からすれば、うらやましい限りでした。余談ですが、私はGFで書く文字はよく間違えます。以前あるGFで「定年」の話題を描いたとき、私はうっかり紙に「停年」と書いてしまい、大笑いされました…。⁠言葉」に興味があるなんて素晴らしい! 真似できない! と思っています。

そこで思うことは、本当に絵を使う必要ってありますか? ということです。そもそも『マインドマップ』で絵を必要としている理由は何なのでしょうか? 自由な発想を刺激するため? 少しでも楽しい紙面をつくるため?

GFは「みんなで眺める」ものですから、見たくなるような絵があることが有効です。でも、例えば「じぶんのため」に書いた『マインドマップ』なら、得意な「言葉」の魅力だけで、十分に思考を明確にしたり、新しい発想を呼んだりするのではないでしょうか。絵は後から描いても遅くない気がします。

みんなで眺める『マインドマップ』でも、絵を練習してもすぐに描けるようになるかどうかは個人差があると思うので、絵を描きたい気持ちをまずは横に置いておいて、最初は「文字だけで表現を追及してみる」というのも1つの方法かと思いました。

ということで「文字で描く」簡単な方法を3つほど考えてみました。

① 文字の大きさに変化をつけてみる

GFでは、絵は"大きく描きたいと感じたものは大きく"描いています。"小さく描きたいと感じたときには小さく"描いています。これは、その場の議論の盛り上がりやそれが重要だと感じたことや、その逆になんだかよくわからないなあと違和感を感じたことに比例していることがほとんでです。

『マインドマップ』を拝見していると、どれも同じ文字の大きさが目立つようですが、もしかしたら文字の大きさに変化をつけるだけでも、ぐっと見え方が変わりそうな気がしました。例えば「このキーワードがとってもワクワクするんだよね!」という言葉だけ大きく書いてみる。

② 時間軸を入れてみる

また『マインドマップ』では、一枚の紙の中心から、放射線状に自由に文字や絵をつなげて展開しているようですが、GFの場合は、議論の流れにあわせて、壁に貼った紙を左から右へ流れて書いていきます。振り返ると"絵巻物"のような感じです。そこにはみんなで共有した時間が絵に残っています。

『マインドマップ』は"1枚絵"ですが、そこに時間軸を入れてみる。例えば、時計の針にあわせて12時の方向から右回りに描いていく、といったアイデアはどうでしょうか?!

③ 気になる文字だけに色をつけてみる

GFで、私は後から絵の具で色をつけますが、それも応用できるのではと思いました。GFで議論を記録した絵には"議論の参加者たちが共有した時間"といっしょに"熱"も残っていると感じています。それが、絵の大きさの大小の違いとして表れ、そしてもう1つは塗っている色にも表れているようです。

例えば、そのキーワードが楽しそうな会話から抜き出したものならオレンジ色に、さみしそうな話題から抜き出したキーワードであればブルーの文字に、とそのとき感じたままに塗ってみてはどうでしょうか。すべてに色を塗る必要はありません。⁠なんだかこの言葉は気になるな」というものにだけ色をつけてみる。ルールもありません。逆に、ルールは決めずに、そのとき感じたままに好きな色を塗ってみるのがいいと思います。

こうしたことだけでも、十分「絵」になってくると思います。

(いずれも、すでにやっている方にはうるさいアドバイスですみません!)

「何のために描きたいのか」で描き方が変わる

Q4:私は、『マインドマップ』1つ満足に書けないので、絵が描けるゆにさんがうらやましいです

A4:「可視化する」という言葉に踊らされていませんか?

『マインドマップ』とGFとは一体何が違うのか? 質問に答えながら感じた一番の違いは、GFは"みんなと共有した時間と熱"を絵にしているところです。⁠絵を描く」という行為は、すべてを正確に拾うという目的には向いてないません。だから、どうしても、感じて反応したところを脊髄反射で描くしかない。結果、それが盛り上がった議論であったり、混沌とした議論だったりという部分が絵になって残ってきます。

しかし、⁠言葉」で書ける『マインドマップ』は、"すべてを拾える"という良さがあります。いっそ「文字だけで表現してみせる!」と思い切れると、さらに筆が進んで、ぐんぐん広がる『マインドマップ』が描けるかもしれません。

また一方で、GFとの共通点として、⁠マインドマップ』の、その場で描ける「即時性」と、文字と文字をつないでいく「連鎖性」は、GFととても似ていると思いました。つまりGFと同様に、⁠マインドマップ』も"みんなと時間を共有できるツール"と言えるのかなあと。

だとしたら、その素晴らしさを最優先すると、まずはみんなの議論を聞くことが大事な作業になってきます。そうすると、ますます「どんな絵を描こうかな」と悩んでいる暇はなくなってきます。文字の大きさや色をつけることも後回しでいいと思います。まずはすべて「文字」で拾って、後から「文字」に表情を足してみるという順番で、十分ではないでしょうか。

結局は『マインドマップ』を使う目的は何ですか? ということだと思いました。自分のためだけに書きますか? その場に居合わせた人たちと使いますか? その場に居合わせなかった人にもわかるように書きますか? それによって表情の足し方はいかようにも変わってきます。

自分のために書いているなら、自分の感じたままに大好きな言葉だけに色を塗ってみると、後から何か発見があるかもしれません。みんなと共有しているのなら、その場に居合わせた人たちと「文字」を一緒に読み返しながら、みんなの関心が強い文字だけさらに大きくしてみるだけで、その『マインドマップ』への共感度合いもより高まりそうな気がします。

…なんて、実際書いたことも書いてもらったこともない『マインドマップ』について熱く語ってしまい、検討違いだったらすみません。でも、かなりまじめに考えてみました。

「頭の中を描く」続きは次回に

まだまだ、みなさんの"考えを絵にしたい気持ち"はたくさん頂いています。

  • 「議事録は読み返さないけど、これは絵があるから楽しそうで見たくなる」
  • 「記憶にも残りやすい。あの絵だけはよく覚えています」
  • 「画像記憶は強い! 絵はまだ頭に残ってるもん。これってすごい面白い感覚!」
  • 「この絵を見ていると新たなアイデアが湧いてきそうです。周囲からも好評です」

そういってもらえると、私の稚拙な絵でも、ビジネスの世界では役に立てるうれしさを感じます。確かに図や写真ではなく、イラストが人への感覚・記憶に与える影響は違うようです。

  • 「今までぜんぜん意識したことがなかったけど、可視化することによってみんなの発想が活発化する気がする!」

まさに絵を見た方達の頭の中に、新しい視点や気付きが芽生えるのを実感します。ただ、この「可視化する」ということを「理想は絵にできる(イラストや漫画に描ける、もしくはピカソのようなアートにできる)こと」だと思い込んでしまうと、

「可視化できるようになりたい⁠⁠→⁠絵が描けるようになりたい!⁠⁠→⁠絵の訓練をしたい!⁠⁠→⁠でも絵の描き方がわからない」

という呪縛に囚われてしまう恐れがあります。しつこいようですが、手当たり次第に絵を練習してみたり、すべての文字に表情をつけるのは本末転倒。何のために描いているのか? そこに立ち返ると、自然とメリハリのある『マインドマップ』が出来上がってきて、その中から光るキーワードが見えてくる気がしましたが、どうでしょうか?

さて、次回も、みなさんから教えて頂いた「目に見えるようにする」他の手法とGFとの違いを探っていくことで、むやみやたらに絵を練習しなくても、もっと簡単に絵にできる方法や、筆を持たなくても頭の中で思い描ける方法が見つかったらいいな~…と、今はまだ目線は遠くに見つめている状態ですが、がんばって探してみたいと思っています。

ということで、続きは次回に持ち越しとさせてください。今日のところはここまで。次回も楽しみにしていてください。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)

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