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第27回聴き手座談会(5)「あの人がいると会議が違う」言われるには ~聴ける力量を磨くには

[聴く]を仕事にする女性達との三者座談会。座談会の最後に、⁠聴く力をどうやって養うか⁠というテーマについて語られました。


ゆに:効率性やスピード重視の[話し手市場]とは対照的な[聴き手市場]が、これからの企業に新たな流れを起こしていくと思うのですが、どうでしょう?

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会議室のキーマンになるであろう[聴ける人]

ワタ:「その人が言いたいことと、その人が本当に聴いてほしいことは違う」というのは結構大きなキーワード。⁠会議であの人がいると進むぞ」という本当のキーマンは「あなたの聴いてほしいことはこうなんですよね」というのを言ってる気がします。実際わたしの職場にも、「○○さんが今言いたいのはこういうことで」という整理をよくしてました。

ゆに:あえてそれを[聴く力量]がある」と評価したいんだけど、まだまだ世の中的にはその力量をフォーカスされてはいないよね。

ワタ:資格とかもないし、認定はされてないよね。それに、わりとそういう人は会議中に頻繁にしゃべらない傾向にあると思うんです。

ゆに:確かに。

奥山:おそらく、聴くことに集中している…。

ゆに:同じように、もつれたものをほどくのが好きで、黙って聴いてる…。

ワタ:そして、ほどいている間に会議が終わる、みたいな。

ゆに:一見すると、リーダーシップがないように思われている人も多いかも。

田中:人から言われたりもしますよね、⁠黙ってるね」って。でも、黙っている時間も、メディエーションでは大切にしています。⁠この人はなんで沈黙しているのかな? 何を考えてらっしゃるのかな?」と観察している。沈黙がこわくてつい話したくなっちゃうけど、話せばいいわけではないですよね。

ゆに:うんうん。寡黙な人が言う一言のほうが、すごい筆が進むという体験は何度もあって。その絵を後から見た社長が「これだよ、これ」って指差すということも本当にあるので。

ワタ:プレゼンの仕方とか「話す」ことなどは会社でも教わるけど、⁠聴く」ということは教わらないですよね。この「聴く」は、コーチングで習う「傾聴」とも違うものだと思うんです。なにかこう、「生で流れている発言に対して、どうクリティカルな発言をしていくか」⁠聴いて消化したうえでどうアプローチしていくか」というもの。これを手探りでも、みんなでやっていかないといけない状況になっているんじゃないかと思うんです。

"養成ギブス"のおかげで、[聴ける人]になれる?!

田中:私がメディエーターのときは、事前の受付時の相談情報は一切入れないで無の状態でのぞみます。聞いてしまうと、こうしたほうが良いんじゃないかとか、自分の先入観がどんどん出てきてしまうので。あえて無の姿勢で、初めてその方に耳を傾けられる状態をつくっていきます。

ワタ:メディエーターさんと、エスノグラフィーのフィールドワーカーは似ているかもしれないですね。私も事前準備はしないんですよ。先入観を入れていかない。観たものからしか言わない"事実起点"のルールがあります。

奥山:私は、事前に分からないことは徹底的に勉強していきます。ちょっとでも頭の中にないと、言葉として聴き取れないんです。あるいはその言葉が出て来ても信じない。⁠それウソ!(そんなはずがないから聞き間違いだ⁠⁠」って思って拒否しちゃう。特に、言葉以上に概念を知らないと怖い。だから、事前の勉強は、いつも怖いくらい必要だと思う。

ゆに:私は奥山さんとまったく同じ。奥山さんはそれだけインプットして、当日聴くときに、田中さんのように気をつけていることありますか?

奥山:ゆにさんも連載で「たくさん準備していって、その場になったら白紙」って書いてらっしゃいましたよね。私は「先取り」しないようには気をつけてますね。先に知っているものが聞こえてくると、嬉しくて飛びついちゃうんです。⁠あ、あれを言うだろう」⁠だって事前資料にこう書いてあったから」と。でも、それで言い始めたら違ったというときがあるんです。何度か失敗したことがあって。

ゆに:私は事前情報から自分なりの仮説まで、目一杯持ちこんで会議にのぞみますが、即時に絵にしなければいけないという"養成ギブス"にはまっているので、嫌でも全て真っ白にならざるをえない。"養成ギブス"のおかげで、こんな私でも聴けるんだ、とも思います。みなさんにも、そんな養成ギブスみたいなものって何かないですか?

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田中:メディエーターという役が養成ギブスになっているんだと思います。自分の先入観や提案というものをできるだけ引っ込めて、相手の話を「聴かなきゃ聴かなきゃ」という部分はまさしく養成ギブス。海外の先進国は受付もメディエーターも一緒の人がやるんです。でも、ゆにさんみたいに、いっぱい事前情報を入れても、その場では白紙になれる状態までいかないと本当に難しい。

奥山:私は人が話したら、とにかく反対の(もう一方の)言語で言わなきゃ!(笑⁠⁠。

ゆに:脊髄反射、ですね。一緒だ(笑⁠⁠。

奥山:誰かが何かを言ったら「反対(もう一方の言語)にしなきゃっ」と思っているあまりに、それに必死になっていると、本当になんかもうただただ、たれ流し状態で「それは訳さなくていいでしょう」って苦笑されたりする(笑⁠⁠。

ゆに:(笑⁠⁠。でも、だからこそ「降りてくる」んだと思いませんか?

奥山:それはあるかもしれないです! ⁠自然に入って来るような状態⁠⁠。でも私はそうなるまで、結構立ち上がりの遅いところがあるから、長丁場のほうが好きなんです。

ゆに:わたしの「降りてくる」という状態は、耳から聴いたものが、脳に行かず、ダイレクトに筆にドーンと届いて動いているとき。まさに脊髄反射。たまに「色使いにどんなルールを決めて塗っているんですか」と聞かれるんですが、頭使って考えて使い分けてる暇なんてなーい!

奥山:よく分かる(笑⁠⁠。

ゆに:でも逆に、脊髄反射で塗った色を後から見直すと、似たようなものはちゃんと同じ色で描いていたり、それが本質だったりするから、常にその域でいたいなとも思います。

ワタ:"養成ギブス"か~。それがあるから、全ての発言を公平に扱えて、話し合いを客観的・俯瞰的に見ることができるんだろうな。だからこそ時には参加者よりも早く議論の本質や課題に気づくこともある。まさにそれは「あの人が発言すると何かが違う」に該当するスキル。⁠第三者」の視点で話し合いに参加していると思っていた3人が、⁠話者」の視点になりきって話を聴いていることが本当によく分かる。

「あの人がいると会議が違う」と言われる。[聴ける力量]を鍛えるには?

ワタ:ただ、⁠全員の立場になりきって発言を公平に聴いて理解する」なんて、正直、すっごいストレス溜まりそう。特に会社の会議といった人間関係が形成された中で、⁠全員になりきって公平に発言を理解する」なんて、可能なんだろうか。難しそう。でも試してみたいな。

タカ:やっぱり会議に出るなら、何かしら一つくらい意見を言おうと思うわけで、「人の意見を聴く」を元に「アウトプットする」という流れが、これからの会議には必要かなとは思いました。「〇〇さんがこう言ってたから、私はこう思います。あなたは、その隣の人はどう思いますか?」みたいな流れ。みんなが勝手にボーリング状態で話すのではなく、どうゴールにみんなで向かうかを、聴いているときも大事だよ」と。

ゆに:それが共通認識になっているといい。

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ワタ:今の会議には、そういう役の人のほうがずっと必要だと思う。名前だけ格好良く「会議のファシリテーター」が先行しているけど、そういうのじゃなくて、「あの人がいたら会議が違うようね」って言われる、そういう人になりたい

奥山:でも、自分が一参加者である会議で発言を公平に扱うには、それこそ「養成ギブス」なしにやるには、かなりの自己コントロールが必要だと思う。

ゆに:私、仕事ではこんなに聴いているくせに、家族の話を全然聞いてなくて、いつも叱られるんです。家でも絵筆を持っていたら、こんなにもめないのにって本当に思う。

全員:(爆笑)

ゆに:つい先日も母に「私が言ってるそばから言葉を被せて!」って叱られて。⁠あなた、そんな風に仕事でもしゃべってるの!」って。仕事では絵筆持って黙ってるから本当に良かったなって思った。こんな私でも会議に参加させてもらえる。

全員:(爆笑)

ゆに:"養成ギブス"として「議事録」はどうかなあ。よく新人に書かせるじゃない?

ワタ:今の議事録は、後で書いて出せばいいんだけど、「その場でアウトプットする」というのが "養成ギブス"になっているんだと思う。

ゆに:私たちが感じている切迫感?

ワタ:会議のその場でグラフィックフィードバックだし、通訳さんは同時だし、メディエーターさんは話を進行していく中でアウトプットしなければならない。今の議事録は1日か2日後に出しても問題ないし、分からなかったり、聞き逃したりしたところは他の会議出席者に後から聞くことができるから、切迫感は生まれないよね。

[直後にアウトプット]を前提に、[聴く]を鍛える

奥山:例えば新人さんに、会議の中身を、出席しなかった人に生き生き伝えなさいと言ったら、それはかなりのプレッシャーになるし、聴き方も違うかもしれない。

ゆに:私たちみたいに、「アウトプットを前提に聴く」ということですね。

田中:グラフィックの振り返りみたいに、その場で「たった今、私が取った記録はこうです」と言う機会があると、[聴く]がもっと違ってくるかも。

ワタ:そうそう、その時じゃないと。その振り返りの内容が、たとえ会議で発言した人の思いと違っていて、それを指摘されたとしても、⁠でもこう聴こえたんです!」って言えばいいと思う。

ゆに:会議の後に、新人が教育担当や上司に報告するのではダメ?

ワタ:それは甘いと思う。やっぱりその場で、言ったほうがいい。内輪にしてしまわないのがいい。

田中:新人だからこそ、⁠それ違うと私は思うよ」と皆が親心で言えるし。

タカ:空気感みたいなものもあるはずで。⁠きみ、そうじゃないよ」って言われたときに「いや、僕もそう思いましたよ」みたいな声が出てくるような。

ワタ:「じつは俺もそういう風に思ってたんだけど」と言って、他の参加者の間でもお互いの意識のずれがあったことが分かるというような効果もあるはず。

田中:10分でいいので。

ゆに:まさに私がやってるグラフィックフィードバックやダイアログと同じだ。

田中:そうそう(笑⁠⁠。

相手が「本当に聴いてほしいこと」を[聴ける力量]

ゆに:実はどの企業も、個人も、上司も部下も、みんな同じ気持ちを抱えてるんじゃないかなと思うんです。聴いてもらいたい人がいっぱい。そして聴いている人も、

田中:聴いてもらいたい。

ゆに:最近はダイアログが流行っているけれど、話す満足感は満たされている気がするけれど、みんなどこまで聴いてもらっているのかな。

田中:私自身、この座談会の場が、私にとってはすごく必要だった。本当に聴いてもらえたっていう感覚がある(笑⁠⁠。

ゆに:[本当に聴いてもらえる]関係が増えるといいのかも。上司だから聴く側、部下だから聴いてもらう側というのではなく。本当に聴いてほしいことって自分では本当に分からないから。そんな[聴ける力量]を磨いていった人が、新たなリーダーとして頭角を現してくるっていうのも、よくないですか。

ワタ:今日会議10人でやるとしたら、⁠本当に聴いてほしかったこと」を指摘した人が一番素敵、みたいな(笑⁠⁠。

田中:ビンゴ(笑)

ワタ:「そうそれ、ビンゴ」って言われた数が多い人が[聴く]の達人、とか。

ゆに:そんなふうに[聴き手]の面白さが注目された、お互いが分かり合える幸せがぐっと増える気がするんだよね。結果、無駄な会議も少なくなる。

[聴く]ことの面白さ=[話の流れを追う]ことの面白さ

ゆに:ただ、⁠聴けるようになれ」とは決して押し付けたくない気持ちがありませんか? 「そうはいっても聴けないんだよ、みんな」でいいんじゃないかと思っています。だって本当に[聴く]って大変だから。

田中:「聴けてない自分を感じようよ」でいいのかも。そうすれば自然となんとかしようと思う。自浄作用というのかな。そういうのって人間持っているんじゃないのかな。そのために「自分は聴けてないな」と感じることが大事な一歩。

奥山:聴くことの面白さと意味みたいなことを、もう少し宣伝してもいいのかなと思うときはあります。モヤモヤしたことでも、聴けて、分かったということが、結構面白いというのがあるけど、それをわりとみんな知らないのかなと思っていて。

ゆに:確かに。

奥山:私はかなり長いこと話さないで面白い話だなーと思って聴いてると、心配されて「話してないけど大丈夫?!」って言われて。⁠いや面白いと思って聴いてたんだけど」と、こっちがびっくりするときがある(笑⁠⁠。[聴く]ことの面白さをもう少し知ってもいいんじゃないのかな。話の流れを追っていること自体が、プロットを追っているみたいで、面白いときってあるんですよね。

ゆに:単に「話を聴く面白さ」というよりも、奥山さんが言った「話の流れを追う面白さ」を知ることが大事という感じがしました。

田中:うん、私も「プロセス」のところですごく共通してる。

奥山:そうですね、「プロセス」ですよね。この人がこう言って、この人がこう言って、⁠あ、だからこうなってるんだ」って。

田中:(笑⁠⁠。そう、客観的に見てる。

ワタ:私は今ちょっと、反省していて。会議中に、私が勝手に意味ないとスイッチオフしている会話まで通訳しないといけないなんて、⁠奥山さん、かわいそうだな。申し訳ないな」と思っていたこと自体が全く間違っていたなと。奥山さんにちょっと失礼だったなと思って。

ゆに:すごい気づきだねー!

奥山:(笑)

ゆに:奥山さんの[ビンゴ!]に気づける人も増えたらいいな。[聴ける人]の周囲への配慮や目線って、大事なことを教えてくれることが多いから。 [聴ける人の力量]に「敏感な人」もまた評価されてくるといいな。実際、世の中のトップやリーダーは、すでに[聴ける人]だったり、人の[聴ける力量]に敏感だったりするし。

奥山:ただ私は、ものすごく長いプロセスがあって初めて本当に聴けるようになり始める気がして。今の時代はスピードを求めすぎてるから、きついかなとも思います。

ゆに:そのスピードに打ち勝つ強い亀(オソイホド ハヤイ)が活躍できるようにしたいですね。

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いろんな会社やプロジェクトに参加して、すでに、優秀な[聴き手市場]の亀さんたちが相当な数いると思っています。ただ、効率やスピードが重視される今は、ちょっと首をひっこめているだけ。しかし、わたしとしては今回の座談会で改めて、 [聴ける力量]のある「聞き手市場」人材が、これからの会議室の新たなキーマンになっていくと確信しました。

強い亀(オソイホド ハヤイ)が、会議をあるべき方向へ導いていける。そんな活躍がいたる会議室で起こったらいいな。そんな思いでお届けした、5回にも渡る座談会企画、いかがでしたでしょうか? 本当の「速さ」って、⁠効率」って、何なんでしょうね。

次回は通常の連載記事に戻りますが、引き続きお楽しみに。

グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/

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