産業カウンセラーの活動概要

第1回産業カウンセラーとは

はじめまして。産業カウンセラーについて執筆をさせていただくことになりました、産業カウンセラーの夏美です。経歴6年の駆け出しではありますが、筆者の普段の仕事を紹介させていただき、産業カウンセラーという職業を身近に感じていただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

産業カウンセラーとは

産業カウンセラーは、⁠産業⁠とあるとおり、働く人や組織を対象としています。傾聴(後述)によりその方の課題を捉えることに加えて、産業や雇用の動向や企業の仕組み、労働基準法などの様々な労務知識を有していることを強みとしています。

現在、産業カウンセラーの資格を持つ方は3万7,000人まで増え、企業内だけでなく学校・医療機関・ハローワークのような公的機関など様々な場所で働いています。大企業ではメンタルヘルスケア専門の部署を設けている企業もありますが、中小企業では人事部などに所属していることが多く、人事担当者や研修担当者が実は産業カウンセラーの仕事を兼務していることがあります。

筆者が産業カウンセラーになったきっかけ

産業カウンセラーの仕事を知ったのは2004年、大学を卒業して一般企業で働き始めたころでした。勤め先の人事課の女性がきっかけでした。彼女は普段は他の社員たちと一緒に仕事をしていませんでしたが、何か変化や困ったことがあったときに現れ、社員の輪の中に自然に入り、仕事をしていました。当時は不思議な女性だなと感じましたが今振り返って考えてみると、非常に人間関係構築力が高く、自然と傾聴ができる方だったのだと思います。

カウンセリングというと特別なものという意識がありましたが、カウンセリングを行う場所はカウンセリングルームだけではないことに気付くことができ、企業内で活躍する産業カウンセラーという仕事があることを知りました。直属の上司でもなく、仕事上の先輩でもない、同じ職場の身近な第三者という距離だからこそ迅速かつ親身に関われる場合があると感じました。

産業カウンセラーになるには

産業カウンセラーになるには、一般社団法人産業カウンセラー協会が実施する試験に合格し、認定資格を得ることが必要となります。大学または大学院において心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかを冠する専攻の修了者の場合、一定の単位を取得していれば受験することができます。

上記以外の方であっても、産業カウンセラー養成講座を修了すれば受験資格を得ることができます。養成講座は約7ヵ月の通学制と、1年間の通学制があります。養成講座では多くの時間が面接実習にあてられていますので、傾聴の基本的態度を習得できることが特徴となっています。筆者の場合は、大学で社会心理学を学んでいましたので、協会とは別のカウンセリング学習センターにてロジャーズのパーソン・センタード・アプローチを2年間学びました。

初めは様々な技法を学ぶことよりも、カウンセリングの基本である傾聴について時間をかけて学ぶことをお勧めします。傾聴により自分自身がどう変化するか、学習している仲間との関係がどう変わっていくのかを自ら体験することで、傾聴が持つ効果を実感することができます。

傾聴とは

傾聴とは、ただ相手の話を聞いてあいづちを打つだけ、と思われる方がいるかもしれません。表面的に形だけ傾聴しているようにすることはできるでしょう。ですが、学習をしていくうちに「話を聴く」ということが本当はとても難しいことだということが理解できます。

たとえば、⁠~~最近Aということがあって不安です⁠⁠、⁠Aがあって不安に感じているのですね」と話を聞いていく場合、本当に言いたかったことは「A」ではない別のところに存在することがあるからです。事実を伝える場合にはあまりそのようなことは生じませんが、自分の気持ちを話す場合には多くあります。ですので、あいづちに受容、共感的理解がない表面的な聴き方をしていると、本当に言いたいことは話されません。

傾聴の学習では、傾聴の練習の後、相手が私の話をきちんと聞いてくれたかについてフィードバックを行い、本当に言いたかったことについてお互いに確認を行います。それを繰り返し行うことで、傾聴に必要な基本的態度を身につけることができるようになります。

傾聴のスキルを用いてお話を伺うと、相手の方は徐々に気持ちに関するお話をしてくれるようになります。また、気持ちを言葉にしない場合であっても、その方の表情や声色や全体の雰囲気から気持ちを察することができるようになります。言葉以外のメッセージにも敏感になることができると、よりその方そのものの状態を感じながら聴くことができるようになります。

実務経験の積み方

どの資格にも言えることですが、資格を取得しただけではその職に就くことはできません。日本でもカウンセリングが普及してきたとはいえ、専任の産業カウンセラーを雇う企業はまだ多くはないのが現状です。

筆者の場合は、まずは総務人事担当者として入社し、徐々に業務を拡げていきました。周囲と良好な関係を築くことに務め、定時後に積極的に個人的に相談を受けるようにしてカウンセリングの経験を積むことにしました。担当業務での実績を作り、経営層に提案ができるようになった段階で、休職率・離職率低下のため衛生委員会の実施や社内相談窓口設置の提案を行い、社内でメンタルヘルスケアの仕事を創りました。

また、元々メンタルヘルスケアの仕組みがある企業であっても、入社したばかりの社員に相談しようとする人はあまりいません。カウンセリング以外の仕事で普段より信頼関係を築くことで、メンタルヘルスケアをスムーズに行うことができると感じています。

次回以降、実際の仕事内容について事例を交えながらお伝えしていきたいと思います。

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