IT勉強会を開催するボクらの理由

第2回開発を愛する人たちの集まり「DevLOVE」突出したエネルギーに迫る

IT勉強会に突撃レポートし、勉強会を立ち上げたきっかけや、運営のノウハウなどについてお聞きしていく本連載。第2回目の今回は開発(Develop)を愛する人たちの集まり「DevLOVE」をご紹介します。2013年7月10日(水)に開催された「ユーザーの本質的要求発見ワークショップ(β版)-上位下位関係分析法によるニーズ発見-」と、同7月17日(水)に開催された「LeanStartupNight - The LeanStartup Story -」にお邪魔しつつ、 代表の市谷聡啓氏にお話を伺いました。

「RubyKaigi2008」カンファレンスの帰り道で誕生

2008年にスタートし、2013年7月時点で通算140回以上の勉強会やイベントを実施してきたDevLOVE。2012年12月15日、16日にはRubyの生みの親として知られるまつもとゆきひろ氏を迎えて、大型カンファレンス「DevLOVE2012」を開催。2日間で30セッション強の勉強会を実施し、約230名の参加者を集め、公式メーリングリストの参加者は1,200名以上にものぼるまでに成長しました。

DevLOVEを主催する市谷氏もまた、永和システムマネジメントのサービスプロバイディング事業部で働くエンジニア。SIとサービス開発、性質の異なるシステム開発などを経つつ、常に利用者にとって価値をもたらすシステム開発を追求するために、アジャイル開発と向き合ってきたそうです。

DevLOVEが誕生したきっかけは、同僚との雑談からでした。⁠RubyKaigi2008」カンファレンスの帰り道のこと。明日からまた自分たちの日常が始まる。何か自分たちでもアクションが起こせないか。そこで「それぞれの現場で起きている課題や、ちょっとした工夫を共有できる場所があったら、いいよね」というアイディアに結実。2008年6月21日のことで、この日がDevLOVEの誕生日となりました。

そのためDevLOVEでは「開発の楽しさを発見しよう。広げよう。」⁠開発の現場を前進させよう。」という2つのコンセプトのもとに、ジャンルに縛られない、幅広い勉強会やイベントを開催しています。最近ではWebでイベント開催などを支援するサービス「doorkeeper」上で告知などが行われていますが、当初はリアルな友人や知人つながりで告知を展開。そのうえで「興味ある人を一緒にお誘いください」と、顔の見える範囲で徐々にコミュニティの輪が広がっていきました。

直近で開催された勉強会だけでも、⁠プロダクトオーナー向けのロールプレイングインセプションデッキ」⁠リーンスタートアップ事例」⁠アジャイル開発がテーマの新刊読みこなし会」⁠サービスの評価分析」⁠ソフトウェア開発者のキャリア」など多種多様。⁠現場が前進していくために必要なこと、ヒントになることであれば、テーマを限定する必要はありません」と、市谷氏は語りました。

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ユーザーの本質的要求発見ワークショップ(β版)-上位下位関係分析法によるニーズ発見-:架空の写真共有サービスを立ち上げることを共通テーマに、ユーザがサービスに抱くニーズについて、自分でも気付かない本質的な部分を探り出していくワークショップ。当日は2つのチームに分かれて、参加者が持ち寄ったフォトエッセイをもとにディスカッションが行われ、ニーズの樹形図が作成されていった。

そのため参加者もテーマごとにバラバラで、毎回新しい人が参加することが多いとのこと。この間口の広さや参加しやすさが、DevLOVEの自由な雰囲気を形作っているようです。

規模もまちまちで、「ユーザーの本質的要求発見ワークショップ(β版⁠⁠」では、秋葉原のクラスメソッド社会議室に8名が集まり、和気あいあいと。「LeanStartupNight」では代官山のサイバード社イベントスペースに40名弱が集まり、家族で写真をシェアする『まごラブ』などの新規サービス開発事例や、愛犬家向けSNS『ファーピース』のリニューアル事例について議論。会場ではピザと飲み物の差し入れという嬉しいハプニングもあり、参加者同士の相互交流も進みました。

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「LeanStartupNight - The LeanStartup Story -」の第一部では、ディップの新規事業責任者、進藤圭氏(左下)より「つくらないものづくり 明日からできるリーンスタートアップ」と題して講演が行われた。新藤氏は「スタートアップはすべて『ない』との戦い」だとして、いかに低予算・短期間で「仮説・実施・検証」のサイクルを回していくか、実例を挙げながら紹介した。
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「LeanStartupNight - The LeanStartup Story -」の第二部では、ビー・アジャイルの志田裕樹氏(左上)より、⁠SkypeインタビューとKA法による分析及び仮説変更の実例」と題して講演が行われた。志田氏は愛犬家向けSNS「ファーピース」のリニューアル事例について、Skypeでユーザインタンビューを実施し、そこから隠れたユーザニーズを探り出す手法や、自社開発のツールについて紹介した。

リーンスタートアップに注目するのも個人の興味から

2008年に1回、2009年に9回、2010年に26回、2011年に33回、2012年に42回、そして2013年には6月末までで35回と、勉強会・イベントの開催頻度も右肩上がりで上昇中。開催地も東京を中心に、今では関西・仙台・名古屋・四国・横浜と全国に拡大しています。もっとも、東京でアクティブに活動している運営メンバーは5名ほどで、全国で考えても20名程度とのこと。開催回数もとくに気にしておらず、必要に応じて実施中と言います。

とは言え、今では全国で毎週1回以上、何かしらの活動が行われている計算です。しかも東京で開催される勉強会は、そのほとんどに市谷氏が運営スタッフとして係わられています。普通に考えれば大変だと思うのですが、何が市谷氏をそこまで駆り立てているのでしょうか。また「勉強会疲れ」などはないのでしょうか?

「DevLOVEの運営は実務の良い『素振り』
になります」という代表の市谷聡啓氏。
「DevLOVEの運営は実務の良い『素振り』になります」という代表の市谷聡啓氏。

「大変かどうかでいくと、大変です。自分1人で勉強会を仕切らなければならない状況もたまにあるんですが、トラックナンバーが1になってしまうので、自分が開催リスクになったりします。ただ、勉強会を開催することや運営することに疲れるということはないですね。私自身が発表者の方の話を伺いたいから開催していますし、参加者の皆さんと現場の前進に繋げるための場を作ることができている限りは,コミュニティの活動を続けられると思っています。」⁠市谷氏)

とくに最近では「リーンスタートアップ」に関する勉強会が増えていますが、これも自身の興味によるものとか。作り手の思い込みではなく、顧客視点で製品やサービス開発を行うマネジメント手法で、書籍『リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』⁠エリック・リース著)で国内でも有名になりました。市谷氏自身もファシリテーターとしての経験蓄積はもちろん、実務での活動にも大きく役立っているそうです。⁠いきなり現場で実践するのは敷居が高くとも、コミュニティでならば安心して失敗ができます。良い素振りの場としても捉えています。」⁠市谷氏)

また、勉強会を開催するうえでは一般的に「会場確保」⁠講演者への依頼」⁠金銭管理」が大きなポイントとなります。スムーズに進めるためのコツは何かあるのでしょうか。

「会場をお借りするときは、会場側の企業様や担当者の方と関係するテーマを選択しています。会場側の方が参加しやすくなるようにです。講演者の方にお願いするときは、当然ですが企画の狙いをお伝えしています。そして、なぜ他ならぬ講演者の方にお願いをするのか、そのWhyもです。多忙なところを少なくない時間を割いていただくわけですから、誠意をもってお願いをします」⁠市谷氏⁠⁠。またお金については個々の企画で必要な分のみ徴収し、その都度で使い切るようにしているそうです。

誰でも最初は二の足を踏む、それを受け入れるための環境を準備

今後の方向性としては、⁠広さ」「深さ」をキーワードに掲げられました。広さとは地理的拡大で、東京から地方に活動を広げ、各地域の現場間での知見交換を進めていくことです。深さとはコミュニティがもっと現場との距離を縮めることで、単に勉強会に参加して終わりではなく、コミュニティ活動で得た知見を実務に活かし、その結果をさらにコミュニティに還元していくという、知見のループを早めていくこと。また「DevLOVE2013」とまではいかないまでも、少し大きめの企画開催が準備されているそうです。

最後に市谷氏は勉強会に敷居を感じている人に対して、⁠私も昔は、会社の外に行って何かに参加したり、ましてや主催するなんて、二の足踏みまくりでした」と話してくれました。にわかに信じられない話ですが,やはり最初は抵抗があったそうです。

一方でDevLOVEは前述のとおり新規参加者が多く、あまり内輪感がないため、はじめての人にも参加しやすいのではないかのこと。また勉強会を開催してみたい人も、まずは自分をはじめコミュニティでよく見かける人に相談してみて欲しいとのことです。⁠はじめて参加する人、はじめて運営してみたい人、どちらの方も、DevLOVEでいつでも待っています」⁠市谷氏)とまとめていただきました。

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