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第13回 世界有数のデータプラットフォームを作っていく ―Arm傘下に入ったTreasure Dataがめざすあらたな"ノーススター"

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「世界有数のデータプラットフォームをArmとともに作り上げ,ディスラプター(disrupter: 破壊者)たちに対してファイトバックするチャンスを多くの企業に提供していきたい」⁠ ―8月22日,都内で行われた「Arm Pelion IoT Platform」の記者発表会に,英Armのバイスプレジデントとして登壇した芳川裕誠氏は集まった多くの報道陣を前にこう明言しました。先月までのパブリックな肩書は米Tresure Dataの共同創業者兼CEOだった芳川氏ですが,8月3日に発表されたArmによるTreasure Dataの買収以来,同氏のロールは「Arm IoTサービスグループ データビジネス担当 バイスプレジデント 兼 ジェネラルマネージャ」となっています。

2011年の創業以来,シリコンバレーのスタートアップとして順調な成長を遂げていたTreasure Dataですが,その意外なかたちのイグジットに,筆者も驚きを隠せなかったひとりです。Treasure DataはなぜArm,そしてソフトバンクグループ入りを決めたのか,今後,データプラットフォーマーとしてどんなゴールを目指していくのか ―本稿では8月22日に行われた会見の内容から,Treasure Dataの次のゴールを俯瞰してみたいと思います。

肩書きがArm IoTサービスグループ データビジネス担当バイスプレジデントとなった元Tresure Data CEO,芳川裕誠氏

肩書きがArm IoTサービスグループ  データビジネス担当バイスプレジデントとなった元Tresure Data CEO,芳川裕誠氏

法人としてのTreasure Dataは存続,ブランドとして「Arm Treasure Data」を前面に

7月下旬,海外メディア数社から「英Armが米Treasure Dataを6億ドルで買収か」というニュースが流れました(参考記事:Bloomberg)⁠その数日後となる8月3日,Treasure Dataのブログにおいて,芳川氏自身がArmの傘下に入ったことを公式にアナウンスしています。

ArmによるTreasure Datano買収は8月3日に完了。買収の理由についてArmは,2035年までに1兆を超えるデバイスがつながるなかで,増え続けるIoTデータをスケーラブルかつロバストに格納できるプラットフォームとして高く評価したことを挙げている

ArmによるTreasure Datano買収は8月3日に完了。買収の理由についてArmは,2035年までに1兆を超えるデバイスがつながるなかで,増え続けるIoTデータをスケーラブルかつロバストに格納できるプラットフォームとして高く評価したことを挙げている

今後の組織体制ですが,Treasure Dataおよび日本法人のトレジャーデータは当面,そのまま法人格として存続し,Armグループ,さらにはソフトバンクグループ傘下のいち企業としてビジネスを展開していくことになります。また,シリコンバレーにあるTreasure Dataオフィス,東京・丸の内のトレジャーデータのオフィスも現状のまま残り,Treasure Dataの顧客に対しては(日本,米国にかかわらず)継続的に既存サービスのサポート/アップデートが提供されます。

現在,ArmとTreasure Dataはともにグローバルで「Arm Treasure Data」というブランドを共同で展開していく方針を明確に示しています。たとえば,これまで「TREASURE CDP」という名称で提供されてきたTreasure Dataのデータプラットフォームは,現在「ARM TREASURE DATA eCDP」に変更されており,両社のシナジー戦略が着々と進んでいることをうかがわせます。したがって,別々の独立企業というよりも,ソフトバンクグループにおいてIoTビジネス/データビジネスを推進するひとつの共同体として捉えたほうが適切だといえそうです。

今後はArmとのシナジーを強調し,⁠Arm Treasure Data」としてより多くの企業にデータ基盤を提供していく

今後はArmとのシナジーを強調し,「Arm Treasure Data」としてより多くの企業にデータ基盤を提供していく

また,前述したように芳川氏はArm IoTサービスグループ プレジデント ディペッシュ・パテル(Dipesh Patel)氏にリポートするデータビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャに就任しており,すでにTreasure DataのCEOという役職は存在しなくなっています。他の社員も芳川氏と同様にArmへと所属を移しており,徐々に「Arm Treasure Data」として組織とブランドの一体化が図られていくとみられます。

Arm Pelion IoT Platform - デバイスからデータまでをエンドツーエンドでサポートするIoTプラットフォーム

ArmはTreasure Dataの買収と同時に,新プラットフォーム「Arm Pelion IoT Platform(以下,Pelion)⁠を発表しています。名前の通り,IoTに特化したデータプラットフォームで,もともとArmが提供してきたIoTデバイス管理プラットフォーム「Arm Mbed IoT Device Management Cloud(以下,Mbed)⁠をベースにしている基盤です。

Pelion IoT Platformの概要。デバイスマネジメントにArm由来のMbed,コネクティビティマネジメントにStream Technologies,そしてデータマネジメントにTreasure Dataの技術をそれぞれアダプトする

Pelion IoT Platformの概要。デバイスマネジメントにArm由来のMbed,コネクティビティマネジメントにStream Technologies,そしてデータマネジメントにTreasure Dataの技術をそれぞれアダプトする

Pelionについて,ArmのIoTサービスグループを統括するパテル氏は「⁠オンプレミス/クラウドを問わず)ハイブリッドな環境に対応した業界初のエンドツーエンドなIoTプラットフォーム」と表現しています。ここでパテル氏が言う"エンドツーエンド"とは,⁠デバイス」⁠コネクティビティ」⁠データ」の3つのレイヤを一気通貫でマネジメントできることを意味しています。あらゆるデバイス,あらゆる接続形態(プロトコル)をあらゆる環境でサポートし,さらにそこで生み出された多種多様なデータを,シンプルで一貫したオペレーションとマネジメントの下でシームレスかつセキュアに扱うことができる ―パテル氏はPelionのベネフィットをこう説明しています。

そしてPelionとArmにとって「最後のパズルのピース」に当たる部分がTreasure Dataだったといえます。エンドツーエンドなIoTプラットフォームを支える3つのレイヤのうち,ベースとなる「デバイス」に関してはArmが構築してきたMbedがありましたが,⁠コネクティビティ」「データ」をサポートするにはどの技術が最適なのか ―Armがここで出した答えは買収によってその技術力を手に入れることでした。2018年6月にはIoTコネクティビティ管理のリーディングカンパニーであるStream Technologiesを買収,そして最後のピースとしてのデータレイヤを任せるプラットフォームとしてTreasure DataのCDP(Customer Data Platform)を選びました。パテル氏はTreasure Dataについて「2011年の創業以来,ロバストでスケーラブルなデータプラットフォームを構築し,世界中の名だたる企業を顧客とすいてビジネスを展開してきた実績を高く評価した。Treasure Dataであれば,Pelionのユーザはどこにいてもインサイトをリアルタイムに得ることができるだろう」とコメントしています。

Arm IoTサービスグループ プレジデント ディペッシュ・パテル氏

Arm IoTサービスグループ プレジデント ディペッシュ・パテル氏

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Twitter(@g3akk)やFacebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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