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第16回 100年に一度の変革期をどう乗り越えていくか―トヨタとNTTグループが挑むコネクテッドカーの未来

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数年後には数百万台にも達するといわれているコネクテッドカーの世界。つながるクルマの数が増えれば,当然ながら生成されるデータも爆発的なボリュームに達することは明らかです。しかし,コネクテッドカーが生成するデータを収集/蓄積し,活用していくためのスタンダードな技術は確立されておらず,このままではコネクテッドカーが普及してもデータ基盤整備が追いつかない状況になりかねません。

現在,自動車業界は"100年に一度の変革期"を迎えていると言われています。そしてコネクテッドカーもまた,自動車業界のターニングポイントを象徴する重要な技術トレンドです。この大変革期をモビリティカンパニーとしていかにドライブしていくのか ―本稿では9月5日に東京・品川で行われた「NTTデータ テクノロジーカンファレンス 2019」の基調講演でトヨタ自動車 コネクテッド先行開発部 InfoTech室長 前田篤彦氏が語ったトヨタが描くコネクテッドカーの未来とNTTグループとの協業についてレポートします。

「NTTデータ テクノロジーカンファレンス 2019」基調講演で登壇したトヨタ自動車 前田篤彦氏

「NTTデータ テクノロジーカンファレンス 2019」基調講演で登壇したトヨタ自動車 前田篤彦氏

「所有から利用へ」―MaaS企業への道のり

カーカンパニーからモビリティカンパニーへ ―トヨタに限らず,世界中の自動車メーカーは現在,"クルマを作る"企業から"サービスとしての移動を提供する"企業へと変貌しつつあり,カーシェアリングやライドシェア,オンライン配車サービスなどを含むMaaS(Mobility-as-a-Service)の推進に力を入れています。⁠すべての人に移動の自由を,歓びを ―トヨタはそのためにクルマ会社を超え,これまで付き合いがなかった企業とも提携し,人々のさまざまな移動を助ける"モビリティカンパニー"へと変わっていかなければならない」と前田氏は語っています。

MaaSがこれまでの自動車メーカーが作り上げてきたクルマ文化と決定的に違うのは"所有"ではなく"利用"をベースにしているという点です。"as-a-Service"という表現にあらわれているように,MaaSを構築する技術のベースはクラウドであり,そこで提供されるサービスはクラウドの基本コンセプトである"必要なときに必要な量を提供する"という考え方に基づいています。したがって自動車メーカーには工業製品としてのクルマを製造/販売するだけではなく,クルマを快適な移動手段として使い続けるためのサービス,それも公共交通機関や他業種の事業者とも連携可能な,オープンで統合的なプラットフォームをベースにしたサービスを提供することが求められるようになってきました。

MaaSへと向かう自動車業界の変化を象徴するキーワードとして,数年前から見かけるようになったキーワードが「CASE」です。⁠コネクテッド(Connected⁠⁠自動運転(Autonomous⁠⁠シェア/サービス(Shared & Service⁠⁠電気自動車(Electric⁠⁠」の頭文字を取った造語で,トヨタもこのCASEを前提にしたMaaS事業を展開しています。

たとえば走行中に警告が点灯した車両に対し,トヨタスマートセンターに蓄積されたビッグデータをもとに車両データ解析や走行可否判断を実施,走行アドバイスやヘルスチェックレポートを通知する「eケアサービス⁠⁠,走行距離や安全運転スコアに応じて保険料を決定する「トヨタつながるクルマの保険プラン⁠⁠,GPSの測位情報と走行中の車両から得られるリアルタイムデータを組み合わせ,高精細な3次元地図をダイナミックに作成し,道路情報をリアルタイムに配信する「ダイナミックマップサービス」などは,トヨタがCASEというコンセプトの下で新たに取り組むモビリティサービスとして位置づけられています。

トヨタが提供するモビリティサービスのひとつ,走行中のクルマに車両診断や走行アドバイスをリアルタイムで行う「eケアサービス」

トヨタが提供するモビリティサービスのひとつ,走行中のクルマに車両診断や走行アドバイスをリアルタイムで行う「eケアサービス」

コネクテッドカーの収集データを裏付けとする新たなサービス基盤の構築

こうしたトヨタの新しいモビリティサービスの基盤が「MSPF(モビリティサービスプラットフォーム⁠⁠」で,そのコアにはコネクテッドカーが収集するデータが存在します。トヨタは2018年から同社が製造する全車両のコネクテッド化を開始しており,いまでは「年間400万台ずつコネクテッドカーが増えている」⁠前田氏)という状況にあります。

トヨタが構築する「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF⁠⁠」の概要,コアとなるのはコネクテッドカーが収集する膨大なデータ

トヨタが構築する「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」の概要,コアとなるのはコネクテッドカーが収集する膨大なデータ

コネクテッドカーが増えれば,クルマが生成するデータ ―センサーから収集されるプローブデータやECU(Electric Control Unit)データ,ダイナミックに生成される地図データ,周辺情報のセンシングデータなども増え,それらを収集/蓄積/活用する基盤にもスケーラビリティが求められるようになることは明らかです。⁠収集するだけでエクサバイト級に達する,しかもその種類が多岐に渡る膨大な量のデータに対し,モビリティカンパニーとしてどう向き合うべきか」⁠前田氏)―ここでトヨタが出した答えがNTTグループとの協業でした。

2015年夏にNTT研究所と交流を開始したのをきっかけに,2017年3月には正式にコネクテッドカー向けICT基盤の研究に関する協業を発表。おもに

  • データ収集/蓄積/分析基盤
  • IoTネットワークデータセンター
  • 5G,エッジコンピューティングなど次世代通信技術

の3つの領域において,両グループでもって複数のワーキンググループを構成し,各社の強みを活かした研究/開発が行われています。2018年12月からは500万台規模の実車両を仮想空間に接続する大規模な実機検証(実証実験)も始まっており,ワーキンググループで検討した成果を実機で検証するというサイクルを短期間で回しながら,新たな課題の抽出(後述)に取り組んでいます。

トヨタがNTTグループをコネクテッドカー事業のパートナーに選んだ理由について前田氏は「NTTグループと挑めば,大きな課題が解決できるに違いない」と確信したからだと語っています。トヨタグループでは1935年に創始者の豊田佐吉の考え方を「豊田綱領」として5カ条にまとめており,現在でもこれを経営の核に位置づけていますが,NTTグループの文化はトヨタの経営方針と親和性が高く,⁠同じ思いを共有できると感じられた」⁠前田氏)ことが協業を前に進めた大きな要因となったようです。

本実証実験におけるNTTグループおよびトヨタグループの協業メンバー。コネクテッドカーのデータ基盤はおもにNTTデータが担当する

本実証実験におけるNTTグループおよびトヨタグループの協業メンバー。コネクテッドカーのデータ基盤はおもにNTTデータが担当する

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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