前回は現場から少し視点を変えて、トップの腹くくりと改善の位置づけについて話をしましたが、予想外に反響が大きく、我々も業務改善に関する諸問題の根は、決して現場だけではなく企業活動全体の課題であると、再認識した次第です。
今回は、再度、場面を現場に戻して、原因分析について考えてみましょう。
急がば回れ!
第3回の図1 「業務改善の流れ」を思い出してみましょう。
下記のように3つのステップがありました。今回は、「2nd. Phase:考える」を扱います。
- 「1st. Phase:現状を知る」
- 「2nd. Phase:考える」
- 「3rd. Phase:変える」
「考えるプロセス」は、業務改善に早く着手したい、早く改善効果を出したいと思っていると、省略されたり、十分な時間が取られないこともあります。「1st. Phase:現状を知る」において、現状の業務プロセスが業務フローとして可視化できた段階で、「仕事の流れもわかったことだし、さぁ、これから改善に入ろう!」となりがちです。
スピードは大事だが省いてはいけない「考えること」
業務改善の重要な成功要因の1つにスピードがあります。
現状調査・分析にやたら時間がかかって、調査をしている間に事業や経営環境が変わってしまい、それに伴って業務プロセスもつぎはぎ状態に変更されて、ぐちゃぐちゃになってしまう場合も少なくありません。
かといって、早く現状調査を終えて、業務改善に向けた具体的行動を取りたいがあまり、よく原因分析を行わずに改善を実行すると、的外れなことをやらかしたり、必要のないシステムを導入してしまいます。結果、さっぱり効果が上がらずということもあります。
業務改善は環境変化が激しい現在において、もたもたしているわけにはいきません。着手は1日でも早いに越したことはありません。しかし、改善が必要な背景には問題があり、その問題を起こしている原因を取り除いてやらなければ、いつも火消状態のモグラ叩きとなります。
スピードは大事ですが、「考えること」は短縮できないプロセスです。それが、今回お話する「原因分析」です。
問題を見つけて即解決、にはならない
業務改善において、
- 業務上の「問題を発見する」→「問題を解決する」
現実に、このような2つのステップで解決するほど、企業内の問題は単純ではありません。問題の解決策を見出すためには、問題を引き起こしている原因を突き止め、この原因をつぶすための対策を打ち出し、解決に臨むはずです。したがって、何が原因なのか?原因が見つかったら、どうやって解決するのかと、あれこれ考えるプロセスが必要となります。
たとえば、皆さんの会社の中で、「職場の問題を出してみよう」と上司に言われた場合に、どのような言い回しで問題が出てくるでしょうか?簡単な例で、月末の請求締めを見てみましょう。
- Aさん:「締め作業ができません」
- Bさん:「各部門からの請求データに未入力の部分があるから、締め作業ができません」
- Cさん:「未入力がある請求データを受け付けないようにシステムを改修すれば、締め作業はできます」
Aさんは、“問題”のみを言っています。Bさんは、どうやら“原因”がわかっているようなので、“問題”と“原因”を同時に言っています。Cさんは、具体的な解決策までイメージできているようなので、“解決策”まで言っています。
この段階で、上司が、「じゃあ、Cさん。早速、システム改修に取り掛かってくれ」と言うのも早すぎるでしょうし、「解決策がわかっているなら、サッサとやれ!」と言われたら、「言わなきゃよかった」となるかもしれません。
ここで考えたいのは、「問題は何か?」ということです。問題は締め作業ができないということでしょうか。締め作業ができない結果、どのような困ったことが起きるのかまで考えると、締め作業ができないことは、もしかするとまだ“原因”の1つかもしれません。
もしCさんが不在で、AさんとBさんだけの話だけで、上司が「では、どうしたらいいんだい?」と聞いたら、このように答えるかもしれません。
- Aさん:「各部門の責任者から担当者に注意をしてもらいます」
- Bさん:「未入力をなくします」
これを聞いた上司が、じゃあ、「早速それで問題解決をしてくれ」となったら、それは軽薄な上司でしょう。では、Aさんに対しては「注意だけで直るの?」、Bさんに対しては「どうやってやるの?」と突っ込んでいたらどうなるでしょうか?
問題の解決策が変わってきませんか?問いと答えの繰り返しによっては、Cさんと同じような解決策が出てくるかもしれません。
安易な解決策を作らないために
我々は以前、あるメーカーの電話受注業務を受託しているコールセンターから、「毎回、同じミスが発生し、どうやっても直らない」と責任者の方から相談をもらったことがあります。
このような受託業務でセンターを運用しているベンダーは、ミスが多発すると、メーカーのほうから契約を解除されたり更新を打ち切られたりすることも珍しくありません。当然、大勢いる電話のオペレータのうち、正社員はまだ配置転換できるものの、パートやアルバイトはほとんど解雇です。派遣であれば打切りとなります。ベンダーとしては死活問題であり、オペレータも職を失います。
我々が責任者から「ミスを起こした場合、再発防止策として何をしているんですか?」と聞いたところ、「ミスをしたオペレータから始末書を取ります。再発防止として、オペレータ教育を徹底させます。これらを業務改善報告として顛末書と一緒にメーカーに提出します」とのことでした。本人の始末書と教育だけで、解決できると考えているこの責任者にはあきれましたが、意外とこのような「本人に言って聞かせます」という安易な解決策は、あちこちで見られます。
たとえば、いつもミスを犯す人が同じなら、その人の資質や仕事に対する姿勢の問題かもしれません。この場合は、言って聞かせても、効果がないのは目に見えています。同一プロセスでほかの人も同じミスを犯すのなら、原因は人に起因するものではなく、何かプロセスや仕組み的な問題があるのではないかと疑います。
このように書くと、「そんなの当たり前じゃん」と思う皆さんも多いでしょうが、最近は残念ながらこのように「何も考えていない人」が増えてきています。要は問題を問題として認識できず、問題を掘下げたり、切り分けたりすることも苦手。できれば自分は関わりたくない……そう、本連載が対象としている無関心状態な現場では、どうせ「言ってもムダ」なので、表面上のその場しのぎの安易な解決策を打ち出します。そして、これがほとんど解決策にならないまま、業務改善に着手してしまうので、同じ失敗を延々と繰り返してしまいます。
それって問題ですか?
図1をご覧ください。ピラミッドのような絵が描いてあります。
など、どこの企業でもあっておかしくないことがいくつか書いてあります。これを皆さんは「問題」と捉えますか?問題だとすれば、どのように解決しますか?
企業としては、売上、利益など、ピラミッドの上の部分は大きな問題であることは間違いありません。あなたが経営者ならなおさらです。
じゃあ、どうするのと解決策を問われ、「売上を上げること」「利益を出すこと」「製品に不具合を出さないようにすること」……では、言葉の裏返しで何ら解決策にはなっていません。
では、もう1歩踏み込んで考えると、売上が落ちる理由は何かということになります。たとえば、製品そのものの競争力が他社と負けている、プロモーションが足りないなどです。利益が出ないのなら、固定費率が高い、コストが高いのかもしれません。
したがって、これら水面下に潜んでいるまだ顕在化していない問題を、きちんと問題として認識をしないと、具体的な解決策を取れなくなります。
先の例のように、オペレータに注意をして直るのであれば苦労はいりません。
「売上が落ちたことが問題だから、売上を上げることが解決策だ。だから、とにかく売れ!」などと言う営業トップがいたら、部下は悲惨です。「それができれば苦労しないよ!」と恨めしく思うだけです。
本質的な解決に至らないその場しのぎの対処療法にならないために、「考えるプロセス」は欠かすことができません。
現象に対して対策を打つな
このように、目で見えている問題はほとんどの場合、問題があることによって引き起こされた“現象”です。
現象は問題ではありません。あくまでも、問題があなたの目に見える形で入ってくるだけです。大事なことは、問題を引き起こしている原因を突き止めることです。そして、原因に対して解決策を一所懸命考えて、対策を打つことです。
問題の捉え方ひとつで解決策は異なってくる
「売上が落ちた」だけでは、具体的な解決策を見出すことはできません。
では、一段階掘り下げてみて、「製品に競争力がない」となると、競合製品と比べてどこか自社製品が劣っているはずです。性能なのか、搭載機能なのか、操作性、信頼性、デザイン、価格など、さまざまな物差しで優劣を見比べるはずです。どこで負けているかわからないと戦いようがありません。さらに普通は、それですぐに機能追加や新製品開発となる前に、市場や競合を調べたりします。
自社製品だけでなく、競合製品の売上も落ちているのなら、マーケットそのものが飽和状態で頭打ちですので、新製品を投入しても売上は上がらない可能性が大です。
このように、問題の捉え方ひとつで解決策そのものが異なってくることをまずは知っておきましょう。
因果連鎖、原因と結果
“因果関係”という言葉があります。意味は原因とそれによって引き起こされる結果の関係性です。原因があるから結果が存在します。
これを先ほどの現象と問題に当てはめて考えてみると、「問題が原因」で「現象が結果」になります。現象は問題ではないので、問題を引き起こしているものは何かと考えるとそれが原因になります。さらに、原因にはより深い原因が存在する場合がほとんどで、深ければ深いほど見えにくくなります。
そして、因果関係は連鎖しています。問題を明確に把握し、把握した問題をきちんと解決するためには、原因をいかに深く掘り下げられるかが重要になります(図2)。
根っこをつぶす
問題が複雑になればなるほど、原因は多岐にわたります。1つの原因がほかの原因に影響を与えている場合もあります。
そこでさらに、「なぜそうなっているのか?」を何度も問いかけて、原因の掘下げを行うことで、本質的な"根っこの原因"に突き当たります(図3)。
我々は、本質的な原因を突き詰めて、
- 「解決をしないといけないという認識が伴った問題=課題」
と呼んでいます。
お話するのはもう少し先になりますが、この課題そのものをカテゴライズして、タスクにすることが改善の実行計画のタタキにもなります。
原因分析ができない現場では
無関心な現場では、周囲への関心度が極度に低く、問題の掘り下げも得意ではありません。自分の担当業務以外にも関心がありません。だからといって、原因分析が得意な人が、無関心な現場の業務分析などをやってしまうのもよくありません。
その理由は簡単です。業務改善の実行段階になったところで、無関心な現場はなかなか動きません。第2回では、"気づきのプロセス"と"自分が困るプロセス" を意図的に仕掛けていくと書きました。
できる人が原因分析を行ってしまうと、無関心な人は頼り切ってしまったり、改善ができなかった際の保身上の理由として、「自分が原因分析したものではないし、自分はほかに原因があると思っていた」などと、変なところの自己主張をしてしまいます。ていのいい言い訳に、原因分析が使われてしまいます。
第5回で、「自分の業務は自分で書け!」と言ったように、自分の業務、原因分析は原則、自分自身で行うものです。自分たちで業務フローを作成し、ほかのメンバーにも伝えたわけですから、途中から原因分析を他人に任せるのはカッコ悪いものです。この特性を上手に活かしましょう。
無関心な現場を現場主導とするために
次のようなところまで進めばしめたものです。
- (1)「自分たちで業務フローを作る、現状業務を調べて可視化する」
- (2)「自分たちで問題の掘り下げ、原因分析を行う」
自分たちで掘り下げた原因を放置すると自分自身の首が締るので、解決策も出さざるを得なくなる=考えざるを得なくなります。
この解決策については、次回、お伝えします。