業務改善が進むにつれて、仕事のやり方を変えていかなければなりません。常に現場の「もっとうまいやり方はないのか?」という問題意識や向上心、創意工夫で改善は成り立ちます。改善にゴールがあるわけではありません。
改善文化、すなわち継続して成長をし続ける組織風土が定着する組織になるか否かは、経営者をはじめ、現場の皆さん次第です。時には目の前に大きな障害も立ちはだかるでしょう。そして、業務改善をより大きな企業活動としていくためには、もはや「改善」ではなく「改革」レベルまで踏み込むことも必要となります。情報システムにも影響します。今回はこのような話をしていきます。
仕事のやり方を変える
業務改善を行うと、少しだけ業務プロセスが変更になる人もいれば、大幅に変更になる人も出てきます。
業務改善の活動に直接関わっていた人とそうでない人との、それまでの活動経緯や効果に対する情報量の差は、いくら社内広報(第7回)で見ていた・聞いていたとしても温度差が生じるので、多かれ少なかれ拒絶反応が生まれる場合があります。とくに、既存のやり方に慣れ親しんだ人ほど、変化への抵抗や微妙な不納得感はぬぐえないものです。
我々は、仕事のやり方を変えることは"人と人の向き合い方を変えること"と言います。従来の仕事のやり方から、新しい仕事のやり方に変えていくパラダイムシフトの中で、今までとは違うコミュニケーションが求められます。そのためには、お互いに自らのコミュニケーションスタイルを変えていくことが重要で、業務改善の責任者やリーダーはこれらの啓蒙的な活動も率先してやらなければなりません。
情報システムとの関係
多くの業務は何らかの情報システムを使いながら行われています。業務改善を行うと、改善後の業務プロセスでは、今まで他部門が行っていたデータ入力業務を自分で行わなければいけなくなる場合もあります。
たとえば、既存顧客データベースのお客様に営業担当者が訪問し、契約を獲得した場合、今までは顧客データベースへの獲得情報の反映は、営業支援のアシスタントが行っていました。したがって、営業マンは受注したという電話をした後に、時間帯によっては会社には戻らずに直帰できていました。しかし、新しい業務フローでは営業マンが獲得情報を入力することになり、その作業のためだけに会社に帰社する羽目になり、営業マンから不満が出る場合があります。
あくまでも一例ですが、業務改善はこのような問題が発生する可能性も潜在的に秘めています。全体最適の観点から見れば便利になっても、営業マンからすれば"直帰できなくなった"ことに対する不満のほうが大きく表れてしまい、事項段階でブーイングが出ます。しかし、ここで「営業部門から不満が出るからやめる」と逃げていては何も解決しません。
全体として良くなるのであれば、原則、会社の意思決定としてはやるべきです。また、工夫のしどころも残っているので、知恵も絞りましょう。帰社しなくともデータを入力する仕組みができないか(社外からSFA経由で顧客データベースにアクセスするなど)を考えたり、18時以降の商談の場合は当日帰社せずに翌日の10時までにデータを入力すればよいルールにするなど、運用でカバーをすることが考えられます。
業務改善から業務改革へ
次に、現場レベルの活動から、もう少し大きく全社的な改革を行う場合を考えてみましょう。ちまたには、改善と改革の意味の違いなど問われる場合もあります。ここでは漢字の意味を問うているわけではないので、我々は「より深く経営を巻き込んだ全社的な業務改善を"業務改革"と定めています」。
業務改善はボトムアップ的な側面が強かったですが、"業務改革"はトップダウンです。しかし、現場が行うことには変わりないので、ボトムアップ的要素の強い新しいトップダウンとも言えます。第2回、第3回、第5回で「ハードとソフトの両方が大事」と書きましたが、トップダウンであろうがなかろうが、ソフトの領域である「組織風土」や「コミュニケーション」と言った"魂"の部分は非常に重要です。
「ハード」には「ハート(ソフト)」が必要!
改革をハードに実行することは時には必要でしょう。経営状況によっては一刻の猶予もない場合もあります。ただし、"魂"の部分は大事に、経営者が生の声で理念や思いを現場に語る。未来のビジョンやロードマップを示す。とても大事なことです。「ハード」であっても「ハート(ソフト)」がなければうまくいかないのは同じです。これまでに何度もお話しているように、現場が「やらされ感」を感じることなく、自発的・自主的に取り組むには「本気モード」のスイッチをいかに入れるか?すべてはこの動機づけいかんです。
さて、ここでGE社(General Electric:ゼネラル・エレクトリック社)の改革で有名は「ワークアウト」から少し学んでみましょう。
ワークアウトから学ぶ
ワークアウトとは、かつてGEのCEOだったジャック・ウェルチ氏が1988年に提起した概念です。システムから余分な「仕事(ワーク)を取り除く(アウト)」ことによって、当時のGEにはびこっていた悪しき官僚主義を根絶し、働く人たちの時間を自由にするという考え方が名前の由来です。
変化を尊重し、組織学習を重んじるGEが、現場に近いところへ問題解決と業務改善をエンパワーメント(権限委譲)し、迅速かつ集中的に意思決定するためのプロセスとして、根づかせてきました。GEは1990年代に入ってワークアウトが日常化し、1992年にはチェンジアクセラレーションプロセス(CAP)へと発展し、全社的な業務変革に取り組むための体系へと進化しています(図参照)。
GEの学習活動は、基本的なワークアウトからシックスシグマに至るまで、次のような7つの段階を経て進化しています。
表1 学習活動の進化(GE社)
第1段階 | ワークアウト:「RAMMPマトリックス」 |
第2段階 | ベストプラクティス |
第3段階 | プロセスマッピング |
第4段階 | 変化の加速 |
第5段階 | 戦略的構想 |
第6段階 | 顧客を勝者に |
第7段階 | シックスシグマ品質 |
第1段階は、「RAMMPマトリクス」と呼ばれ、徹底的に今までの仕事のやり方や業務プロセスの必要性を徹底的に追求します。
表2 RAMMPマトリクス(GE社)
R | 報告書(Reports) | この報告書は本当に必要なのか? |
A | 承認(Approvals) | 決定事項にこんなに多くの承認が必要なのか? |
M | ミーティング(Meeting) | このミーティングは本当に開く必要があるのか? |
M | 行動(Measure) | 目に付く(見てわかる)行動は何か? |
P | 制度(Policies and Procedures) | モチベーション向上、効率化に役立っているか? |
社員に対する動機付け、モチベーション向上の重要さを常に判断基準として定めていることがよくわかります。
業務プロセスの悪さ加減、実力、バラつきを統計的手法で定量的に測定し、改善活動を通じて継続的にモニタリングをしていくことは、まさしく業務改善です。この業務改善を会社が認め、支援し、全社で取り組む"業務改革"へと発展させていきます。
障害を越える
"業務改革"をはじめ、何らかの変革を行う場合には常に課題がつきまといます。相当なエネルギーも必要となります。改革は長続きしないと言うよりも、改革に関わるメンバーが途中で息切れを起こし、長続きできないと言うほうが正しいでしょう。
これまでにリーダーや責任者、そして経営の支援などを述べてきましたが、これらが継続的に存続しないと「業務改革」だけでなく、様々な変革は自然消滅か結果を出せないまま終えることになります。
ピーター・センゲ(Peter Senge)の『The Fifth Discipline』から「学習する組織」という観点で考えてみましょう。
「学習する組織」から学ぶ変革の阻害要因
「学習する組織」の"10の変革課題"からいくつか見ていきましょう。
組織が変革を行う場合、段階に応じてそれぞれの課題が生じます。とくに初期段階では以下の4つの課題に直面するケースが多々あります。皆さんも心当たりがありませんか?
- ≪課題1:時間がない≫
- メンバーの変革活動に注力すべき時間が確保できないと、変革活動の優先順位が下げられてしまい、前に進まない最大の言い訳に使われます。「こんなことをしている時間はない」という発言が出る場合もあります。
- ≪課題2:孤立無援≫
- 変革活動はグループ、あるいはそのメンバーだけで進めることは困難であり、さまざまな「支援」が必要となります。支援する、あるいは支援を受ける土壌と体制が整っていない、「誰も助けてくれない」状態の場合、グループは十分な成果があげられず、孤立感と徒労感で徐々に減衰していきます。
- ≪課題3:意味がない≫
- 変革の必要性や意味がグループのメンバー、あるいは組織内に十分に共有されていない場合、メンバーは変革の目的を自分と結びつけることができず、モチベーションを維持することができなくなってしまいます。「こんなものは意味がない」という状態に陥ります。
- ≪課題4:言行不一致≫
- 変革のリーダー、支持していると見られるリーダー、とくに経営層やグループのリーダーの姿勢や本気度合い、価値観などに言行不一致が感じられる場合、変革活動に関する信用が低下し、メンバーのモチベーションが低下します。「言っていることとやっていることが違う」ということです。
"業務改革"を進めていく過程において、これら改革課題を常に潜んでいることを肝に銘じ、ここまでで述べてきたことを作り上げていくことが改革課題クリアのポイントとなります。
「困る仕組み」と「困り合える関係性」をいかに築くか?
業務改革による業務フローや様々なプロセス、仕組みの変更には、「以前の業務プロセスのほうがよかった」と発言し、なかなか新業務フローに切り替えない人や部門が出てくる場合があります。業務改善や改革にはさほど積極的でなく、意見や提案は皆無だったにも関わらず、いざ実行段階でかたくなに拒否する人です。
第2回で書いたように、このような場合には、新業務フローで業務をしないと本人が困る仕組みやプロセスにします。食わず嫌いもあるので、半強制的に土俵に乗せてしまいます。
一度にすべての人が変わるわけではありません。また改革に痛みはつきもので、変化に順応できない人、拒否し続ける人も出てきて当然です。すべての人を船に乗せるのではなく、乗る意志のある(=変わる意志のある)人を会社という船に乗せるということと同じです。
さて、業務改善から業務改革、それに対して出てくるさまざまな障害や課題は、すべて人と人の関係性です。同じような改善や改革を家族内で行う場合、時間がないとか孤立無援で一人ぼっちにさせるなどしないでしょう。同じことが会社組織でできないのはなぜでしょうか。それは、信頼できる関係性・土壌ができていないからです。
信頼している人や家族には弱さを示す、弱い自分を見せることはします。なぜなら、安心できるからです。弱さを見せるときに、一緒になって悩んでくれる、困ってくれる、そういう"困り合える関係性"は相当な信頼関係が構築されていないと不可能です。
だからこそ、業務改革などを通じ、企業内で困り合える関係性を構築し、維持できる組織は、継続的に成長と発展を遂げていくことでしょう。
「言いだしっぺ」になれるか?
業務改善も業務改革も、最初は小さな気づきや個々人の問題意識です。問題が小さいうちに、きちんと報告をする、対策を打つことが重要です。
言い出しっぺはときに"出る杭"と思われがちです。余計なことは言わない方がよいと思わせてしまうと、組織はどんどん硬直化していきます。マイナス情報が積極的に上に伝わらないのと同じで、やがて企業の存続を脅かすことにもなりかねません。
問題意識を言い出す、言いだしっぺが損をしないように、言ってもよい環境を全体で作り上げていくことが、最大の業務改善であり、業務改革と言えるでしょう。
「無関心な現場で始める業務改善」もいよいよ大詰めになってきました。次回は業務改善で解決できない課題についてお話します。