草花の知恵

第14回「知恵くらべ」

先月のカラスウリにつづいて、つる性の植物をとりあげる。なにしろ、おもしろい生き物であって、ながめていて退屈しない。省エネの元祖だろう。遠い昔から、ほかのものにかきついたり、はりついたり、巻きついたりして生きてきた。その上で遠慮会釈なく葉をつけ、花を咲かせ、実をみのらせる。たくましく生きる知恵に、ほとほと感心させられる。

注意していると、ごく身近にいろいろといるものだ。クズ、クロヅル、ツルアリドオシ、ツルリンドウ、サネカズラ…。テイカカズラ(定家葛)などとおごそかに命名されたのもいれば、アマチャヅル(甘茶蔓)といった愛嬌のある名の持主もいる。山道や野原におなじみのノブドウも代表的なつる性植物である。

蔓蟻通し(ツルアリドオシ)
画:外山康雄
蔓蟻通し(ツルアリドオシ) 画:外山康雄

ツルアリドオシは、書いて字のごとく、蔓・蟻・通し。つる状に地上を這うが、通せんぼをしないで、節ごとにアーチのアキをつくり、ちゃんと蟻を通してやる。

べつだん、アリにやさしいというのではなく、節から根を下ろして、そこからも栄養をとるので、根が茎をもち上げるぐあいになったまでのこと。細い茎から卵形の、やや厚ぼったい葉を対にひろげる。ムカデの脚のように、いくつもの根をのばすわけだから、みるまにまわりを占領する。六月ごろから茎の先っぽに白い花が二つずつ、きちんと並んで出てくる。初夏の風に挨拶するように揺れている。

ツルアリドオシは這うだけでなく、ほかの草木にからみついて伸びていく。葉に特徴があってわかりやすい。三角状の卵形で、先がとがっていてツヤがある。夏の盛りに、葉のわきから、ラッパの形をした青い花が顔を出す。先端が五つに裂けていて、開くと星形になる。薄紫の地上の星だ。

つる性のものはカラスウリと同じように、多くが小さなウリ状の実をつけるから楽しみだ。花がしぼんだあと、忘れたころに、まっ赤な実が下がっている。いったい、いつのまにみのり、熟したのか、キツネにつままれた気がしないでもない。

(クズ⁠⁠ 画:外山康雄
葛(クズ) 画:外山康雄

クズのつるは長い。ときには十メートル以上になる。秋の七草の一つだが、旺盛に伸びるのは初夏のころ。根っこは木質で、木とつるが合体したぐあい。三枚葉を無数につけ、夏の到来を待って、葉の根かたから花序を出し、それを軸にしてふさ状に紅紫色の花をつける。いかにも生命力があふれている。

クズの根からつくったのが葛粉。根を干して粉末にしたのが葛根湯(かっこんとう)で、こちらは解毒剤として使われてきた。

つる性のものは、たいてい外皮と内皮、それに中心が木質というつくりになっている。外側は固いが、内皮にあたるのはやわらかい。クズの内皮を糸にして織ったのが葛布(くずぬの⁠⁠、くずふ、あるいはカップともいう。静岡県の掛川に、昔ながらの葛布の手織工房があって、いちど見学させてもらったことがあるが、ずいぶん手間がかかる。

繊維にするまでが大変だ。採取したクズのつるを、まず釜で煮立てる。そのあと流水に浸し、つぎに地面に掘った室(むろ)で二晩寝かせる。いつのころ、誰が考え出したものか、こうやると外皮と木質部が簡単にはがれる。

取り出した内皮をクズオ(葛苧)というが、これをきれいに洗ってから、米のとぎ汁につける。これがオサラシ(苧晒)であって、晒されて白くなる。繊維状になったのを箸に「千鳥(ちどり⁠⁠」に、つまりジグザグに巻きつけて長い糸にする。米のとぎ汁といい箸といい、ごく日常的な道具が使われたのは、日常の工夫のなかで工程を改良していったせいだろう。

糸が織元に届けられ、あとは糸織りの作業。横糸にクズを用いて、縦糸は綿糸や絹糸で補強する。ハンドバックや財布などの小物、座ぶとんやノレンやカーテン、帽子にも日傘にもなる。手ざわり、見た目とも、しっとりとして上品な味わいがあって、わが国とびきりのブランド品だ。

由来は知らないが、テイカカズラはというところをみると、歌人定家の名をいただいたらしい。初夏のころ、白い五つの花びらに黄色のめしべがついた清楚な花をつける。墓石などもちゃっかりと足場にして伸びていく。いたって要領がいい。

ただし、人間はこのつるの茎と葉を乾燥させて、強壮薬をつくってきた。たくましいつる性植物といえども、知恵くらべでは、とうてい人間にはかなわない。

蔓蟻通し(ツルアリドオシ) 画:外山康雄

蔓蟻通し(ツルアリドオシ) 画:外山康雄

花データ

アカネ科のつる性多年草/花期:6月~7月。地を這う茎から伸びる枝の先に白い花を2個つける。蟻通しに似るが刺はない。

葛(クズ) 画:外山康雄

葛(クズ) 画:外山康雄

花データ

マメ科の多年草/花期:7月~9月。伸びた柄に濃赤紫色の花が多数房状につく。上部の花弁には黄斑がある。太い根からはクズ粉が採れる。

外山康雄「野の花館」だより

「野の花館」小さな花の絵のギャラリーも、5年目に入りました。季節にあわせ、展示する作品を選ぶのも、近頃は届けられた山の花にあわせてになっています。最近は男性のお客さまもふえてきましたので、館内の雰囲気も変化してきたように思えます。女性もそうでしょうが、花の知識の豊富な方とほとんど花の名前も知らない方に二分されているようです。

小生も後者の方でしたので今のような事をして生活しているのは申し訳ない気もします。なにしろ今春初めて、タンポポの日本産を見られたというか、西洋タンポポとの違いが理解できたくらいです。いまだにコブシとタムシバの違いが理解できずイライラなのですが、そんな春も終わってしまいました。今春はコブシが山でほとんど見られず、そういう年は不作との説もあります。暑い日があるかと思うと極端に寒い日があります。ちょっと異常な感じです。

コウゾ(楮)の花描きました。初めての対面です。

(6月7日)

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