はじめに……
今回はちょっと今までとは若干違うテイストの話をしたいと思う。まー、たまにはね。こういう“叫訓”もいかがでしょうか?
若いときの貧乏は財産だ
高校を卒業してすぐにひとり暮らしをはじめた。祐天寺のアパート。玄関、トイレ、炊事場が共同のおんぼろアパート。
もちろん、風呂ナシ。夏場は近所の公園、もしくは目の前にあった小学校のプールに忍び込んで身体を洗っていた。
25年くらい前の話だけれども、家賃は確か1万4千円だったはず。もちろん、それは当時としても格安の物件。大学の知り合いはユニットバス付のワンルームに親の仕送りで住んでいた。
オイラは仕送りをもらっていなかったため(両親がケチなわけじゃなく、オイラが要らないと断った。学費は出してもらっていた)、レンタルビデオショップのバイト代ですべてをまかなっていた。
週6日の勤務。学生時代、記憶のほとんどがバイト先のことだ。大学の思い出がまったくない。ひどい話だ。
ま、大学生にとって貧乏はエンターテインメントだ。まったく、つらくなかった。ゲームみたいなもんだ。実家が金持ちの学生を除いては、大概の大学生は貧乏生活を楽しんでいた。そんな時代。バブル前の話。
ぶっちゃけ、45歳・現在のほうが数万倍しんどい(笑)。貧乏は若いときには財産(貯金)だが、年をとると地獄でしかない……。
コホン。
「フリーター」という言葉のなかった時代
ええと、そう。バイトをしながらいつも不思議に思っていたことがあった。
毎日、毎日、ほぼ365日、平日の昼間にビデオを借りて返してを繰り返すお客さん。
年齢は30代くらい? 普段、何をして生活しているんだろう? そんな気になる男性客が数人いた。
ふうむ。
基本、人は働かないと生きていけないはずだ。仕事がないと生活はできない。
でも……
皆さんのまわりにも“この人、何者?”という人がいるはずだ。
オイラが大学生だったころ、フリーターという言葉はなかった。アルバイターという言葉はもしかしたらあったかもしれないが。
とにかく、大学を卒業したら就職する。それが当然の時代だった。
卒業して就職しないのは大学院に行くか、もしくは……いや、選択肢はなかった。大学を卒業して就職しないなど許されることではなかった。
オイラも例外ではなく、大学を卒業して就職をした。そこに疑問はまるでなかった。いつまでもレンタルビデオショップでバイトを続けていくわけにもいかない。
ある日、珍しく、アルバイト先のオーナーから食事に誘われた。なにかおかしいと思った。「バイト終わった後に時間ある? たまには食事でもどう?」って。そんな、あり得ない。
食べなれないフレンチを目の前に、「卒業したらうちに就職しないか?」と口説かれた。
もちろん断った。
で、これはまずいぞと思い、コンビニで求人雑誌を生まれて初めて買った。
就職活動などしなかったオイラではあったが、求人誌をチェックして気になった会社へ履歴書を2通送った。1通は履歴書の段階で落ちた。
そして、なぜか1通はパスしてしまった。自分の中でもよく整理できなかったが、これでいいんだと思いこませた。
バイトしながら大学生をしていたオイラはいきなりサラリーマンとなることになった。その間、1ヵ月もない。
そして、年月が過ぎていった……。
人生山あり谷あり
約10年、会社員を続けたがいろいろあって会社をヤメることにした。特に会社への不平不満があったわけではない。
理由は簡単なことだ。
好き勝手やるオイラをかばい続けてくれた先代の会長が急死してしまったからだ。
これ以上、ここにはいれないだろうと思った。先はまったく見えなかった。不安ばかりだったけど、そのときは結婚しようと思っていたパートナー(2度目の奥さんとなる人)が助けてくれた。
「3年くらいは食べさせてあげるから、あなたは好きなことをしなさい。絶対に大丈夫だから」、彼女はそう言ってくれた。
会社員をやめて、その半年後には自分で会社を立ち上げ、月刊誌を2誌創刊。レコード会社とも契約を交わした。
ところが……
それも、そう長くは続かなかった。世の中には波というものがある。良いときもあれば悪いときもある。というか、同時だ。
良いときは悪いことが訪れる前触れだ。オイラはそういう風に思っている。
雑誌は廃刊となり、レコード会社との契約も切れた。どうにもならなくなり、会社をたたんで今はフリーランス。
プライベートでもフリーだ(笑)。バツ2の独身男。ふふふ(涙)。もう、こうなったら泣き笑いするしかない。
気づけば誰もいなくなった……。
アッハッハ。
でも、思う。サラリーマン、会社員をやっていて良かったな、と。すごく、いろんなことを学んだ。サラリーマンをやっていなかったらわからなかったことがたくさんある。
今の30代は子供
2012年、フリーターや起業する若者も多い。
うん、それはそれでたくましいとは思うけれども……人生、そんなに焦ることはない。
何度も言うけれども、1回でいい、1回でいいから会社員というのを経験するのも悪くないことだと思う。
普通の話で申し訳ないが、サラリーマンという理不尽な環境を通らないと、絶対に偏った脳ミソになってしまう。これはまかり間違い無い事実だ。
正直、サラリーマン経験をしていない人間と仕事をすると、たまにムムムッ? と思うことが多々ある。これは偏見なのかもしれないけれど、そう思うんだから仕方ない。
すいません、愚痴ではないんですけれど。ぶっちゃけ、そういう30代が多い。だって、30代ってもう大人のはずだ。だけど、今の30代は完全に子供。
ま、お笑い業界でも30代だと若手だしね。
プロ or アマチュア?
高校を卒業したとき、オイラは20代になったら大人。ひとりで生きていかなくちゃ、っと思った。
30代はおじさん、40代はおじさんの後年。それくらいの感覚。50代は隠居?(笑)。
でも、今はテレビを観ても30代、40代の芸人さんが若手気分でふざけてる。確実に年齢の感覚というのがここ数年で変わった。
大人になりたくない、っていう言葉は好きじゃない。
会社や社会に縛られたくないから就職しない?(会社と社会って逆に読むと一緒なのね)。そんなヤングが居心地の好い自分たちの基地という会社・事務所を作り、マンションの一室で仕事(?)をしている。
そんな“ごっこ”につきあっていると疲れることが生じる。自分の好きなことだけを追求するのは危険だ。
オイラは約10年という間、会社員という、ときには納得いかない環境で人との付き合い方や様々なことを学ばせてもらった。
理不尽な荒波の中で溺れそうになりながら、笑顔を絶やさない訓練をした。
やりたいことをやるためには、やりたくないことをしないといけないということも知った。好きな人と会うためには嫌いな人と会わなくてはいけないことも。
ごめんなさい。今回は爺の独り言みたいになってしまって。ただ、なんとなく、このまま進んでいってしまうのが恐いような気がして。きっと、あと10年もすればプロという存在がいなくなってしまうような……。
鬼ごっこはあくまでも“ごっこ”だ。飽きたら黙って居心地の好い、鬼のいない家に帰ればいい。誰にも怒られることのない。
叱られるって必要なことだ。叱られないとわからないこともある……。
叫訓14
サラリーマンを人生で一度は体験してみたほうがいい、
とオイラは思う。