待ち時間
ハンパなく忙しいときはゆっくりとした時間が恋しいものだけれど、ふと予想外に時間がポッカリ空いてしまったときは、その使い方に困ってしまったりする。
ビデオ屋でバイトをしていたときは暇な時間などほとんどなかった。新作の値付、陳列、接客……バイトの時間中は常に動いていた。
雑誌の編集部で働くようになったときに驚いたことは、忙しいときは目が回るほどに忙しいけれど、その波が過ぎると静けさが訪れるということだった。
要は待ち時間っていうことね。
週刊誌を作っていたので、土日も祝日も関係なく休みなく働いていた。でも、妙な時間に何時間も待たなくてはいけないこともある。
超有名な某大物ヴィジュアル系バンドのスタジオ撮影取材のときは実に24時間以上も待たされた。
うん、あれが最高に待った取材だったと思う。だって、マニキュアを塗るだけで5時間待ちなんだもの(笑)。
で、マニキュアが終わったと思ったらヘアメイクで7時間とか……まともな神経じゃあつきあえない。
だけど、当時はしょうがないと思った。そう思わないとやってられなかったのだろう。
ワガママも才能のひとつ?
アーティスト相手の仕事をしていると、理不尽なことなどゴロゴロ転がっている。いちいち気にしていたら心と身体に悪い。
ま、基本、アーティストはワガママなもんだ。ワガママでなければ良い作品もライブもできない。それは事実。
オイラの身のまわりにいるアーティスト(やっぱり、この呼び方って慣れないなあ)、いや、バンドマンも相当のワガママである。
取材で何時間も待たされた挙句にドタキャンされたこともある。でも、不思議と怒れない。逆に待ち合わせ時間の30分前から待っていられたら気持ち悪い。
結局は最終的に素晴らしい仕事をしてくれれば、少々のワガママなど事務所もメーカーもオッケーなわけだ。
バンドマンのワガママといえば、昔、すごい話を聞いたことがあるなあ。これまた超ビッグな某有名バンドの話。
当事者のマネージャーさんから直接に聞いた話なので本当の話。
武道館ライブ当日、某バンドのリーダーは当然のように大遅刻をしてきた。そして、楽屋入りするや否やタイムテーブルを気にして慌てるマネージャーに一言。
「今日の打ち上げは蟹が食べたいからよろしくね」とリーダー。
「はい、わかりました」とマネージャー。
「あ、北海道のじゃないとダメだよ」とリーダー。「なんで、行ってきて」
「は、はあ……」
その後、マネージャーは急いで小型飛行機をチャーターして北海道に行き、打ち上げの時間までに戻ってきたらしい。
このミッションをクリアしないとクビになってしまうと。ナンギだ。でも、それがマネージャーの仕事。
嫁も子供もいる。蟹で仕事を失うわけにはいかない。必死だったらしい。切ないけれど笑ってしまう。
いやあ、グレイトな話だ。
最高のライブをするためには打ち上げの蟹が必要。うん、間違いではない。
やっぱり、ビッグ・アーティストは大きな話を持ってる。脱帽。
オイラなんてマネージャーに発泡酒を買っておいてと小銭を渡してお願いするくらいのもんだ。だから、ダメなんだろう……。
お釣りもらっちゃうし(笑)。
時間のやり過ごし方……
コホン。
ええと、今回のテーマは“待つ”。
雑誌を作っていると作業工程上、どうしても待たなくてはいけない時間が発生することになる。これは仕方ない。
取材で待つこともあれば、デザイン待ちだったり、チェック待ちだったり、印刷所での校正待ちだったりとやたら多い。
そもそも、考えてみれば人生なんて待ち時間ばかりだ。
信号待ち、踏み切り待ち、ATMでの順番待ち。オイラは耐え切れないけれど人気ラーメン店で行列を作ったり、東京スカイツリーの前で並びこんだり……。
遊園地や映画館、福袋にバーゲン、話題商品の発売日。とにかく、人生は待ち続けて終わっていく。でも、順番は必ずやって来る。
もちろん、例外もある。いきなり消えてしまった恋人とか。待ってもどうにもならないケースも。グッスン。
人生の待ち時間、合算すると生涯円グラフにおいてかなりの割合になるはずだ。だとしたら、その時間をどう上手く使うかがポイントとなってくる。
ただボケ~~っと時間を待っていたらムダになる。ま、大概の人は携帯をポチポチして過ごすんだろうけどね。
印刷会社営業課長の一言
電車遅延でホームで待ち往生。苛々して駅員さんに詰め寄る人も多いだろう。でも、そんなときに怒ってもね。感情がもったいない。
あきらめることも大切だ。この時間帯、この駅にいた自分が悪いんだと(笑)。受け入れることって大切。
新入社員だったころ、印刷所で3~5時間待たなくてはいけないときがあった。出張校正ってやつね。
晩飯を食いに行ったり、煙草を吸ったり、雑誌を読んだりして時間をつぶしつつ、遅いなあとムカムカしていたオイラに印刷会社の担当(営業課長)さんが言った。
「退屈かもしれないですけど、待つのも仕事ですよ。僕の仕事なんて待ってばっかりですからね」
この言葉、今でも忘れられない。
それ以来、仕事でもプライベートでも待つのは苦痛ではなくなった。逆に待たせるほうが心痛む。なので、オイラは待たせない。
そういう人間にしてくれたのはあの一言。
本当に心底、感謝している。まあ、向こうは覚えてないだろうけど。缶ビール飲みつつ、競馬新聞読みながらの言葉だったから。