ピロートーク(枕話)
過去に受けた取材のオファーのことを思い出してみた。今でも覚えていて、笑えるのは某事務所からのプロモーション。
「イノマーさん、今度、うちから出る新人アーティストがいるのですが、一緒にホームレス体験という企画はいかがでしょうか?」
「はあ……」
確か編集長になったばかりの頃だったと思う。申し訳ないと思ったがさすがにそれは丁重にお断りした。
どうやら世界各国を放浪していたアコースティック・ミュージシャンをデビューさせるらしい。アーティスト写真を見たら仙人のよう。業界用語で“復活の日”。
発想は素晴らしいが、あまりにもパンチが効き過ぎている。そのまんまじゃねーか!(笑)。あれはウケたなあ。デビューさせて、売る気があるのか!?と感動すらした。
ま、やってもよかったんだけど。
だけど、それくらいのパッションというか、ムチャクチャなやり方ってありだよなあ。90年代的だったのかもしれない。
いちばん冷や汗をかいたのは、打ち合わせだと聞いて代々木にあったホールに行ったら、そのまま吉本興業の若手が出る大喜利に出演することになっていたときのこと。
演者札の中に自分の名前を見て愕然とした。審査員とかじゃない。普通に会場に行って1時間後には客前のステージ、座布団の上。
しんどかったのは、取材でゴキブリを食べたときかな? 苦くて、2~3日は口の中が気持ちが悪かった。
そんな日々。
でも、そういったことを編集長というのは経験しないといけない。って、そんなこたーないか……オイラだけだ。
テレビ業界は“食”ブーム
いや、違う。今回はそういう話ではない。ちと、思い出したので書いてしまった。
コホン(エヘン虫)。
最近、テレビを観てて思うことが。料理番組というか、食レポ番組ってやたら多くないッスか? あれ、困るんだよなあ。
観ていると、深夜でもお腹が空いて食欲がフツフツとわき上がってしまう。昨日も、録画していた番組を観ていてついつい、チキンカツを作り食べてしまった。朝の4時。
そう、作るというよりも食べる番組がやたらと多い。ちょっと前までは作る番組だったのだが、今の主流は食べる番組。
昼なんてほっとんどそうだ。女性アナウンサーが食べて、食べて、食べまくっている。大したもんだ。
タレントさんも食レポが上手な人が重宝されている。ま、それもひとつの芸なんだと思う。食関連の無い情報番組なんて成り立たなくなってるからね。どこそこの飯屋がオシャレだとか、美味いとか、安いとか。
最近では健康関連や化粧品関係会社の社内食堂まで注目をあびて、メニューやレシピ本がバカ売れしている。
よそん家の台所が気になる感覚なんだろう。覗き見プレイ。突撃隣の晩ごはん。わからないでもない。
そんでもって、やっぱり、そういう美容系会社の社内食堂のメニューはカロリーが低くて美味そうな定食が揃っている。オイラがサラリーマン時代なんて3食がマクドナルドだった。ナゲットのソースを変えるくらい。
ゆっくりメシを食ってる時間などなかった。女性編集スタッフもそう。マックを片手にパソコンに向かってた。
頭の中のショップ・リスト
人間の3大欲のひとつである“食欲”。
まー、初めて女のコをデートに誘うのも、「今度、一緒にゴハンでもしようよ」だもの。
仕事でもそう。「近いうちに、打合せもかねつつ食事でも一緒にどうですか?」
3大欲の残り2つのキーワードを使ったら大変なことになる。
食事!
これがいちばん使い勝手が良いんだなあ。そして、相手も悪い気はしない。
オイラの知っている、社会的に成功している人たちは大概、お気に入りの店を数軒持っている。「それでは、○○で待ち合わせしましょう。ちょっと良い店があるんですよ」
そう、これ! この「ちょっと良い店があるんですよ」というフレーズ。
大人だ。
飲みの席、食事の席というのは仕事上、大切でもある。打ちとけるにはもってこいだ。別に夜ではなくても、お昼にゴハンをしながら話を……なんてパターンもある。
そのときにさらりと「ここどうでしょう?」と相手の好みに合わせて、それなりの店をエスコートできる。これも立派な仕事だ。
こういうの上手い人、いるんだよなあ。それだけで、仕事できる人だと思ってしまう。
オイラなんて『餃子の王将』とか『日高屋』しか思い浮かばないもの。いや、両方とも人気のグレイトな店だけど、さすがに打ち合わせには難しいかもしれない。
ちなみに、オイラのバンドのギタリスト(50歳)は彼女との最初のデートはチェーン店の牛丼屋さんだったらしい。
あからさまに嫌な顔をされたとのこと。
TPOって必要だ。
仕事ができる男、そしてモテる男というのは自分だけの勝負店を持っている。美味しいものを知っている人間っていうのは強い。
料理ができる男はデキル男
そして、もっともっと最大級に仕事ができてモテる男というのは自分で料理を作ってホームパーティーでふるまえる男だ。
ちと、うざいと思うかもしれないが、そんなことはない。
食材を買って、調理して、洗い物までする男に悪いヤツがいるわけがない。
だって、魚を三枚におろせる男で仕事ができない野郎なんてあり得ないもの。魚を三枚? ブツ切りに3ブロックに包丁で切る輩なんてザラだ。
料理はしないと断言する男ってどうなんだろう?と思う。ただの面倒くさがり屋だ。
オイラの知っているバンドマンには料理が好きで上手な人間が多い。
料理はセンスだ。だから、逆に言えば料理が下手なバンドマンというのはダメなんじゃないかとすら思う。
曲作り、ステージ作り、それは料理にも通じるものだ。感覚だもの。調味料の加減とか、火加減とかね。
何を美味しいと感じ、何をおもしろいと取れるか。そして、そのための段取り。それをエンターテインメントとして人さまに提供できるまで持っていく力量。
料理も仕事も手ではなく、脳ミソとハートで行うものだ。もちろん、そこにはちょっとした才能も必要なんだけど。