読者さまは神様です……
雑誌には読者ハガキというものがある(あった)。ちなみに,オイラは出したことがない。学生時代は『宝島』,『DOLL』,『FOOL'S MATE』……なんていう雑誌の熱心な読者だった。ま,それ以外にも月に10誌以上,男性なら理解してもらえるであろう雑誌を購入していたけど(これはしょうがない)。
音楽誌,サブカル系誌,成人誌と合わせて1ヵ月に20誌以上も購入する雑誌マニア。時間さえあれば四畳半のアパートでベッドにころがり雑誌ばかり読んで過ごしていた。それに加え,小説なんかを読み漁っていたため,オイラの20代前半は活字まみれだったと記憶している。
雑誌の隅から隅までを読んだ。欄外の1行ネタとかも大好きだった。
特に好きだったのが編集後記。そのときは気づかなかったけど,その時点でオイラはエディター,ライターになりたいと,なんとな~く思っていたんだろう。
でも,一度たりとも読者ハガキ(アンケート)を出そうと思ったことはなかった。読者プレゼントなんて当たるはずがないと思っていた。「発送をもってかえさせていただきます」ってインチキだ!と。
いやいや,これがちゃんと送ってるんですよ。デスクやアルバイトの人間がシコシコと心をこめて梱包&発送作業してるんで。切手を買って,ハガキを送るとか面倒くさいとしか思えなかったなあ。
読者ハガキというのも雑誌によっていろいろ。切手を買わなくていいパターンもあるし,ハガキすら雑誌についてないケースもある。
ま,今じゃ読者ハガキのない雑誌がほとんどだ。インターネットで簡単にコミュニケーションが取れる。でも,80年代,90年代はそれが難しかった。00年代も微妙かな?
そう考えると,読者ハガキを丁寧に書いて出してくれる読者様って素晴らしい。これは雑誌を作る側になってから思ったことだけど。いや,本当に嬉しい。
読者からの生声に一喜一憂
だから,オイラは編集長になってもずっと読者ページの担当をしていた。
つーか,編集長こそが読者ページを担当しなくてはいけない。印刷所とのやりとりとかは誰か他の人間に任せておけばいい(そんなことないか?)。
偉そうに椅子に座って,現場にも行かず,台割作って,広告のことを考えて,夜に接待を受けてるのなんてフツーだ。それじゃあ,キャバクラにしか詳しくならない。
ま,キャバクラ専門誌なら別だけど。
読者ページは読者様の生声を聞くことができる最大のチャンス。もちろん,恐い。嫌な汗をワキ下から滝のように流しながら,オイラは1枚,1枚,すべてに目を通した。
特にオイラなんかひっどいページばかり作っていたからクレームの嵐だった。
- 「イノマーのページをまず破いてから読んでいます。はやくやめてください」
- 「いつからこんな雑誌になってしまったんですか? 編集長を変えたほうがいいんじゃないですか? ひどいです」
- 「イノマーが編集長になってから,雑誌は読まなくなりました」
(って,買ってんじゃん!)
- 「イノマー,大嫌い。気分が悪くなるから」
- 「シネ」
- 「爆弾をしかけました」
こんなハガキを目にしたら即死だ。しかも,それが女のコの可愛い文字だったりする。う~~ん。見知らぬ人に嫌われるのってショックだ。ま,その逆も少しはあったけど……。
でも,それもしょうがない仕事なんだとわかっていた。受け入れるしかない。商品(作品)というのは差別される運命にある。
差別がどうたらこうたら言う人がいるが,人間は差別の中で生きている。
難しいことを言うつもりはないよ。でも,自分は差別されてるし,差別しているという自覚もある。好きとか嫌いとかね。塩ラーメンが好きで味噌ラーメンが好きじゃないといのも立派な差別だ。
今,テレビで流行りのランキング番組だって差別でしょ? みんな差別が好きなんだ。1位,2位,3位ってね。そんなもんだ。
彼女や彼氏を選ぶのだってそう。差別云々ということを言うヤツこそが……ま,いいや。勝手にすればいい。
ベスト1とワースト1を同時受賞
オリコン時代はおもしろかった記事,つまらなかった記事の統計を取ってランキングを作り,毎週の編集会議でデスク(美人)に発表してもらうことにしていた。
このデスクが美人っていうのも大切。これがよぼよぼのくたびれた爺さんだったら誰も頑張ろうと思わない。
これは男だけの話じゃない,不思議と女性もそうだった。その辺の詳しい心理はわからないけど……。
ちなみに,オイラは両方ともぶっちぎり! おもしろかった記事の1位,つまらなかった記事の1位は常にオイラだった。
それでいい。それがしゃいこー。両方でキングを取るというのがイチバン。おもしろかろうが,つまらなかろうが読者の記憶に残ればいい。最悪なのは,あったのか,なかったのかすらわからない誌面だ。
読者の感情をゆさぶらないページは存在する意味がない。情報誌は情報だけを流せばいわけではない。その辺のさじ加減は編集者の力量でもあったりする。
ま,そんなやり方をしていると,読者とぶつかることもある。誌面でケンカ(?)したことも。電話もかかってきた。居留守を使うこともできたがオイラは話した。
あと,とんでもない郵送物とか(笑)。いつか刺されるんじゃないか?とすら真剣に思った。いや,これマジで。
でも,逃げるのはヤだった。それがオイラのコミュニケーションの取り方。
直接,会いに行こうと思ったこともある。ネタになるかな?って気持ちも半分(笑)。
いや,顔を合わせて話を聞きたいな,と。編集部員は止めた。「絶対にやめたほうがいいですよ。危ないですって」
でも,行くことに決めた。ハガキには住所も電話番号も書いてある。ということは……来い,ということだ(笑)。
徳島の読者さんだったので,とりあえずこちらから電話をしてアポを取った。「いつも,ハガキありがとうございます。ちょっと,直接,会ってお話をさせてもらってよろしいでしょうか?」
オイラ,頭がおかしかったんだろう。徳島まで,って。
「すいません,お願いですから来ないでください。もうハガキは出しません。でも,雑誌は買い続けますので」
「そ,そうですか」とオイラは言った。
アハハハハ,そりゃそうか。
クレームはありがたき財産である
読者ハガキに振り回されることはない。自分のやり方を変える必要もない。でも,目を通す,耳を傾けることは必要だ。
ちゃんと意見や感想を受け入れつつ,自分と編集部を見つめなおす。正直,1枚,1枚,全ての読者の話に合わせていたら雑誌など作れたもんじゃない。
だけど,無視しないこと。それはどんな企業も一緒だと思う。クレームなんて来るのは当然だと思っていないとやってられない。つーか,ありがたいと思わないと。
そのクレームに立ち向かえるだけ真剣にモノを作っているかどうかが大切。たとえ自分が間違っていてもね。
オイラはバンドもやっているが,「最近のライブや新曲がつまらないです」って言われたって,こっちが本気でやっていれば言い返すことはできる(言わないけど)。
世の中にはさまざまな思いが交錯している。そして,それが今の時代,すぐに目に耳に入ってくる。気にしていたら生きていけない。
そんな匿名の言葉と戦うためには自分が強くならないといけない。ま,パソコンや携帯の電源を常にオフってればやりすごせるかもしれないけど。
自分にとって良い話も悪い話も受け入れた上で捨てるものは捨てちまえばいい。でも,そんな中に必ず重要なこともまぎれこんでいたりするのも事実。
確かにな,そりゃそうだ,って思うこともあるもの。だから,無視するのは危険だ。
ま,ややこしい時代になったもんだ。読者ハガキでつながっていた時代と比べるとね。便利っちゃあ便利なんだろうけど。
実際,オイラも自分のメアドを公開している。ニュースが欲しいから。
- onaniemachine@yahoo.co.jp
いろんなメールが届く。
「イノマー,今どこにいるの? 飲みに行こうぜーー!」とかね(笑)。
でも,この公開メールのおかげで出会えた人たちもいる。今では一緒に仕事をしている人も何人かいる。スゲー時代だ。
以前,メアドを公開していることをお笑い芸人,ダイノジの大谷くんに話したら,「イノマーさんは強いッスね~~」と言われた。
そんなことはない。弱いから,強くなりたいから,そして,つながっていたいからやっているだけだ。
- 叫訓26
- 目をつぶらない
耳をふさがないこと