お客様は店の鏡
先日、懐かしい人から連絡があった。親しくしていたDVDショップの社長さん。お互いに近況を報告し合う。
電話を切った後、ふと社長が以前、言っていた言葉を思い出した。「安い商品ばかり仕入れてると、安いお客さんばっかり集まって、店はダメになっちゃうんだよね。でも、高い商品には手が出せない……困ったもんだ。」
実際、お店はその後、閉店となった。
DVDには“買い取り”と“委託”という2パターンの商品がある。買い取りというのはお店が事前にお金を支払って商品を買い、店に出すDVD。
委託というのは預かり。ある期間の間だけお店にある商品。期限がくれば返品する。
そう、買い取りは店にとってリスクがあるが、委託は店にとってのリスクはない。だって、売れなければ返せばいい話だからね。
メーカーの意向もあるが、この辺のジャッジメントが店主の手腕なのだろう。買い取りのみのメーカーもあれば委託のみのメーカーもある。もちろん、買い取り&委託を使い分けているメーカーもある。
もちろん、買い取りのほうが店にとっては売れた場合、利率はでかいことになっている。でも、売れなかったらマイナスだ。ずっと、棚に残ることになる。
安い生活は自分のクビをしめる
安い商品というのは売れるかもしれないが、仕入れ値と売値の幅が狭い。たとえば1,980円で売られているDVDの仕入れ値は@1,131円くらいだったりする(あくまでもサンプル。メーカーによってパーセンテージは異なる)。
すると、小売店の純利益は1,980円-1,131円ということで849円ということになる。これでも、まだ良いほうかもしれない。
ちなみに、コンビニとかでも見かけるDVD付の某アダルト雑誌など仕入れ値は@166円で売値は290円。1冊売っても店側の利益は124円。これじゃあ、やってらんないよなあ……。
でも、確かにそんなお客さんばかり集まってきたら小さな小売店は続かないだろう。大型店のように、1日に3桁以上の売上があればいいけれど、20前後の売上であれば経営を続けるのは難しい。
だから、オイラは高価だけれど、マニアックなDVDだけを置く店にすればいいのに、とずっと思っていた。
小さな個人商店が大型店と同じ商品を置いて勝負しようったってムリな話だ。
マニアックな商品は1万円を超える。でも、売れれば店にとっての利益も大きい。
どこでも買える商品ではなく、ここでしか買えない商品。だって、1枚売れば安い商品を5~6枚売った利益を得ることができる。
ま、オーナーだったらそんな冒険はなかなかしないものだとわかってはいるんですが。すいません、極論でした。
365日、無休で働く社長。しかも、昼の13時くらいから朝の4時まで。バイトを雇うお金などないから自分だけ。そんなのハッキリ言ってムリだ。でも、しょうがないからやっている。なので、店の陳列なども荒れる。
ダンボールがそこかしこに無造作に置かれ、コンビニ弁当の食べ終わったプラスチックケースが床に捨てられている。ゴミ屋敷みたいな店内。誰がこんな店でDVDを買おうと思うのだろうか?
貧乏はビンボーしか生み出さない。
プチぜいたくの妙
「アベノミクス」
ふふふっ。意味ナシ。
ちと、言ってみたかっただけ。でも、最近、プチぜいたくが流行ってるみたいね? うん、人間なんてそんなもんだ。我慢ばかりしてたらうんざりしてしまう。
たまにはちょっとしたぜいたくをしたいもんだ。コンビニやデパ地下でも、ちと高い商品が人気で売れているとのこと。
まー、ストレス発散! というのがデカいのだろう。でも、それが経済活性化へとつながる。だからこそ、メーカーはこんなときだからこそ少し高くても良い商品を売り出すべきだ。
景気が悪いからといって安い商品ばかり出していたら共倒れ、自滅するだけだ。
どうせ売れないや、なんて思って原価のかからない安い商品ばかり出していたら日本経済も破綻する。
出版社だって「予算を削ることだけを考えろ!」って言われたらしょぼい企画しかできなくなる。経費がかからない特集ばかり考えてたらテンションが下がって、おもしろいことなんて絶対にできない。
“ダメなときこそ攻めろ。ピンチはチャンスなんだ”と教えてくれたのはオイラが会社員時代の社長だった。経営的な雲行きがあやしくなったとき、社員を増やして新しい事業をスタートさせ、それが見事にハマった。きっと、あのときの社長の英断がなければ、今の躍進ぶりはないと思う。
ま、それも元々、大きな会社だったからというのもあるとは思うけど。
オイラみたいなフリーランスにとってはピンチは大ピンチでしかない(笑&涙)。
あえて自分を追い込んでみる
あるバンドマンがいた。メジャーデビュー前から知り合いで、一緒にラジオ番組なんかもやっていた。事務所と契約してレコード会社も決まった。とても良いバンドだ。
でも、なかなか売れなかった。これはもしかしたら……最悪のシナリオが頭に浮かんだ。
シングル、アルバム、出す度ごとにセールスは落ちていく。あと数年後には事務所、レコード会社、すべてを失うことになるかもしれないとオイラは思っていた。
そんな矢先、バンドの顔であるボーカルは引っ越しをした。自分の収入とは見合わない高級マンション。前に住んでいたボロボロのアパートとはまるで違う。マジで!? 正直、気が狂ったのかとすらオイラは思った。
「イノマーさん、これでいいんですよ。こうしないとダメなんです」と彼は言った。「借金してでも、ここの家賃に見合うようなアーティストにならないと終わりなんですよ。」
事務所から毎月、いくらもらっていたかはわからないけれど、彼はいつもきちんとした服装を心がけていた。身に着ける装飾品も高価なものばかり。清潔感に溢れ、うらやましくも思えた。でも、バンドは売れてはいない。
正直、経済的には苦しいだろう。どうしてるんだろうか? お兄ちゃんのような存在であったオイラは気になってしかたがなかった。でも、彼の生活は彼の生活だ。
ところが、その半年後にリリースしたシングルが大ヒット。一躍、人気バンドの仲間入りを果たすことに。それはもう、当時のヤングボーイ&ヤングガールだったら誰もが口ずさめるほどのマグナムヒットだった。
環境が人を作る
考えてみれば、今、表参道の立派な超高級マンションに住んでいる人気バンドのボーカルも昔は高円寺の風呂ナシ、便所&玄関共同なんていう物件に住んでいた。彼が売れたのも引っ越しのタイミングだった。
「ボクはここから出ます。ここにいちゃあ、この家賃の人間ですから(笑)。」
いや、今回の叫訓は引っ越しをすればいいという話ではない。でも、自分を奮い立たせる意味では引っ越しというのは重要なアクションだと思う。家賃3万円から30万円へと(仮話)。要するに3万円の男が30万円の男になるわけだ。これはでかい。
引っ越しにも“良い引っ越し”と“悪い引っ越し”がある。収入が減ってきたから今より安い家賃の部屋に住もうとすると、確実に自分が今より安い人間になってしまう。
そこで耐えられるか、しのげるかが未来につながる。オイラの住んでいるマンションはそう高い物件ではない。でも、ぶっちゃけ、それもきつくて安い部屋を探しもした。
でも、やっぱり、それをやっては終わりだと思い、しがみついている。“引っ越しをするなら今よりも高い部屋”。そう、自分の中でそれだけは決めている。そうしないとどんどん下に下にと行ってしまうだけだ。
この家賃に見合う生活をすればいいんだ、と。誰にカッコつけるわけではないけれども、せめて自分にカッコつけることは大切だ。
その昔、音楽業界のセンパイに言われた言葉が今でも忘れられない。それを今回の叫訓にしたいと思う。
その言葉はコレ↓
叫訓44
貧乏は全然OK
でも、貧乏くさいのはNG!