Lifelog~毎日保存したログから見えてくる個性

第73回甦る過去の記憶

続々アーカイヴ

ライフログは、記憶と記憶にまつわる研究とシチュエーションのキーワードです。同様のキーワードにデジタルアーカイヴなどもあります。

2012年現在、このところさまざまなアーカイヴが公開されているのがぽつりぽつりと目につくようになっています。たしかアインシュタインのアーカイヴが公開になったのも今年だったと思いますし、つい先ごろ2012年11月には、京都大学系京都学派の西田幾多郎の資料が公開されました。

アインシュタイン・アーカイヴ

アインシュタイン・アーカイヴ

京都学派アーカイブ

京都学派アーカイブ

後者の資料を見たところ、だいたいA5判のサイズを幅755×高さ1135ピクセル程度で公開しているようです。解像度にすると150dpi程度でしょうか。もうすこし高解像度でもとは思うものの、美術品ではないため充分な解像度ともいえ、手書きの雰囲気もたっぷりで、じっくり見ていて堪能できます。

こういう流れは、電子出版やインターネットだけではありません。老舗の出版社たとえば平凡社の『少年少女昭和ミステリ美術館』⁠森英俊・野村宏平編著/平凡社)は、⁠少年探偵団」⁠名探偵ホームズ」⁠怪盗ルパン」の3大シリーズを筆頭に、その他のジュヴナイル小説を集めてまとめた懐かしさ満載のアーカイヴで、見ていると小学校のころとかを思い出して浸ってしまいます。

『少年少女昭和ミステリ美術館』⁠森英俊・野村宏平編著/平凡社)
『少年少女昭和ミステリ美術館』(森英俊・野村宏平編著/平凡社)
なつかしの怪人二十面相や、ホームズ、ルパンがよみがえってきます。SFや雑誌までジュヴナイル小説をかなり広範囲に網羅していて、読みごたえもたっぷり。宝物にしたい一品です。

少し前だと、松尾芭蕉の『奥の細道』⁠岩波書店)なども、手書きアーカイヴのひとつでしょう。電子出版のいっぽうで、古きよき紙が甦ってくるようになってきました。これはなかなかいいことです。

著作権切れの「新刊」

電子出版では、著作権の切れた作家に注目も集まります。たとえば、著作権では直近の数年で、

  • 2013/10/11 ジャン・コクトー死後50年。著作権切れ
  • 2013/11/22 C・S・ルイス、オルダス・ハクスリー著作権切れ
  • 2015/05/03 銀の匙の中勘助著作権切れ
  • 2015/07/28 江戸川乱歩著作権切れ
  • 2015/07/30 谷崎潤一郎著作権切れ。⁠春琴抄』⁠痴人の愛』
  • 2020/11/25 三島由紀夫著作権切

なんてのが控えています。筆者の場合、⁠痴人の愛』なんて、まさにいま読んでいるところで、古びないおもしろさというのはあります。

もうこうなると、これから起きる未来は、過去と区別がつかないんじゃないか、という気持ちさえしてくるほどです。新作かどうかなんてのは、ぜんぜん問題でなくなってきているんじゃないか、という気がするのです。ちょうど、音楽がデータベース化して聴けるようになり、新曲かそうでないかをあまり問う必要がなくなったみたいに、です。

過去と未来は、現在ではないという点で、じつは同程度に同じものなのではないかという気がするのです。

遅れて届いた贈りもの

すこし脱線すると、鬼籍に入った作家の作品が見つかって出てくる話題も、しばしば目にします。

『冷血』『ティファニーで朝食を』のトルーマン・カポーティーの自伝的遺作『叶えられた祈り』の一部と思われる「Yachts and Things」が見つかった(2012年11月)とか、モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンシリーズの最終作『ルパン、最後の恋』⁠早川書房)とか。

アルセーヌ・ルパンシリーズの最終作『ルパン、最後の恋』⁠モーリス・ルブラン/早川書房⁠⁠、⁠月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!』⁠氷室冴子/集英社)
アルセーヌ・ルパンシリーズの最終作『ルパン、最後の恋』(モーリス・ルブラン/早川書房)、『月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!』(氷室冴子/集英社)
70年ぶりに刊行されたアルセーヌ・ルパンの最新作です。たしかフランスの著作権は70年(?)なので、今後これまでにも増してルパンのパスティーシュ、オマージュが増えるやもしれませんね。⁠月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!』は雑誌掲載のみだった作品を落ち穂拾いした作品集。余談ながら、先日『海がきこえる』をDVDで見て、アニメージュ版の『海がきこえる』をぜんぶそろえたい衝動に駆られています。マニアなのです…。

生前にすこしだけ交流のあった少女小説家氷室冴子の単行本未収録作『月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!』⁠集英社)とか。

ついについに…
ついについに…
死者からの手紙は、⁠ついに」届くようです。こんなところでも妙なシンクロニシティを感じました。

作家の死によって、もう新作は読めないとあきらめてしまいがちですが、デジタルアーカイヴやライフログなどの厖大な記録と、もちろんデジタルに限らずアナログの記録と、それを整理して公開する手段であるインターネットとが、うまく連動していけば、そもそも人生というのは厖大なものなので、いつまででも絶えることなく楽しめる環境が続く可能性だって出てきます。

アナログの整理とデジタル化は直接は無関係に思われるかもしれませんが、アナログ資料を整理するのにも、デジタル化は有効です。劣化しませんし、データにタグなどを追記しやすく分類に向きます。アナログの実データを触らなくてすむため、破損なども防止することができます。特に整理するときには、繰り返しデータを見て分析する必要がありますが、アナログの貴重な巻き物や紙の質の悪い古書などの場合にはデータを扱うことが困難なのでデジタル化は有効なのです。

甦るアーカイヴ

今回紹介したように、過去の作品がアーカイヴによって甦ってきます。このようなアーカイヴは、ショートショートの神様・SF作家の星新一の作品「時の渦」⁠新潮社 新潮文庫『白い服の男』に収録)で予言していたことを思い出します(そういえば、公立はこだて未来大学の松原仁教授やSF作家の瀬名秀明のチームが、人工知能を使って、星新一の新作を作るプロジェクトを開始していると報道されたのも2012年9月のことでした⁠⁠。

星新一は生涯に1,001本のショートショートを書いたことで知られています。1,000本というのはなかなか大した数です。ヤンキースのイチローは、2013年の夏に日米通算4,000本を達成すると期待してますけど、そのイチローだって1,000本のヒットを打つには5年かかるわけです。

その1,000という目標はひとつの大きな達成点になるはずで、じつは筆者自身の最近の目標は、一生涯でモノを1,000個作ろう、ということであったりします。いまのところ、単著が30冊くらい、連載で作成しているソフトが130本、それ以前に作ったもの(ソフト・ハード)がざっと40個くらいはあると思うので、現在のところ200/1,000を達成したところです。週刊のソフトは年間で50本リリースできるので、あと800本リリースするには、16年ですね。ま、のんきな話ですけど。

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