マネジメントの現場 ――良いチームを作るために必要なこと

第2回リモート環境でのマネジメントで気を付けることは

リモートワークによるマネジメントの変化

こんにちは、是澤です。緊急事態宣言後、リモートワークが増え、今までのマネジメントのやり方に課題を感じてきたエンジニアマネージャーも増えているのではないでしょうか。対面でのコミュニケーションがSlackやZoomなどのオンラインコミュニケーションに置き換わり、マネージャーの人間力やコミュニケーション能力は発揮しづらくなり、より本質的なマネジメントの知識やスキルを身に付けることの重要性が急速に高まったと感じています。

そこで今回は、前回も登場したGoogle re:Work[1]から、リモート環境下でのマネジメントスタイルについての話をしていきます。

リモート環境でのマネジメントで特に大切なこと

Google re:Workの中では、優れたマネージャーの要件として以下の10個のGoogleマネージャーの行動規範を提示しています。

  • 良いコーチである
  • チームに任せ、細かく管理しない
  • チームの仕事面の成果だけでなく健康を含めた充足に配慮しインクルーシブ(包括的)なチーム環境を作る
  • 生産性が高く結果を重視する
  • 効果的なコミュニケーションをする ―人の話をよく聞き、情報を共有する
  • キャリア開発をサポートし、パフォーマンスについて話し合う
  • 明確なビジョンや戦略を持ち、チームと共有する
  • チームにアドバイスできる専門知識がある
  • 部門の枠を越えてコラボレーションを行う
  • 決断力がある

この中で、リモート環境でのマネジメントをする際、特に意識にしたほうがよいことはです。

リモート環境では、マネージャーがメンバーの毎日の仕事ぶりや体調、メンタルの変化に気付ける機会は減ります。ただそれらを把握するために一人一人のメンバーに業務時間を毎日細かく報告させるようなマネジメントは、成果を重視したマネジメントとは言えません。組織やチームとしてより大きな成果を狙うのであれば「1日8時間ちゃんと働くこと」へのコミットを管理するのではなく「いつまでにどういう成果をあげるかという目標」にコミットさせその目標達成に対する支援をしていくことが生産性と結果を重視したマネジメントと言えます。

また多くの人が自宅で仕事をしている以上、空間的に仕事とプライベートの切り分けができないことをマネジメント側が認識することが大事です。仕事の隙間時間に家事をしたり宅配の荷物を受け取ったりなど、ある程度のプライベートな活動は許容が必要でしょう。むしろマネジメント側は、一人一人の仕事とプライベートの時間の使い方を効率化させ、より快適にかつ生産性が上がるようなワークライフバランスにすることに協力していくべきだと思います。そういった成果をあげられるような考え方ややり方をアップデートしていくことが、With コロナの世界ではポイントになってくるでしょう。

成果を出し周囲から高く評価されている人の多くは、自主性を持ったうえで、目標にフォーカスした優先順位付けができ、効率的な時間管理をするなどの成果を最大化するセルフコントロールができています。もし自主性に任せて成果が出ていない人がいたら、そのときは時間をどのように使っているかを聞いてあげ、成果をあげるワークライフバランスに改善する支援をすることがマネージャーの役割だと意識するとよいでしょう。

リモート環境のマネジメントで活用できるフレームワーク

僕がCTOChief Technology Officer最高技術責任者)を務めるサイカは、緊急事態宣言の少し前から全員がリモート環境での開発に移行しました。その中で意識したことは「リモート環境でのあらゆるマネジメントに対して、チームや個人間での認識のあいまいさをなくすことにフォーカスする」ということです。それには、より成果やゴールの定義と期限を明確にし、それに至る定量的な指標やアクションを決め可視化をし、誰が見ても誤解なく把握でき、振り返りと改善行動ができるしくみづくりがポイントとなります。また個人間でのコミュニケーションも、認識のあいまいさをなくすよう意識することで、より率直に対話できるしくみづくりを考えるようにもなります。

このようなあいまいさをなくすためにリモート環境で活用できるフレームワークとしては、OKRObjectives and Key Resultによる定量的な目標設定と、スクラムによるベロシティを計る開発手法は特に相性が良いと感じています。OKRでよりチャレンジングな目標を決め定量的な成果目標を日々追いかけながら、スクラムのスプリントごとにチームの生産性の変化を見てその変化に影響を及ぼしたトピックを振り返ることができ、理想の成果に対しての現在位置を確かめながらマネジメントできます。

また、先に挙げた「Googleマネージャーの行動規範」の1つに効果的なコミュニケーションをする ―人の話をよく聞き、情報を共有する」とありましたが、リモートでのコミュニケーションに慣れていない状態では個人間での認識のあいまいさが生まれやすく、これを実践する難易度は上がってきます。これに対しては、僕がここ数年1on1の中で活用しているフレームワークが効果的に感じているので、一例として紹介します。

まず僕の場合は1on1のスタンスとして、基本的には細かい業務進捗や目標進捗は毎回詳細を聞かないようにしてブロッカーが出ているときだけ報告/相談をしてもらうようにしています。理由としては、進捗報告はチーム全体で共有してみんなのフィードバックにより解決や改善をしたほうがより成果があがると思うからです。

ですので、1on1はメンバーの成長や成果にフォーカスしています。そこでメンバーの状態に対してお互いの認識のあいまいさをなくし正しく把握するために、最初に「忙しい度」「やりがい度」をそれぞれ10段階で教えてもらうことを1つのフレームワークとしています。

「忙しい度」は0に近付くと余裕がある状況で10に近付くと多忙な状況、⁠やりがい度」は0に近付くとやりがいを感じていないモチベーションの下がっている状況で10に近付くとやりがいを感じてモチベーションが高まっている状況として定義しています。

そしてこの2つの数字から、状況をそれぞれ以下の4つのパターンに分類して認識します。そしてなぜその状況になっているのか深堀りしていき、どのようなアクションを取るのかを決めます。

(a)「忙しい度」が高く、「やりがい度」が低い
やりがいを感じていないネガティブなパターン
(b)「忙しい度」が高く、「やりがい度」が高い
忙しくて、やりがいを感じているポジティブもネガティブもあるパターン
(c)「忙しい度」が低く、「やりがい度」が低い
余裕があり、やりがいを感じていないネガティブなパターン
(d)「忙しい度」が低く、「やりがい度」が高い
余裕があり、やりがいを感じているポジティブもネガティブもあるパターン

この中で一番成長と成果が見込めるのはdのパターンです。この状況になっているとさらなる成果や成長につながるチャレンジ目標を設定してムーンショット[2]を狙わせます。

このようなフレームワークを使って1on1でメンバーの正しい状況を把握し、確信を得てアクションを一緒に考えていくようにしています。そしてメンバーが(b)(d)(b)(d)→...と繰り返す状況を作ることを理想としています。

サーバントリーダーシップという考え方

前述してきたリモート環境でのマネジメントをするにあたり、サーバントリーダーシップという考え方が参考になります注6。その特徴は以下です。

  • リーダーはメンバーの成長や成果を支援する存在である
  • リーダーはメンバーに指示するのではなく、メンバーの自主性を尊重したコーチングやメンタリングを行う
  • リーダーは成長のための失敗を許容し、その失敗からメンバー自身が学び成長できる環境を作る
  • リーダーはメンバー個人と組織の成長および成果を調和させる

上記は「Googleマネージャーの行動規範」とも類似している部分が多いです。③⑧⑨などは、まさにマネージャーがメンバーのサーバントとなるためにやるべきこと、不可欠な能力でしょう。

一方で、サーバントリーダーシップを意識しすぎたあまり陥る落とし穴もあります。それはマネージャーがメンバーの意思に任せすぎて、成果定義やその意思決定の責任があいまいなままアクションさせてしまうことです。この場合、ほとんどのケースでは大きな成長や成果をあげることはできません。

そのようなことが起こらないように「メンバーの想いと仮説からアクションした結果が、メンバー自身の理想的な成長と成果につながっていくか」にマネージャーとしての責任を持って支援していく必要があります。

メンバーが成長と成果を組織から評価され、両者がより強い信頼関係で結ばれていくハブになるのはマネージャーの役割の一つです。この信頼関係が強くなれば、組織も今まで以上にメンバーを信頼して権限や自由を与え、メンバーはより自由で心理的安全性を持ったチャレンジができるようになります。だからこそ「Googleマネージャーの行動規範」は、⁠決断力がある」ことを優れたマネージャー要件の一つに定義しているのだと思います。メンバーの成長や成果の向上を考えたとき、マネージャー自身がその責任を持ち、メンバーのために決断することが求められるのです。

今回のまとめとして思うのは、たとえ環境が変化しても、知識を得てマネジメント方法を試行錯誤して意思決定を繰り返し磨き上げることがマネージャー自身の成長と成果へつながり、より大きな組織貢献ができるようになっていくのだろうということです。

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