マネジメントの現場 ――良いチームを作るために必要なこと

第4回エンジニアを採用し、活躍してもらうには

エンジニアチーム主導の採用活動

マネージャーとしてチームや組織の成果を向上させるためには、育成だけではなく採用活動に携わることも重要になってきます。特にエンジニアのような専門職では、人事の専門家に採用を任せることが難しいため、エンジニアリングマネージャー自らが採用責任者Hiring Managerを務め、採用チームを主導していく必要性が高いです。

最初は、その役割に苦しみながら試行錯誤していくことになるでしょう。でも大丈夫。最初から人事経験のあるエンジニアはいないので、それは当然のことです。まずは採用活動とは何かを学んでいくことが重要です。ここでも「Google Re:Work」は役に立ちます。採用の項目に一通り目を通して、理解を深めておくとよいでしょう。ほかにも人事制度や労務周りの知識を得ておくことも採用活動の役に立つので、そういった働くためのルールや会社のルールもインプットしておきましょう。

採用をすることがゴールではない

採用現場において、採用数をKGIKey Goal Indicator重要目標達成指標)として追っていて、それが採用に携わる方の評価指標にも使われていることが多いかもしれません。しかし、実際は採用することがゴールではありません。採用を通じていかにベストなプロダクトを開発できるチームになっていくかを目標とし、開発チームが強くなるためのアセットを獲得することがゴールです。本当に追うべきものは、採用承諾して入社してもらうことではありません。採用し入社した人が戦力となり組織の中で未来のキャリアを描き、自走して成長しさらなる成果を上げ続けられる状態になることです。

ですのであまり採用数にこだわっていると、お互いの見極めが不十分なまま入社に至ってしまう可能性が高まります。そうすると期待する役割に対して強みやスキルがアンマッチだったり、経験したいキャリアや将来やりたいこととのアンマッチだったりが生まれ、パフォーマンスを発揮できなくなってしまうこともあります。

そうならないためには、期待する役割を明確にしたジョブディスクリプション(求人募集要項)を作成し、それを満たす採用基準を採用チームに浸透させるとよいでしょう。このとき業務経験やスキルなどの応募条件や業務内容に加えて、以下のような事項を明確に決め、可能なものはジョブディスクリプションで伝わるように記載しておくとよいです。

  • 現在の組織やプロダクトが抱えている課題
  • 現在使っている技術スタックと今後の技術方針
  • 課題を解決したあとのプロダクトや組織の理想の状態(課題解決の方針が決まっている場合は、その方針も)
  • このポジションで得られる経験と成長した先に目指せるキャリア

ジョブディスクリプションを作るにあたっては、前述したGoogle Re:Workの募集要項を作成するのあたりが参考になります。またキャリアや役割をイメージするにあたっては、⁠エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』注1が参考になるでしょう。

採用チームを強くし、よりすごい人を惹きつける力を身に付ける

採用活動は人事やエンジニアリングマネージャーだけが頑張るのではベストな成果は出せません。エンジニアや広報も含めた人たちが採用チームとなって頑張り、採用力や広報力を強くするチーム作りが必須です。そのために採用の過程で関わるメンバー一人一人が経験を積んで学び改善していくプロセスが必要です。まずはより多く打席に立ち、三振してもよいからバットを振り、プロの球に慣れる。そういう経験を積んでいくことで採用チームが強くなり、ようやくホームラン級の採用ができるようになるのです。

以前勤めていた会社で採用責任者になったとき、最初はいろんな人にあって話してみるのをKPIKey Performance Indicator重要業績評価指標)にして、毎日面談や面接を繰り返しました。そして回数を積み重ねるにつれ面談や面接で話す内容が変化し、選考プロセスでの体験も改善されました。その結果、選考が進むごとにより候補者に興味を持ってもらえるようになってきました。

たとえば組織内にどういった課題があるのかを赤裸々せきららに話し、それに対しての共感やその課題克服にやりがいを感じてもらえるかという点が一番大事ということを学びました。また、候補者を見極める際はその人の強みが活かせるか、また強みを活かすにあたってのアプローチが自分たちの方向性にあっているかという点が大事だということを知りました。そのようにして、採用活動におけるスタンスやコミュニケーションプランを変化させました。

最終的には、面談で会ってみてこの人いいな! と思った人は、ほとんど面談中に選考に進んでもらう意思決定をしてもらえました。また、選考に進んだ人が最終面接まで進んでいく確度も劇的に増加しました。

当時を思い返すと、正直最初は採用責任者として高い採用基準を掲げた目標だったのでゴールの見えない精神的なつらさはありました。しかし、打席に立つ回数を増やし経験と改善を積み重ねることで、打率の高いチームに仕上がっていったのだと思います。

オファーの難しさ

オファーを出すときの悩みどころとして、金額提示が難しいという話をよく耳にします。ありがちな話として、現在の社内のグレードの水準の金額でオファーすると他社のオファーを下回ったり、本人の希望に沿えないということがあります。

基本的に、他社のオファー金額や現職の給与を意識してオファーを出すことはお勧めはしません。社内での期待値に沿ったグレードや給与水準に合わせておかないと、採用後の期待値調整と評価が難しくなってきます。加えてアンフェアなしくみになってしまい、ほかの社員も評価に納得ができなくなります。そういうことを繰り返していると人件費がかさみ、事業の継続ができない状態になってしまうリスクがあります。ですので、社内の評価基準に沿ったオファーをして、人員計画と予算計画に沿った採用にしていく必要があります。

ただし特定のケースでは、既存の評価制度を変えてオファーを出す必要性もあると考えています。それは、⁠その人の強みを活かすことでより大きな成果が生み出せる」といった場合です。たとえば候補者が新規事業のコアテクノロジを持っていて、その人が来れば売上が月に数千万円上がる事業展開ができるとします。その場合はその期待値を評価のしくみに反映させ、期待値に見合ったオファー金額を提示する必要もあるでしょう。成果に見合った報酬を得られるしくみはフェアなしくみです。

オファー提示のときに考えなければいけないポイントは、⁠その人がいればどういう成果を生むことができるのか?」ということです。このあたりの考え方は『NETFLIXの最強人事戦略』注2の第7章「会社にもたらす価値をもとに報酬を決める」が参考になります。

大谷翔平選手のオファー話

今メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手ですが、彼を獲得するために日本ハムファイターズ球団(以下、日ハム)がしたオファーの内容とプロセスが興味深く学びになります。

もともと大谷選手は若いうちにメジャーに行きたいという想いが強かったのですが、日ハムはドラフトで彼を1位指名しました。ですがこのとき大谷選手は「入団の可能性はゼロ」と口にしていました。しかし日ハムは彼の「メジャー挑戦の夢」に対して、そこに至るまでのリスクを説明し、その夢をかなえるためのプランを大谷選手や彼の両親に提案していきました。加えてメジャーの球団からは「二刀流は不可能」と言われていたのに対し、日ハムは大谷選手の望んでいた二刀流での育成プランも提示したことによって、大谷選手の意志は日ハムへの入団に傾いていきました。

当時から日ハムの監督であった栗山英樹監督は、大谷選手を説得して日ハムへ入団させるコミュニケーションではなく、大谷選手の立場に立った客観的視点で「⁠⁠メジャーで二刀流として活躍する』という夢をかなえるためには国内リーグを経由してからメジャーにチャレンジしたほうがよい」という点を解説し、キャリアアドバイスをしています。そして「日本でプレーするのなら、すべて自分が背負う。球団と自分が悪いと。できる限りプレーしやすい環境をつくりたい。一番大切なのは大谷君の将来。周りもそれを大切にしていると思う。一番いいのは何か。その道をつくるのは大人の責任」注3と発言し、大谷選手の育成責任を背負うことを宣言しました。

この日ハム球団と栗山監督が行った大谷選手のキャリアを考えた獲得姿勢と責任を負う覚悟により、大谷選手は日ハムへの入団を決めました。そして大谷選手は日本野球界で活躍しながら成長し、メジャーで夢をかなえるための挑戦をすることにつながりました。

モノづくり組織専任のHRという考え方

筆者がCTOChief Technology Officer最高技術責任者)を務めているサイカでは、開発組織内で採用と育成、またそれらに関連する広報活動や環境づくりなどをしていくことをミッションとしたHRHuman Resource人事)組織づくりにチャレンジしています。この組織はDeveloperのためのHR組織なので「DevHR」と呼称し、所属するメンバーはモノづくりする人たちを支援する専門性を持ったHRとしてのキャリアづくりに取り組んでいます。ゆくゆくはエンジニア経験者がHRキャリアにチャレンジしたり、HR 経験者がエンジニアにチャレンジしたりなど、自らの意志で幅広いキャリア経験を積める可能性を広げたいと考えています。そうすることで才能開花につなげられるようなしくみにしていきたいのです。そしてDevHRチームが活躍していくことで採用と育成をひとつなぎとして考え、中長期的に開発チームを強くしていくしくみづくりを実現していきたいと思っています。

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