ツイッターもFacebookも、すべてのソーシャル・ネットワークには広報やプロモーションに活用できる側面があります。しかしそれがなぜ効果的なのか、本当に知っていますか?
もともと、ソーシャル・ネットワークにおける広報がテレビやラジオなどといった媒体に比べて効率的だといわれた背景には「6次の隔たり」の考え方があります。知人の知人の知人…といった具合にソーシャルのつながりをたどればすぐに数多くの人に情報が行き渡ることを応用し、人と人とのつながりに情報を流すことが、周知と拡散に効果的だというわけです。
しかし、いまではツイッターにおいてもそう簡単にリツイートをしてもらうことはできません。情報が多くなりすぎた反作用で、ユーザーは情報を注意深く選別するようになりましたし、ノイズやスパムにも敏感です。PRアカウントはつくったものの、思うように情報が広がらないということも多いでしょう。
マストドンは、こうした状況を変える可能性はあるのでしょうか? 今回は、マストドンにおいてPRをする企業を題材に、情報の広がりやユーザーとのつながりを考えてみます。
インスタンスを立ち上げるのか、アカウントをつくるのか
マストドンにおいて企業や団体や個人が広報的な目的で参入する場合、ツイッターやFacebookなどと違って2つの道があります。
一つはそのための専用アカウントをつくること、もう一つはインスタンスを自ら立ち上げてファンを集めることです。
手軽なのはもちろん、アカウントを作成して情報発信をすることです。しかしこれも、ツイッターと同じ感覚でおこなうと失敗がまっています。というのも、マストドンはインスタンスごとにある程度ユーザーが分かれていますので、どのインスタンスでアカウントを作るかを注意深く選ばないといけないからです。
たとえば、mstdn.jpのように巨大なインスタンスでPR活動をするのは、ツイッターと同じように不特定多数のアカウントへの露出を目的としたものといえるでしょう。日産自動車が運営している@NissanJP@friends.nicoなどはこのよい例となっています。日産自動車がなにをしている会社であるかは、もう誰もが知っています。ですから、むしろそこまで日産について興味をもったことのない人にむけて、イベント時やライブ中継時に周知をするための活動にフォーカスして運営しているわけです。
逆に、サッカーの特定のチームのインスタンスにアカウントを作成することによって、ある程度セグメント分けされたユーザーへの発信を意識することもできます。たとえば、スタジアムの近くの居酒屋などの店舗が、試合がある日のキャンペーンを告知したり、ホームゲームの熱気のなかでいっしょに盛り上がることでファンを増やしていくといった方法です。
ここに、マストドンならではの思考が入っていることに、鋭い人は気づいたことでしょう。マストドンにおけるPRは「フォロワーをとにかく増やして声を大きくすること」ではないのです。つながりたいファンがどこにいるかを敏感に察知して、そこにファンが求めている情報をタイミングよく流すことが求められるのです。
インスタンスを作って、ファンの安心できる場所をつくる
その究極の方法が、自分でインスタンスを立ち上げることです。インスタンスを立ち上げてコミュニティを可視化することで、それに反応するファンを一つの場所に集めるわけです。
現状で、それをもっとも素早く実践しているのはピクシブのPawooインスタンスです。リアルタイムに絵などの作品をシェアしたいユーザーと、それをみて反応したいファンが一箇所にまとまることによって、ユーザーが主導する形でコミュニティが広がっていくのは一つの理想形です。
ピクシブはそうしたユーザー間のやりとりを促進するためにマストドンの独自実装やアプリの開発も手がけており、クリエイターを支援する企業として存在感を出しています。
しかし、どんな企業や団体でもインスタンスを立ち上げればよいというわけではありません。たとえばファンを集めるつもりでインスタンスを立ち上げたつもりが、運営に対してユーザーが文句や要望をいうだけの場になってしまう可能性もありえます。
また、現状ではマストドンのインスタンスを立ち上げたとしても、それを発見してもらい、ファンに集まってもらうためには他のソーシャル・ネットワークも活用することが前提になっています。たとえば、すでに周知がいきとどいているツイッター上の広報アカウントから、熱量の高いファン向けにマストドンインスタンスの立ち上げを告知するといったようにです。
そして、マストドンのインスタンスを立ち上げることは、ユーザーコミュニティの運営にかなりの労力を割かれることも覚悟しなければなりません。ユーザー間のあらそい、問題のあるコンテンツへの対応、場の雰囲気の管理など、ユーザーが増えるほど難しい対応を迫られることになります。
小規模にはじめて、ファンをひろげてゆく
そこでおすすめしたいのが、小規模に、あるいは暫定的にインスタンスを立ち上げることでゆっくりとコミュニティを広げていくことです。
たとえばユーザー登録をつねに開いておくのではなく、イベント参加者のみに限定して少しずつ空気を理解している人を迎え入れるといった方法もとることができます。マストドンの性質上、インスタンスに登録できずとも、そのなかで行われている会話はリモートフォローで追うことが可能ですから、これは有効な手段です。
また、アニメやドラマの放映期間だけ限定してインスタンスを立ち上げるといったような、期間限定でファンが盛り上がるという事例も今後増えるでしょう。
たとえば番組の開始数週間前にインスタンスを立ち上げ、事前情報をタイムリーに出しつつファンを獲得し、番組の放映時間にはファンとともに実況で盛り上がり、番組終了とともに活動を終了するといったような、小規模でも熱量の高い運用方法です。
このような小規模の運用に活用できるのが、誰でもマストドンのインスタンスを立ち上げることができるサービス「Hostdon(ホストドン)」です。無料プランのユーザー上限は100名ですが、インスタンス運営が向いているかどうかを試験する意味でも利用できるでしょう(Hostdonの利用は無料ですが、Entyを利用した募金をつのって活動しています)。
バズの向こうにある、マストドンPRの世界
ソーシャル・ネットワークにおけるPR活動といえば、バズを巻き起こすこと、何十万人ものフォロワーを獲得することが主眼となっている面があります。
もちろん、そういったスケール感のある情報の拡散の重要性はいまも変わりません。その一方で、少数だけれども熱量の高い、長いあいだファンになってくれ、周囲の多くの人に影響を及ぼす「スーパー・ファン」の存在も、いま見直されてきています。
マストドンの分散化の仕組みと、小規模でも濃密につながることができる多様なインスタンスのつながりは、そうした新しい広報やPRの手法への誘いかけでもあるのです。