ニュー選挙パラダイス

第1回黄金狂時代~ネット選挙解禁で

ネット選挙解禁で新たなビジネスチャンスが!

いま、IT業界の一部は「ネット選挙バブル」に沸いています。各社がさまざまなサービスをパッケージ化し、今年の春ごろから順次リリースしている状況です。ネット上(とくにソーシャルメディア上)の情報を収集して解析し、その情報を選挙運動に活かしたり、はたまたネット上のどこかで発生してしまっている誹謗中傷を素早く検知してその対策を行ったり。今までなかなか見えてこなかったこうしたサービスが、良くも悪くも今回ようやく世間に日の目を見た気がしています。それもこれも始まりは今年の3月、自民党がネット選挙解禁法案を了承したことから始まりました。

溢れかえるネット上の情報の中で

ネット選挙の解禁自体は、時代の流れに沿ったものです。今や日本人ののべ5,000万人以上がソーシャルメディアを使い、そのうち約3,300万人が自分自身で何らかの情報発信をしていると言われています。そしてそれと同時に様々なネットメディアも勃興してきており、ユーザはネット上のあらゆる場所でコミュニティを作り、意見交換を行うようになりました。

まさにこの世は玉石混交の情報で溢れ、その情報を過剰に摂取して日々を生きていると言えます。そんな時代にネット選挙(正確にはネットを利用した選挙運動)が解禁されると、果たしてどのようなことが起こるのでしょうか。

6月23日に行われた東京都の都議会選挙。7月の参院選の前哨戦としてその結果に注目されていましたが、実はネット選挙解禁直前の選挙としても注目を集めていました。結果的にはネット関係での公職選挙法違反は一件も出ませんでしたが、いくつか話題に上がったケースもありました。渋谷区の候補者が自身のTwitterで街頭演説の写真へのリンクを張ってしまい、指摘を受けて慌てて削除したり、都議会選ではないですが尼崎市議会選では候補者の息子が「オトンに投票してや」とTwitterでつぶやき、選挙管理委員会から注意を受ける件もありました。

前者については候補者本人の行動ですのでしょうがない部分もありますが、後者のようなケース(候補者の関係者の行動)は実はこれまで表沙汰になっていないだけで、おそらくこれまでも起こっていたはずでしょう。そしてこうしたケースが表面化し、ネットを活用している誰もが公職選挙法違反に問われてしまうリスクの発生が、今回のネット選挙解禁の恐ろしさなのです。

※)
インターネットメディア研究所『ソーシャルメディア調査報告書2012』より

誰にも降りかかるリスクをどう回避すべきか

今回の法改正に関しては、実際の施行は7月4日公示の参院選からが対象となります。逆に言うとそこからが本番。筆者も含めて一般ユーザが発信する内容についてのチェックも、そこからスタートすることでしょう。ではそうした中で気をつける部分はどこになるでしょうか。詳しくは第2回で説明しますが、ここではいくつか代表例を挙げてみます。

投票日当日(今回の参院選であれば7月21日)の行動

公職選挙法では、投票日当日の選挙運動は禁止されています。もちろんそれはネット上でも同じです。たとえば「候補者の○○さんに投票しよう!」といった働き掛けはもちろん選挙運動に当たりますが、⁠○○さんに投票してきた」⁠○○党に一票を投じた!」というツイートであっても、見解によっては「特定候補者への投票を促す行為」と捉えられてしまい、公職選挙法違反に問われる可能性があります。実はこうした投稿はこれまでtwitterで多く行われていましたので、もしかすると読者の方の中にも過去にツイートをしたことがあるのではないのでしょうか。その「これまで意識せずに行ってきた発信」へのリスクが最も怖い部分です。

電子メールでの行動

今回の解禁を受け、候補者本人や政党が電子メールを通じて選挙運動をすることは出来るようになりました。ですので、おそらくそうしたメールを受け取る機会も増えるかと思います。しかしその受け取ったメールを誰かに転送してしまうと、その瞬間にユーザ側が公職選挙法違反となってしまいます。たとえ、その転送先が自分の家族や知人であっても、です。

ネット上での選挙運動・落選運動

これまでの選挙でも実際にはネット上でさまざまな情報が発信されていたことは前述した通りですが、今回ネット選挙が解禁され細かく内容が明示されることにより、逆に黙認されていた行動が注目されてしまうことになります。

たとえば匿名での行動。某巨大匿名掲示板では、これまで選挙のたびにさまざまな内容の書き込みがされていましたが、今回のネット選挙解禁で明示された内容を踏まえると、すべてNGとなってしまう可能性があります。ネット上で特定の政党や候補者に対しての投票呼び掛けや、逆に「落選運動」と呼ばれるように投票しないことへの呼び掛けをする際には、連絡先の表示義務が発生したためです。その掲示板への扱いがどのようになるのか、現段階では明確にはされていませんが、リスクが発生することは事実ですので、もし利用されているようであれば気を付けたほうが良いかもしれません。

この7月で今後の方向性が決まる

いよいよ参院選が始まり、ネット選挙運動が解禁となります。正直まだ詳細なケースごとの対応であったり、個別の判断は不明瞭な点があることは否めません。ただ少なくとも言えることは、日本のネットを取り巻く環境が1つ変化を迎えたということです。それが大きな変化となるのかどうかは、今回の参院選での動向で決まるように思います。

IT業界では政党向けや候補者向けの各種サービスを提供したり、ネットメディア側は増え続けるネットの情報をうまく取りまとめて、ユーザのコミュニケーションの場になり得るようなページを開設したりといった動きが広まっており、先般のスマートフォン普及におけるソーシャルゲーム市場でのせめぎ合いのように、今後ネット選挙の市場を舞台にした市場争いが始まるかもしれません。そうした部分も注目していくとおもしろいと思います。

本コラムでは今後全10回にわたり、ネット選挙関係やネット上の風評被害などについて紹介していくつもりですので、ぜひご期待ください。

次回は、今回も少し触れた「ネット選挙解禁によって自らに関わるリスク」について、より詳しく説明していきます。

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