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第2回今そこにある危機~ネット選挙解禁で誰もが危険に!?

有権者が積極的に運動できるからこそリスクが!

参院選が7月4日に公示され、俄然盛り上がりを見せてきました。連日ニュースでも選挙関連の話題が増え、かつその中でも毎回ネット選挙のことに触れられる機会も多いように思います。

ただニュースではどちらかというと政党や立候補者がどのようにネットを活用をしたのか、たとえばTwitterやFacebook、アプリなどでこのように情報を発信している、といった話題が中心です。有権者がネット上でどう動いているのかといったことに触れていくのは次のステップなのかもしれません。

とはいえ今回のネット選挙解禁で、有権者も積極的な運動を展開し始めているのは事実。そしてその運動に意図せずとも巻き込まれる可能性のあるのが、今のネット社会であったりするのです。今回はそうしたリスクを確認してみましょう。

今回のポイントである「表示義務」とは?

今回の解禁で、ネット上での選挙運動や落選運動用の文書図画の頒布が認められることになりましたが、そのときにポイントとなるのが「表示義務」です。どういうことかというと、その発信者(頒布者)と連絡を取る際に必要な情報をきちんと表示しなければいけない、という義務が発生しています。⁠電子メールアドレスその他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報」と明記されている内容となりますが、具体的には電子メールアドレス、返信用フォームのURL、Twitterのユーザー名などが挙げられます。逆に言うと、匿名やハンドルネームなどを使って投稿する掲示板などでは、メールアドレスや連絡先情報が記載されたページへのリンクがないと違反と看做されてしまうこととなります。

正直これまでの選挙では某巨大掲示板などでは匿名で多くの投稿がなされていましたが、今回の解禁によってそれらのいわば「見過ごされていた(=見て見ぬふりをされていた⁠⁠」行為が、明確にNGだと規定されたということです。

その目的は情報発信者に一定の責任を持たせるとともに、その反論などをきちんと受け付けられる状態にすることで、誹謗中傷やなりすましをできるだけ防ぐためです。また合わせて今回のネット選挙解禁に合わせた法改正にて、選挙期間中においては前述の表示義務を満たしていない投稿について、プロバイダ(サイト運営者)側がユーザの同意を得ずとも削除することが認められた[1]ので、そうした対応スピードを上げる効果もあると考えられます。

具体的にはどのような活動が認められるのか?

前述の「表示義務」がポイントになると説明しましたが、それによって有権者が利用できるWebサービスが明確になりました。FacebookやTwitterなどのSNSは、その仕組み上自動でユーザ名の表示がなされ、またSNSを介して連絡を取ることができるため、とくに投稿内容上で連絡先の記載がなくとも投稿することが可能となりました。FacebookのシェアやTwitterのリツイートも可能[2]です。また、自身のブログやホームページなどで情報を発信する場合においても、そのブログ内、ページ内に連絡先(メールアドレス等)が明記されていれば、問題ないということになります。

気をつけるべきなのは掲示板等、通常では連絡先が記載されない形のWebサイトです。もちろん掲示板やQ&Aサイトなどの中にはユーザアカウントがないと利用できないサービスもあり、そのユーザプロフィールから連絡が取れるケースの場合は除外されますが、匿名掲示板などの場合は連絡先の明記が必須となります。

そして、今回のネット選挙解禁でのもう1つのポイントは、有権者による「電子メール」での活動がNGであるということでしょう。電子メールでの呼び掛けはもちろんのこと、自分が受信した政党や候補者からのメールを、他人(それこそ自分の家族の場合も)に転送するだけでも違反となり、そのことは「違反行為である」と明確に定義されています。ユーザに最も身近であるツールの1つ「電子メール」ですが、今回はあくまでも「政党や候補者」からの発信、かつ「事前に送信許可を取ったメールアドレス」への送信のみが解禁され、それ以外はこれまで同様NGであると認識する必要があります。

なぜ「電子メール」がNGなのか?

「電子メール」がNGな理由は、以下の3つです。

  1. 1対1でのやり取りの場合が多いため、誹謗中傷やなりすましに悪用されやすいこと
  2. メールの送受信に関する法規制が複雑のため、ユーザが処罰(禁錮刑)や公民権停止になる危険性が高いこと
  3. 悪質な電子メール(ウイルス等)により、受信者側に過度の負担がかかるおそれがあること

今回の改正の中で、電子メールについては「SMTP方式又は電話番号方式を使用した電気通信」であると定められた「特定電子メール法」の定義を用いています。前述のように電子メールにおける有権者の発信(選挙運動用の文書図画の頒布)は認められておりませんが、逆に上記の電子メールの定義外、つまりそれ以外の通信方式を用いるものは「ウェブサイト等」という扱いになるため、FacebookやLINEなどのSNSユーザ間でやり取りするメッセージ機能ではそれが可能になります。

今や多くのユーザがメールとSNSのメッセージを意識せずに併用・使い分けを行っていると思いますが、今回のネット選挙ではそこに大きな違いがありますので、注意が必要になります。

余談ですが、Facebookなどにメッセージが届くと、自分のメールアドレスに転送されるような設定にしているユーザもいるかと思います。その場合はどうなるのかというと、あくまでも転送されるのは受信者側の設定ですので、送信者(情報発信者)側は意図していないということで違反にはならないとされています。

選挙運動、落選運動はどのようなことが該当するのか?

そもそもの話ですが、ネット上で解禁された「選挙運動」⁠落選運動」とはどのようなものが該当するのでしょうか。

「選挙運動」とは、ある特定の政党もしくは候補者を当選させるための運動を指します。名指しで「●●に投票しよう!」と呼びかけるのはもちろん、政策や活動を褒め称えることも該当しますし、⁠○○に投票してきた」という事実のみの投稿でも、場合によっては選挙運動であると看做される可能性があります。

また「落選運動」とは、ある特定もしくは複数の政党や候補者を落選させるための運動を指します。単純に「○○はこういう理由で評価できない」といった内容や、⁠○○候補を当選させてはならない」といった内容が該当します。その際に注意すべきことは、もちろん誹謗中傷や事実と異なる虚偽の内容を書かないこと。これは法的にも完全にNGです。

この「選挙運動」⁠落選運動」が今回の参院選よりネット上でも解禁されるのですが、注意点としては「未成年は認められていない」こと、そして「選挙の投票日当日は認められていない」ことの二つです。特に投票日当日に「○○さんに投票してきた!」という発信についても規制対象となる恐れもありますので、注意すべきだと言えます。

とはいえ、今回がスタートです

ここまで色々な視点から、今回よりネット上でできるようになることや、逆に発生するリスクを述べてきましたが、とはいえまだまだ法解釈にも余地が残されており、実際にスタートしている今回の参院選が1つの試金石になるというのは間違いありません。

政党や候補者の活動においても、どこまでがOKでどこまでがNGなのか。そしてもちろん有権者の活動においても、どう解釈されるのか。それは実際に今回の参院選を通して動いてみて、初めてわかることも多いと思われます。参院選の投票日まであと半月あまりですが、そうした部分に注目してみるのも面白いのではないでしょうか。

第3回目となる次回は、今回も少し触れた「ネット上の誹謗中傷や風評被害」について、ネット選挙を少し離れて色々な事例を述べてみたいと思います。

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