期待外れの低い投票率とともに、「与党圧勝」「ねじれ解消」という大見出しが躍った今回の参院選。日本初のネット選挙解禁後の選挙として注目されましたが、果たしてどのような顛末だったのか。選挙前後の動きをまとめてみました。
懸念されていた選挙法違反はほとんどなかったが……
今回のネット選挙解禁で最も懸念されていた、ネットを介した選挙法違反については、幸いにも逮捕者は現段階(投票翌日の2013年7月22日)では出ておらず、警告が23件だったと警察庁は発表しています(前回2010年の参院選より12件増加)。
その23件のうち、公示後の違反は9件。公示前の違反の14件のうち、公示後であれば合法だったものが13件ということで、ほとんど目立った混乱はなく終わったというのが正直なところでしょうか。
その23件の内訳も、電子メールを使った選挙運動での違反が8件、ホームページやブログが10件、FacebookなどのSNSが5件となっており、最も警戒されていた「誹謗中傷」や「なりすまし」「サイトの改ざん」などはありませんでした。実際、各都道府県の選挙管理委員会や警察、そして各プロバイダなど態勢を整えていたところはある意味拍子抜けといったところ。もちろん何もないことが良いとは言え、こうしたネガティブな面は今回のネット選挙ではほとんど見られなかったと言えそうです。
はたしてネット選挙解禁の効果はどの程度あったのか?
上記のように、結果的にネガティブな面はほとんどなかった今回のネット選挙ですが、逆にポジティブな面はどうだったのでしょうか。
今回の参院選の立候補者のうち、約9割が何らかの形でネットを活用したとされていますが、それに対して「ネット上の情報を参考にした」とする有権者は1割にとどまったと、共同通信社の出口調査で明らかになっています。
年代別に見ると、最も高かった20代でも23.9%、次いで30代で17.9%と、ネットが身近であるはずの世代であっても4人に1人程度でしかネットの影響を受けていないという結果に。IT企業が行ったFacebookユーザを対象にした事前調査では、6割のユーザが友人の「いいね!」等の影響で投票先を変える可能性あり、という結果も出ていたのですが、実際はそもそもの投票率が今回もだいぶ低かったという影響があるとはいえ、なかなか寂しいものでした。今回のネット選挙解禁にあたり比較される例も多かった、アメリカの大統領選挙。オバマ大統領が圧勝した背景にはネット戦略があるとも言われていましたが、そうした影響度に比べられるようなレベルではなかった、というのが今回のネット選挙での正直な結果なのではないでしょうか。
とは言え、これまでとは違った部分があったのも間違いありません。わかりやすいところで言えば、通常の選挙運動は投票日前日の20時までとなっていますが、ネット上に限っては日付が変わるまで選挙運動が可能ということで、投票日前日の夜は各党共にネット中継を行ったり、中にはアメーバピグの仮想空間でアバターを使って最後の訴えを行っていましたし、街頭演説にしてもネット中継を同時に行うことでこれまでこうした演説に触れる機会のなかったユーザにもアプローチできたと思います。
著名人のソーシャルアカウントでは、これまで以上に「自分は●●さん(○○党)支持」と表明するケースも増え、一部では「誘導ではないか?」という指摘もありました。また無所属候補の当選や、大きな支持母体を持たない立候補者が17万票の個人票を集めるなど、ネットを活用した効果が感じられる一面も一部にはありました。
今後、各政党は今回の選挙の分析を始めるでしょう。そして我々有権者も、今回の選挙を踏まえて情報の受け止め方や発信の仕方についても意識を変える部分があるかもしれません。こうした「次の選挙への変化を生む」ことが、初めてのネット選挙解禁であった今回の参院選の本当の効果なのかもしれません。
ネット選挙の行く末……今後どうなればいいのだろうか?
前述までのように、ネットを介しての明確な誹謗中傷などは行われず、プロバイダへの削除要請や警察への被害届などは、現在わかっている段階では1件もありません。ただ実際にある選挙区では陣営同士が激しくやり合い、それぞれの支持者がネット上でも少々エスカレートした表現を使ってしまった例がありました。
また立候補者の中には本人の許可を得ずにメール送信をしてしまったり、投票日当日に演説動画のリンクをtwitterに投稿してしまったり、違反に気付き自ら対処はしたものの、明確な違反や抵触するかどうかグレーな部分での選挙運動があったのも事実です。落選候補のtwitterフォロワーの水増し疑惑なども取り沙汰されていますね。
現在警察では約100件の事案について取り調べを行っているとのことですが、私の予想では今回の選挙絡みでネット関連の業者が「買収容疑」で受けている可能性があると考えています。本コラムの第一階で触れたように、今回のネット選挙解禁を受けて、ネット関連の企業の多くが新たなビジネスチャンスとして営業活動を行ったと思いますが、公職選挙法では「企画の立案」といった部分で協力することは「運動員」と看做されることになっており、プランニングまで踏み込んでサービスを提供してしまった場合にその対価をもらってしまうと「買収」とされてしまうのです。ネット大手はもちろんこうした部分はクリアにしてサービスを提供しているはずですが、中小企業の中には十分な理解をせぬままにサービス提供をしていた場合、今回の取り調べの対象となってしまっているかもしれません。
このように、ネットを活用する側である政党や立候補者も、その政党や立候補者にサービスを提供するIT企業も、そしてそれらの情報を受け取り発信する有権者も、それぞれが手探りのままで動いていったのが今回の参院選でした。ネット選挙解禁が果たして成功だったのか失敗だったのかというのは簡単には結論付けられませんが、残念ながら少なくとも投票率という観点ではポジティブな効果はなく、つまりは期待された若者の政治への関心度アップという部分もうまくいかなかったと言えるかもしれません。
さまざまなネットメディアを活用してユニークな選挙戦になったことは良いことだと個人的には思うのですが、それがきちんと有権者に伝わらなかったのは少々残念です。次回の選挙では「ネット選挙解禁の効果があった」と誰もが感じるくらい、各候補者のネット活用には期待したいですし、それを支える有権者としても積極的に関心を持てるような働き掛けを、まずは自分の周りからでも行っていきたいと思います。そしてそれこそがソーシャル時代の選挙の在り方だと感じています。
次回は選挙後一週間を経過しての改めての振り返りを行っていきます。各陣営のネット活用の具体的な手法や、もし新たな選挙違反の報道があれば、そうした部分の解説を行いたいと思います。