ニュー選挙パラダイス

第6回ワンス・アンド・フォーエバー~今回のネット選挙が今後に与える影響~

選挙終了から10日が経ちました。色々なデータも出揃ってきた現段階で、今回のネット選挙を振り返ってみます。

(本文)

ネット選挙解禁の影響はほとんどなかったのか?

さまざまなメディアですでに報じられておりますが、7月30日にグーグルの日本法人がネット選挙期間におけるデータ解析結果の速報値を発表しました。その結果をまずは取り上げてみます。

  • 政治関係の情報に接触した人は、テレビ番組を通してが95%、それに対してWebサイトを通してが41%
  • ネット上で一般的にユーザが多いのは若年層の男性だが、選挙については積極的に情報収集に活用されていなかった
  • テレビ同様に年齢層の高い男性が最もWebサイトでの接触回数が多く、女性は全年代でネット活用が少なかった
  • 政党の公式サイトへの訪問率は平均1%未満だった(最も高い自民党のみ約1.2%で1%超え)
  • 政党別のメディア接触回数の違いでは、民主党・みんなの党への投票者はテレビ経由が多く、自民党・共産党への投票者はWebサイト経由が多かった。日本維新の会はテレビ・Webサイト共に多かった
  • 同じWebサイト経由でも、自民党支持者は自民党の公式サイトやニュースポータルサイトの閲覧が多く、共産党支持者はブログやWebマガジンなどの一般サイトの閲覧が多かった
  • 政党のWeb検索と投票した政党の間には関連性がなく、ネットで検索をしたからといってその政党に投票しているわけではない

上記のネット関連のデータ数値については、投票直前までのデータは反映されていないため、最終数値で少し変わる可能性があるものの、大枠では上に挙げたような状況だったと言えるでしょう。

今回のネット選挙解禁で最も期待された、⁠若者の政治離れを止める」「投票率の向上」については、前回も述べたようにかなりの期待外れに終わり、戦後三番目に低い52.6%の投票率という結果でしたので、ネットのメインユーザである若年層の活用が少ないのではと思っていましたが、その通りのデータだったとも言えます。

こうしたことを踏まえて結論を出すとすれば、残念ながら「今回の参院選でネット選挙解禁の影響は軽微だった」と結論付けられるでしょう。

東京選挙区での争いは、本来目指すネット選挙の姿なのか

今回の参院選での大きな話題の1つに、無所属で出馬したタレントの山本太郎氏が、民主党現職だった鈴木寛氏と東京選挙区の最後の一枠を争い、結果として当選したという事象がありました。今回の参院選の中でもネット活用を積極的に取り入れた両陣営のデッドヒートは、本来目指したかったネット選挙の姿だったように思えます。

私が考えるネット選挙の理想は、候補者と一般有権者との「共闘」だと考えています。AKB48の総選挙が一部であれだけ盛り上がっているのは、⁠推しメン」と呼ばれる自分が応援するメンバーを何とか上位にしたい、というファン同士の、そしてファンとアイドル本人との「共闘意識」があるからだと思います。山本太郎氏と鈴木寛氏の両陣営からは、その「共闘意識」を感じることができました。

同じネットを活用するにしても、両陣営の戦略は違いがありました。⁠反原発」を大きく掲げる山本氏陣営は、元々多くのフォロワーを獲得していた自身のTwitterでの情報発信を中心に、街頭演説の模様をツイキャスを使って中継したり、同じく反原発を掲げた緑の党の三宅洋平氏とも協力し、⁠選挙フェス集会⁠という街頭イベントでネットとリアルの両面からの支持を得ることに成功しました。逆に鈴木氏陣営は、新経連の三木谷浩史氏(楽天社長)や藤田晋氏(サイバーエージェント社長)を街頭演説に駆り出した他、元スポーツ選手など、さまざまな分野の著名人の支持コメントを集めた「すずきかんを応援する会」のWebサイトやfacebookページを立ち上げ、IT業界やスポーツ業界他の有権者を集める動きを行いました。

そのどちらも、おそらく今回の参院選でネット活用をうまくできた例だと思います(実際にグーグルが発表したデータによると、7月4日~7月20日までの期間にグーグルで検索された検索量が昨年の同時期に比べて急上昇した立候補者名の1位が「山本太郎⁠⁠、2位が「鈴木寛」となっています⁠⁠。

私が「共闘」とした理由は、その両陣営がお互いをライバル視し、ネット上で批判合戦・擁護合戦が起こったことです(前提として、事実を基にしたネガティブキャンペーン=落選運動は、今回の選挙からネット上でも認められています⁠⁠。

事実、両陣営は最後まで激しく競り合い、どちらが当選するか予断を許さない状態が続きました。結果として山本氏が当選を果たすことになりましたが、良くも悪くもネット上でも激戦が繰り広げられたのです。それは今回懸念されていた「ネット上での誹謗中傷」が、唯一(と現状では言ってもいいくらいの希少性で)起こっていたことからも伺えます。そしてそのネガティブキャンペーンへの反論や擁護が自然発生的に起こったのも、この両陣営の争いでの特徴でした。今回はあえてその詳細までは述べませんが、興味を持った方は「山本太郎 鈴木寛 ネガティブキャンペーン」などで検索するとまとめページが出てくると思いますので、そちらをご覧ください。

鈴木寛氏は今回実現したネット選挙解禁の立役者の一人でもありましたが、逆にそのネット選挙が要因で苦戦し、結果的に選挙に敗れてしまったのも、非常に興味深いと言えるでしょう。

「共闘」をテーマに、ネット選挙は変化していくことができるのか?

アメリカの大統領選挙でネット選挙が盛り上がる理由の1つは、両陣営が若年層をうまく取り込み、⁠その陣営の一員となって」選挙に取り組む姿勢を醸成出来ていることだと思います。そのような形で選挙に携わることになった有権者は、自身のネットでの繋がりを最大限活用し、自身が応援する候補者への投票を呼びかけます。そこには「共闘意識」が確かにあります。では日本でのネット選挙はどうだったでしょうか。もちろん日本とアメリカで公職選挙法も色々と異なるので一概に比較することはできませんが、⁠共闘意識」が少しでも感じられたのは前述の2人の陣営を含め僅かで、多くはこれまでの街頭演説と同じように一方的な主張や呼び掛けになってしまい、⁠双方向性」というネット最大の強みを活かせていなかったと思います。また、せっかくネットでは細かにユーザのセグメントが出来る可能性があるにも関わらず、発信する情報はマスメディア向けのように全方位的な発信に留まり、一部のユーザに向けたメッセージなどは読み取ることができませんでした。

今回の参院選の結果だけ見ると、確かにネット選挙の意義は見出せませんでしたが、政党も候補者も、総務省や選挙管理委員会も、そして有権者にとっても、すべてが手探りの状況で行われていたのも事実です。そうした中で如何に次の選挙に向けて改善を図っていけるのかを考えていかなければいけないと私は考えます。

次回は、今回も少し取り上げたアメリカの大統領選挙におけるネット選挙の効果について、日本と比較するためにも取り上げたいと思います。

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