ネット選挙元年と言われた2013年夏の参議院議員選挙から早くも1年半。初の衆議院議員選挙が始まろうとしています。既にネット選挙がらみで逮捕者が出るなど波乱含みの出足となりましたが、改めて過去の選挙を振り返りながら、今後の「ネット選挙」の展望を解説します。
ネット選挙解禁によって、その後の選挙に変化はあったのか
ネット選挙が解禁された昨年7月の参院選以降、「果たしてネット選挙の影響はあるのか?」と言うテーマは、様々なところで議論されてきました。その議論における結論は、大筋として「思ったよりも影響が無いのではないか」と言うものでした。事実、これまでにいくつかの調査元より公表されてきたネット選挙関連のデータを見ても、既存のマスメディアに比べてどうしても全体的な影響は薄いと言えてしまうと思います。しかし一方で、もちろんマスメディアに比べれば物足りないものの、これまでとは違った手法として使うという位置付けにおいては無視できないデータも出ています。今年総務省がまとめた「インターネット選挙運動解禁に関する調査報告書」からいくつか取り上げてみます(調査は昨年の参院選と、2県の県知事選及び3政令指定都市の市長選について)。
- インターネットを利用して選挙情報に接触した人は3割以上、ただし新たに解禁となった「ネット選挙運動」(メールの受け取り、SNSでの候補者や支持者との交流など)は1割程度に留まっている
- インターネットを利用して選挙情報に接触した人のうち、その情報が「参考になった」「多少は参考になった」という人が7割以上
- インターネットを利用して選挙情報に接触した人のうち、実際に投票を行ったのは7割(73.8%)で、インターネットを利用しなかった人の投票率(57.5%)よりも高かった
上記のデータから言えることとすれば、インターネットを利用して選挙情報に触れようと思っている有権者にとっては、ネット上の情報は大きく参考とされていて、かつ実際の投票にも繋がっているということでしょう。その事実は、今年になって行われた東京都知事選挙や、まだ記憶にも新しい沖縄県知事選挙などで、ほとんどの候補者が自身のSNSアカウントを用意し、またその候補の支持者たちもTwitterやfacebookを中心に支持を呼びかける情報発信を行ったことにも表れていると言えます。つまり陣営にとってインターネットというメディアはもう無視できない存在だということでしょう。これまではマスメディアと街頭での活動が中心だった選挙運動に、変化をもたらしたということは確実に言えるのかもしれません。
インターネットは真実を見定める手助けとなるのか
今回の衆院選が始まろうとしていたつい先日、ネット上を揺るがした事件がありました。リアルタイムで騒動を追っていた人も多いかもしれませんが、あるNPO法人の代表を務める大学生が、小学四年生を装って「どうして解散するんですか?」というサイトを立ち上げ、そのサイトの中で今回の選挙を行うことへの批判を展開したのです。この事件は、ネットの持つ怖さ(身分を明確にできない匿名性)と、逆にネットの持つ可能性(真実を見定め、疑惑を追求する)の両面を改めて知らしめたと考えます。
昨年のネット選挙運動の解禁において、一部のネットユーザーが強い関心と危惧を覚えたのが「表示義務」についてでした。「表示義務」とは、選挙期間中に特定の情報発信を行う場合、情報発信者に一定の責任を持たせるという意図のもと、連絡先を明示しなければならないというものです。それによって誹謗中傷やなりすましを防止しようとしたわけです。
今回の事件は、「自称・小学四年生=非有権者」を装い、「小学生の素朴な疑問」という体を装うことで選挙運動に当たるかどうかを曖昧にするという手法を取られたわけですが、なりすましが見破られたうえ、自身で謝罪をすることになった今回の件は、選挙法違反と言われても仕方がありません。同時に、11月22日に公開された前述のサイトが、当日中にはネットユーザーによって「なりすまし」の可能性を指摘されると共にその黒幕まで突き止められたことは、今後こうしたなりすましによる選挙運動への抑止になったと評価しています。
昨年から議員や議員志望者向けの勉強会などで「如何にインターネットを活用していくか」と言ったテーマが取り上げられることも多いのですが、その答えのひとつは「長期的視点でアカウントを運用し、日頃から自身の主義主張を訴え、賛同者を得ることが重要」と言うことだと思います。そうした場合、もしも過去の自身の発言とまったく異なる発言をした場合、その発言が意図的でもそうでなくとも、ネットユーザーによって詮索され、その事実が明らかにされてしまう可能性もまた、充分に存在すると考えています。
そのようなことから結論を出すとすれば、様々な情報が錯綜する選挙運動において、インターネットは今後も一定の役割を担っていくことが期待されますし、現役の議員や候補者にとっては「ごまかしの効かないメディア」として、長い目で付き合っていかなければいけない存在になるのだと私は思います。
次回は、衆院選も佳境を迎え、この短期決戦において各陣営がどのようにネットを活用した選挙運動を展開しているのかを取り上げると共に、有権者である我々の注意点についても復習をしていきたいと思います。