最近めっきり見かけなくなりましたが、僕がまだ子供のころはボットン便所という万有引力を用いるだけで排泄物をなかったことにする、見て見ぬフリするという排泄処理施設がありまして、僕が1歳まで住んでいた長屋でもニュートン大喜びのボットン便所を利用しておった、というのを前提で今回のコラムを進めてゆきたいと思います。
数年前、実家に帰ったとき母親に
「なんか僕が小さい頃にあったさ、親子愛みたいな話ないの?親子愛みたいな話を聞かせてよ」
とお願いすると、母親は目を細めて昔を思い返す表情をし、少し嬉しそうに僕に「親は子供がピンチになると凄まじい力が出る」という話をしてくれました。
具体的な内容を申しますと、ボットン便所に隣に住んでいた子供が落ちてしまうという事故があったそうなのですが、その子供を助けるために父親はボットン便所の便器を自力で剥がし、中に落ちた子供を助けたらしいのです。
「素手やで?素手で便器剥がしたんやで?凄いやろ?」
そう目を爛々とさせながら僕に聞かせる「親の愛」の話は、予想通りそれ以上の展開はなく、僕も母親も一切出てきませんでした。