物心ついたときから鼻どおり悪かった僕は、嗅覚というものが他の人に比べてあまり発達してなくてはっきりとわかるのは犬の糞くらいでした。
幼い頃、家族旅行で連れていってもらったラベンダー畑でも「紫色だな」くらいしか感想を持てず、美味そうなメシが出てきたときも匂いがわからないので湯気を顔にあびて美味そう感を楽しんでおりました。
おもいっきり至近距離で嗅ぐと、一瞬だけ匂いがわかることもあるのですが、きっと30年間生きているうちに脳が「匂いを嗅ぐ」ということを忘れてしまったので1秒後には何も感じなくなってしまっているのです。だから冒頭にも書きましたが僕が知覚できる香りというのは幼い頃から「犬の糞」でした。それは、ぼくの唯一の友達でした。彼(彼女?)だけが僕に匂いというコミュニケーションをとってくれたのです。
しかし僕も30歳を迎え、いつまでも犬の肛門から出てくる不良と付き合ってはいられません。友達を選ばないと世間体も悪いのです。
そんなわけで、先日耳鼻科に行き鼻にレーザーを当てて嗅覚を復活させてもらおうと思いました。鼻の中の皮膚がパンパンに腫れているせいで鼻孔が狭く、空気が通りにくい状態なのでレーザーを当てて腫れた鼻の中を治してしまおうという話です。
術後は「腫れてない鼻を持つ男」として映画化も視野に入れた小説の執筆も考えていました。僕は、とにかく明るい未来を想像してワクワクしていたのです。
- 「あかん。骨やわ。皮膚じゃなくて鼻の骨が主張強すぎて鼻孔閉じてるからレーザーじゃなくて整形やな」
診察後、医者にそう言われたとき僕は「整形」という言葉に肩をがっくりと落としておりました。
僕の鼻は整形しないと治らないというのです。僕の鼻はSMAPの中居くんそっくりの顔に整形しないと治らないというのです。