ぬかるみの上を歩いてしまったな。
最初はそう思いました。
ただ、靴の裏に感じる異物感は、泥というよりかは粘土質で、僕は靴底をアスファルトにこすりつけてその汚れを拭おうとしました。
しかし、靴の裏にある溝のような模様に擦りきれ一杯、みっちりと詰まったその粘土質のものは、わずかながら重量を感じさせ、日常で踏むであろうものよりも質量が高いことがわかりました。
「アレだったらどうしよう」
そう思うと同時に、今でもなぜそうしたのかわからないのですが、僕は靴の裏に指を這わせてそれを拭って嗅いでいました。
「アレだ!」
頭にひらめいたときに出る電球みたいなのが点滅した瞬間、大男にハンマーで鼻を殴られたような衝撃と気を失いそうな刺激臭が鼻孔に突き刺さりました。
一体なぜ?この飼い主マナーが向上した現代の日本で何故ソレがオフィスの前にバラ撒かれていたのか?
なんらかの恨みを犬を飼っている誰かから買っていたのか?
そもそも飼い主マナーとか言ってたけど「犬の」なのか?
「人の」ではないのか?
もしくは社員のではないのか?
いや、この連載の編集担当者のではないのか?
僕が毎回ITとは関係のないことばかり書くからオフィスまでわざわざ来てひり出して帰ったのではないのか?
「とにかくこの靴をなんとかしないとこの後に乗るタクシーの運転手さんと気まずくなってしまう」、そう思って僕はコンビニのトイレに駆け込み、洗面所でたまたまポケットに入っていた爪楊枝を彫師のように靴の裏の溝に溜まったソレを丁寧に丁寧に削っていきました。水をかけ、道具を使い邪を払う。菩薩を彫る仏師や、名刀を生み出す刀鍛冶はきっとこんな気分なんだろう。あのときほど自分のことをクリエイターだと思った日はありません。
以上、今週のITニュースでした。