寝不足社会・日本
いきなりの質問で恐縮ですが,あなたは昨晩,何時に寝ましたか? そして睡眠時間は何時間でしたか? 6時間以下か,7時間程度か,あるいは8時間以上?
ACニールセンの調査によると,世界で最も睡眠時間が短いのは,なんと日本人だそうです。41%の人は平均6時間以内の睡眠時間しかとれていません。また,日本人の睡眠時間は過去20年ずっと減り続け,余暇など自由に使える時間も少なくなっていることもわかっています。忙しすぎて,休むヒマもない。これは誰もがかかえる悩みのようです。
ちなみに,睡眠時間が足りないと,どういう影響が出るのでしょうか。じつは人間の成長ホルモンはおもに夜間分泌されます(“寝る子は育つ”という昔の諺は科学的でした)。成長ホルモンは成人になっても出続けますが,その役割は体のメンテナンス修復にあり,心臓病などさまざまな病気のリスクを下げてくれます。分泌は夜の10時から夜中の2時頃までがピークで,だからこの時間に寝ていないと,本当に眠ったことにはなりません。12時過ぎないと寝ない人は,じつは本来の半分しか体が回復しないのですね。
では,なぜ日本人はかくも寝不足になったのでしょうか? 日経BPコンサルティングによる別の調査によると,これもはっきりしています。『仕事時間の増加』──理由はこれです。通勤時間が長くなったからではなく,遊ぶのに忙しいからでもなく,純粋に仕事時間が増えてしまった。かつ,今後はさらに多忙化の傾向だろう,との回答が6割以上をしめています。多忙による疲労の蓄積が調査回答者の最大の懸念です。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」がやってくる
この多忙な状況に,さらに追いうちをかけるような話が昨今,話題になっています。2006年6月,厚生労働省(労働政策審議会)は,ホワイトカラーへの労働時間規制を適用免除とする法律の素案を提出しました。いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」です。早ければ2008年度にも立法化の見込みといわれています。
厚生労働省は「自己管理型労働制」と呼んでおり,知的労働に従事するホワイトカラーから『残業』の概念をとりはらうことが意図されています。労働時間規制がなくなったら,1日8時間働いても12時間働いても同じ収入です(だから法案反対派は「残業代ゼロ法案」と揶揄しています)。時間管理も「自己管理・自己責任」の時代になるわけですね。
ちなみに,ホワイトカラーの定義とは「腕力・身体的技能及び能力を用いて,主として反復的労働に従事する労働者」でないことです。あなたにはあてはまりますか?
なぜ忙しくなったと感じるのか
上記日経BPコンサルティングによる調査によると,多忙になった原因と感じるトップ3は,「人員の削減」「業務の複雑化」「競争の激化」です。
第一の原因・人員の削減は,長い不況の間に多くの企業で行われました。しかもこの数年間は,景気も若干回復し,人は減ったのに業務量は増えたという状態です。するとこの問題は結局,経営者のせい,ということになります。
第二の原因・業務の複雑化とは,PCを使った業務がふえていることもありましょう。それだけではなく,顧客からの割込み・突発・やり直しが多すぎると感じている人が多いようです。つまりこの問題は顧客のせい,というわけです。
第三の原因は競争の激化ですが,これはたまった仕事に追われる感じがするのでしょう。忙しさは,たまった仕事(バックログ)のせい,となりそうです。
さて,そうすると,多忙感の原因はすべて,自分の手の届かない,コントロールできない領域にあることになりませんか?「忙」という字は「心を亡くす」と書きます。真にこわいのは,時間に追われて,心をなくすことかもしれません。しかし,それでは忙しさを解決する方法はないのでしょうか?
いいえ。人も増やさず,業務量も切捨てず,バックログもキャンセルせずに,多忙感を少なくする方策があります。それが,これからご説明する「タイム・マネジメント」の方法です。
時間──もう一つの経営資源
よく「人・モノ・金」をまとめて『経営資源』とよびます。最近は,これに「時間」という第4の要素を加えるようになりました。では,「人・モノ・金」という貴重なる資源は,どう扱われているでしょうか?
まず,「お金」は管理していますね。会社では,予算を決めて,出納の記録をつけ,決算で対比することを必ず実施しています。
そもそも管理って何でしょうか? それは,端的に言って“Plan-Do-See”(計画・実行・評価)のマネジメント・サイクルをまわすことです。Plan=予算,出納=実行,決算=評価ですね。
「モノ」だって,まともな会社ならば在庫管理をしているはずです。具体的には,手配(=計画)と入出荷(=実行)と棚卸(=評価)のマネジメント・サイクルをまわしています。
「人」だって,(お金やモノよりはやりにくいけれど)管理しています。採用・組織配員・評定がそのマネジメント・サイクルです。
では,「時間」はどうでしょう? 「時間」なんて管理できるのでしょうか?
考えてみればわかるとおり,時間それ自体は,管理できるものではありません。万人に共通に与えられ,使わなくても手元から消えていくものです。私たちにできるのは,「時間の使い方」のコントロールです。タイム・マネジメントとは,時間の使い方に関して,マネジメント・サイクルをまわすことなのです。
図 タイムマネジメントの基本サイクル

つまり,三つの仕組みと方法が必要になることがわかります:
- 予算=スケジューリング
- 実行=To Do リスト+日誌
- 決算=進捗確認・生産性評価
この連載では,これから上記の仕組みと方法について,初歩から学んでいきましょう。
- 【参考】
- 『社会生活基本調査』総務省(2006)
「日本人は7時間以下の睡眠が主流」 日刊ベリタ(2005年03月29日記事)
URL:http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200503292159192
- 「仕事による疲労とその影響」セイフティー・ジャパン連続調査No.31
日経BPコンサルティング調査第一部 松田紳司
URL:http://www.nikkeibp.co.jp/sj/research/08/index.html(2006)