サイバーミステリは、その性格上、リアリティをベースにした、サイバー教養小説の性格を少なくありません。そして舞台となるサイバー空間がなんでもありのため、きわめてリアルに近い、場合によってはリアルを予言する内容になりがちです。
他にも違いは、たくさんあり、あげていくときりがないのですが、もっとも大事なものを選ぶとすると、”証拠”という概念の崩壊と、さきほどのリアリティの担保、従来のミステリに通じる『騙し』のトリックとテクニックの3つです。
“証拠”という概念の崩壊=『サイバー空間におけるデータ同定問題』
リアルの物体なら指紋や製品番号で特定できますが、デジタルデータは特定できません。同じデータが複数あったら区別することは不可能です。証拠という概念が根底から覆ります。ひとりの人物が、自分の個人情報を複数のサイトに登録したら、全く同じ情報が複数存在し、いずれもオリジナルとなります。その人の個人情報が漏洩した時、どこのサイトから漏洩したかわかりません。
これを利用すれば起きてもいない事件を起きたように見せかけることや、起きた事件を起きていないように見せかけることが可能になります。これはサイバー空間特有の概念です。
リアリティの担保 サイバーミステリは常にリアルと直面する
従来のミステリと異なり、サイバーミステリには常にリアルがついて回ります。密室犯罪を行うために瀟洒な洋館を建築する酔狂な人物は滅多にいませんが、特定の人物を罠にかけるためにネット上に罠を張り巡らすのは珍しいことではありません。データを人質にとって身代金を要求する犯罪、大手サイトに掲載される広告にウイルスを仕込む攻撃、自動車へのハッキング、発電所のシステムを停止させる攻撃……絵空事でなくリアルに可能です。自分を裏切った男を殺すために、ダムの制御システムをハッキングして男の住む地域全体を濁流で押し流すような犯行もリアルに可能です。いわばなんでもアリの現実を前にして、サイバーミステリはそれを超えるような罠と仕掛け、トリックを考えなければならない宿命を背負っています。
最終的には、『騙し』のトリックとテクニック
上記ふたつの特徴にもかかわらず、リアルのサイバー犯罪もサイバーもミステリも重要なのは、いかにして相手を『騙す』かということです。技術的な裏付けの重要ですが、うまい『騙し』のトリックやテクニックがなければ活用できません。従来のミステリと同じミスリードや錯覚、盲点を駆使しなければなりません。
9月29日19時からサイバーミステリ作家一田和樹さんと評論家の遊井かなめさんが、弊社にてサイバーミステリについて語るセミナーを行います。
題材となるのは、弊社刊の『個人情報ロンダリングツール=パスワードリスト攻撃シミュレータの罠 工藤伸治の事件簿番外編』です。
ご興味ある方は、ぜひおいでください。
お申し込みは、こちらから(24日まで早割1,000円)
サイバーミステリの楽しみ
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