価値を生むUXデザインのカギは「コラボレーション」

「ユーザエクスペリエンス(UX⁠⁠」や、その手段としての「UXデザイン」が、ここ数年、注目を集めています。しかし、UXデザインといっても、なんとなく取り組むのでは、うまくいかないことがあります。

価値が生まれるようにUXデザインを進めるには、どうすればいいのでしょうか。

フォーデジットデザインと、クリエイティブサーベイという、二つの会社をされている田口 亮さん(HCD-Net認定 人間中心設計専門家)「価値を生むUXデザインのありかた」について伺いました。

プロフィール

田口亮(たぐちりょう)

株式会社フォーデジットデザイン 代表
クリエイティブサーベイ株式会社 代表
HCD-Net認定人間中心設計専門家

慶応義塾大学経済学部卒業、音楽業界を経て FOURDIGIT Inc. 入社。2008年、同社の取締役に就任。大手企業を中心にWebサイト、ディレクション・クリエイションを数多く手がける。2012年、HCD-Net認定人間中心設計専門家の認定を受ける。2012年フォーデジットデザイン設立。2014年クリエイティブサーベイ設立。

株式会社フォーデジットデザイン
クリエイティブサーベイ株式会社

「ユーザにとってどんな価値があるのか」から考える

――田口さんは、フォーデジットデザインと、クリエイティブサーベイの、ふたつの会社をされています。まずは、それぞれのお仕事からお伺いできますか。

フォーデジットデザインは、Webを中心としたデジタル領域のデザインを受託していて、主にインターフェース・インタラクションのデザインを提供しています。プロジェクトの上流段階から、デザインのパートナーとして、ユーザに提供したい価値を共有しながら制作をしています。

プロジェクトによっては、ユーザモデリングの際に定量的なリサーチをしたり、ユーザインタビューをしたり、クライアントと一緒にユーザテストやペーパープロトなどのワークをすることもあります。

最近の事例ですが、子どもがいるお母さんたちのためのWebプロジェクトがありました。子育てが楽しくなる、仲間ができる、悩みを打ち明けられる、そういうコミュニティサイトプロジェクトです。Webサイトの初期の構想には、ユーザの継続利用のために、ユーザ同士でポイントをやりとりする、という機能があり、⁠いいね」をされたら、ポイントがゲットできるようなものを予定していました。

プロジェクトが進行していって、社内でのデザインレビューの際、⁠ポイントがあることで、そもそもユーザに与えたい体験のコンセプトからズレてしまっていないか?」という意見が出ました。時期としてはリリースも近づいていたのですが、もう一度、クライアントと議論し、最終的には、ポイントではなく気持ちを伝え合うようにしよう、感情を表すアイコンを送る、というようものを提案し、採用されるというケースがありました。

チーム全体が、コンセプトやターゲットユーザを見えていないと、デザインの実装は作業に落ちてしまいがちですが、ユーザ理解のためのプロセスを経て、実際の使っている姿などを見ることで、チームが意識を共有できます。単に作るということでなく、⁠提供したい体験」をふまえてデザインをするようにしています。

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デザインを決める場に、ユーザ像の裏づけになる情報を

――もうひとつの会社、クリエイティブサーベイについても、お伺いできますか。

クリエイティブサーベイが提供しているのは、ひとことで言うなら、セルフアンケートシステムです。もともとは、デザイン調査をするために自分たち向けに開発したのが、クリエイティブサーベイのはじまりです。

ありがちな話なんですが、デザインを決める会議で、クライアントのなかに役職が高くて、だけどプロジェクトやターゲット層をよく知らないメンバーがいたとします。その偉い方が「このデザインがいい」と言ったら、どうしてもそれに決まってしまう。いっぽうで、デザイナーもユーザのことを考えてはいるのですが、デザイナー自身がそう思いました、というだけで、根拠のあるユーザ像ではない。デザインを決める会議のはずなのに、判断の裏づけになるものが何もない、といった場面に、昔よく遭遇しました。

そのときにきちんとしたユーザ像やユーザが持つ印象がわかれば、判断の軸がぶれなくてすみます。さらに踏み込むと、⁠このデザインは、女性の××%が支持して、男性からも肯定的な意見が○○%ありました」という、裏づけの情報があれば、的確な判断がしやすくなります。そういったターゲット理解や印象評価をするデザイン調査をしていました。

たとえば、あるコンサルティング会社のWebサイトのために、コンサルタントの信頼感を生むビジュアルデザインとはどういうものかを調査したケースがあります。

類似した業界のWebサイトを集めてみると、信頼感を出そうして正面を向いた人物写真を使ったトップビジュアルが多くありました。人物をフォーカスするのであれば、人物が映っていること自体はおかしくないと思います。しかし、それらのサイトをデザイン調査にかけてみると、人物写真には、かなりネガティブな意見が出やすいことがわかりました。いっぽう、人物写真であっても、資料を提示している姿や何かを案内している風景はポジティブな反応があることがわかりました。

調査で明らかになったのは、ユーザは、その会社の人に会いたいのではなく、何かをしてもらいたいから、会うわけです。考えてみれば当然のことのようですが、調査をしないと気づきづらい。実際にその調査結果に基づいたデザイン改善をした結果、コンサルタントの印象スコアが大きく改善しました。

クリエイティブサーベイはリサーチの経験を元に、Webツールとしてデザイン調査だけでなく、通常のアンケートや市場調査などもできるようにして一般に公開しました。企業がユーザの声を聞いたり、イベントでのアンケート、サービスやアプリのフィードバックといった場所で使われています。ユーザは数万人ですが、その先の回答者も含めるとかなりの人がクリエイティブサーベイに触れてくれています。

フォーデジットデザインとしては、僕のような人間中心設計専門家もいるし、クリエイティブサーベイという調査ツールもあります。ほかのデザイン会社とは違って社内でリサーチレベルの調査を簡単に実施できるというシナジーもあります。

「本質を見て作ってくれるから、プロジェクトがぶれない」

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――貴社のお仕事は、まさにユーザ中心に進めているのがわかりました。ただ、クライアントにも、それなりに負荷がかかるのではないでしょうか?

調査やテストが必要なプロジェクトであれば、やっぱりこういう感じで進めましょう、というのは、クライアントに最初に提案します。当然、負荷がかかることもありますし、ただ作るよりも大変なこともあります。ただ、そのぶん納得度の高いプロジェクトになります。クライアントと一緒になって考え、そしてアウトプットにつなげられることを大事にしていますし、一緒にユーザテストをやったりして、みんなで喜んだり首をひねったりもするので楽しいことも多いです。

嬉しいことに「フォーデジットデザインは、本質を見て作ってくれるから、プロジェクトがぶれない」と評価をしていただくこともあります。

コラボレーションで、クオリティが生まれる

――社内のチームもたいへんだと思います。そういう姿勢で取り組むチームは、どうしたらできるのでしょうか。

プロセスや手段を理解しているファシリテーターがいることもありますが、基本的にはメンバー同士のコラボレーションをとても大事にしています。デザイナー、デベロッパー、ディレクターといったメンバーがショートミーティングを重ねます。社内を見渡してもいつも誰かしら話し合いをしています。Webやアプリでは、ビジュアルデザインと技術が切り離せないくらいお互いに影響していますので、デザイナーとディレクター、デベロッパーとディレクターといった点のコミュニケーションにならないように気をつけています。

たとえば、デザインを良くしようとしたら重くなって、ユーザの使い勝手が悪くなる。でも、デザインとしてはぜひ実現したいので、技術でどうにか解決できないか?というような話がたくさんあります。その逆も当然あります。

デザインを良くしたい、実現したいイメージはあるけど、技術がわからないし大変さもわからない、だから遠慮する、ということが起こると、コラボレーションが生まれないんです。僕らは、作っていて少し疑問が浮かぶと、⁠ちょっと見て」と集まって、すぐ議論をします。⁠これユーザにとって嬉しい?」⁠となりの人に」ちょっとやってみて」という感じです。

――なるほど。

また僕らは、プロジェクトのオリエン段階から、デザイナーもデベロッパーも参加します、基本的にはそのチームでプロジェクトの最初から最後までやります。作るメンバーがプロジェクトの最初からいて、クライアントとも顔を合わせているのも大事だと思っています。

プロジェクトの上流工程で、ユーザに提供したい体験をドキュメントにする、というのは、Web制作の進めかたとしてよく見かけます。しかし、ユーザモデルやコンセプトなどは、どうしても言語にしきれないものがあります。たとえ、ジャニーマップなどのフレームワークを使っても書類や文字では伝わりきらないものがある。デザイナーや開発者が議論やワークの中にいることで、言語化できない意識もそろってきて、ユーザに提供したい体験を共有し、デザインへ落としこむことができるようになります。

なので、僕らはみんなでプロジェクトに参加、細かいミーティングを重ね、共通認識を作り続ける、というコラボレーションのやり方を取っています。

――なぜ、そのスタイルにしたのですか?

Webやアプリが単純に1つの専門性で完結することはすごく少なくなって来ていて、専門性が深い領域で融合すること、つまりコラボレーションすることで全体としてのクオリティが高まると思っているからです。

「掛け算」になる瞬間があります。デザイナー、デベロッパー、ディレクターが考えていることが、いい感じに掛け算になっていって、うまく融合する。という姿を目指しています。誰かが途中までやって文書化や指示があり、次の誰かがやる、という仕事の進めかたでは、コラボレーションはなかなか生まれない。チームで何かを作って、できあがるものは、1人で作れる以上のものを作りたいなと。それにはコラボレーションが大事だと思います。

言語化できるもの、できないもの、両方が組み合わさって、うまくいく

――さまざまな専門性が組み合わさって、いいものができる、ということですね。

デザインプロジェクトでは、⁠これすごい!」という感覚的な領域があります。理論立ててこうつくれば正解、と言われたとき、納得するときと、ちょっと違和感が残るときがあります。言葉や書類にすることで、何か大事なものが欠けてしまうことがある。

たとえば、フォーデジットデザインのWebサイトを作ったときにプロジェクトメンバー内で起こったことです。

まず、しっかりと目的とか、Webサイトがそうあるべき理由を組み立てて、手順よくプロトタイプと情報設計をしながら、ワイヤーフレームに落とし込む作業をしました。手段としては正解だし、中間成果物も問題ないという状態。そしてワイヤーフレームになったとき、チーム内で起こったのは、⁠なんだこのサイト、つまんない・・」ということです。

間違ってはいないんですが、良くない。心地良くない。⁠こんなのを作るの? このワイヤーフレームだとダサい」みたいな(笑⁠⁠。そこでプロジェクトチームは、コンセプトメイクまで戻って再スタートしています。

書類に表現できない言語化されない感覚的なことも、立派な判断基準であり、言語化できるもの、できないもの、両方が組み合わさってこないと、うまく行かない。理論的に完璧に見えても、何かが欠けている、そのときに、ちゃんと「つまらない」と言えることが大切です。

――手順としての正しさにはこだわってないということですか?

いろいろな技術がどんどん進歩していて、たとえば、アドテクノロジーに費用を投下すれば、それなりに人を集めてくることができたりします。ただ、数字に意識をとらわれてしまうことがあります。トラフィックがあれば勝ちとか、人が釣れればKPIクリア、OK、というようになってはいけない。

クライアントさんと仕事をしていると、やっぱりみなさん情熱を持ってサービスを提供しているし、良いものをアウトプットしたいとか、良くしたいという想いを感じます。そうじゃないものが世の中に増えるとつまらないし、僕たちも、やっぱりユーザにとって良いものを作りたいと思います。

それには、ユーザのことを知らなければいけない。デザイナーにしても、ディレクターにしても、サービス提供者にしても、ユーザにとっていいものを作ろう、ユーザに価値を提供しよう、と考えるのは当たり前のことだと思います。ユーザ理解もテストも分析やテクノロジーもいろんな手段がありますが、いつも考えるのはそこのところですね。

人間中心設計は、デザインプロセスを体系立てて整理してあるので、変にバズワードに振り回されずに済みます(笑⁠⁠。デザイナーやWeb業界の方にももっと知ってもらいたいですね。

――ありがとうございました。

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(申請締切:12月31日)

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申込受付期間:2014年11月25日(火⁠⁠~2014年12月31日(水)

応募要領:http://www.hcdnet.org/certified/

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