インタビュー

ひとりでも多くの「優秀なデジタルクリエイター」を輩出し,より良い世の中をつくる ―三上陽平流UXデザインのエバンジェリストとしての組織の巻き込み方

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担当者との信頼関係を作り,組織を巻き込んでいくための戦略

もう1点,現在の三上氏が持つ「組織の巻き込み方」に強く影響した出来事について伺いました。

「今,自分の強みと感じている上層部などへの影響を見据えた組織の巻き込み方は,前職での学びが大きいです。メンバーズキャリアに転職する前は,EC事業関連の会社に勤めていたのですが,そこで営業の視点と事前のネゴシエーションの大切を学びました⁠⁠。

三上氏は,プロジェクトそのもの価値向上以外に,プロジェクトをスムーズに遂行するためには,関係各所,とくに上層部を中心とした組織の巻き込みが重要と考えます。

実際にはどのようにするのでしょうか?

まず,プロジェクトをはじめる前に,座組と決済権がある人物を明らかにしていく。交渉する際にどの人物を中心に話をするかも想定しておくのが重要です。資料は,上層部に渡ることを想定して,常に戦略的に作る。

三上氏の言う⁠組織を巻き込む⁠というのは,自分だけが動くのではなく,想いをのせた資料が社内で広がっていくことも含まれているのです。

また,さまざまな要因が絡み合い,あるべきUXデザインや人間中心設計ができないのはよく耳にする話でしょう。その中でも「積極的に自分が関われることを探し,できることをいつでも出せるように,常に準備することが大切だ」と三上氏は言います。たとえば,空き時間にペルソナやジャーニーマップをあらかじめ自ら作っておき,担当者に見せておけばイメージしやすくなります。

地道な活動を繰り返すのは大変ですが,種まきをしておくわけです。⁠人間中心設計のエッセンスを少しずつ浸透させていき,いつの間にかできている状態になれば幸せ」と,三上氏は和やかに語りました。

チャンスが来たときに,戦略的に見せられる手札をどれだけ持っているかが勝負

やりたいことを実現するために手を尽くすことを,三上氏は野球に例えて「ストレートばかりを投げていても通用しません。緩急を付けていく中で,どれか1つに反応してもらえれば良いのです」と語ります。最初は「これこそがUXデザインだ」とストレートばかりを全力で投げていた三上氏は,その当時担当者にはまったく届かなかった経験を振り返りました。

変化球を投げられるようになったのは,地道なコミュニケーションの成果だと言います。たとえば,メンバーと一緒にご飯を食べに行くだけでも十分です。人に興味を持ち,信頼関係を築いていくことがとても大切という考え方です。

三上氏の経験談で興味深い話を教えてもらいました。あるとき社長が,三上氏の知り合いからこれまで聞いたこともないような話を引き出したそうで,その後,社長から「専門家でなくてもこれだけインタビューができる。三上は本当に人間が好きなのか?」と問いかけられたそう。このとき,三上氏は,仕事を進めていくうえで,人に興味を持つこととはどういことなのか,人を好きになることが本質だということに気づいたのです。

そしてもう1つ。

プロジェクトにおいてUXデザインに関わる話題に担当者が反応してくれたときに,自分が出せる次にカードを持っているかどうか,これがさらなる展開につながるかどうかのカギを握ります。その意味では「人間中心設計の資格を持っている」⁠執行役員である」というのもカードの1つになりえます。どの手札を見せていくのか,戦略的に考えていくことが必要です。

「ここに辿り着くまでにかなり時間がかかったし,つらく長い旅路でした。まだまだ旅は長いと思いますが,やっとここまで来られたように思います」⁠三上氏⁠⁠。

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まわりを巻き込み,仲間とともにさまざまな人たちに広げていく

三上氏は,2019年はさらに,ワークショップデザイナ―の養成講座に通ったそうです。⁠今度はワークショップを通して,UXデザインや人間中心設計を広めていくことにチャレンジしていきたい」という想いがあったから。

ただ座学で知識を知るのではなく,みんなで取り組み切磋琢磨するのがとても大事なのだと言います。ワークショップを通して自分たちで学ぶと,⁠自分を中心とした仲間たちと何をやるのか」という風に,主体性の持ち方が大きく変わるからです。

三上氏は最初はひとりでこつこつやっていたことに,まわりを巻き込めるようになりました。最近は,執行役員という立場を活かしながら,より多くの,さまざまな人たちにUXデザインの楽しさを広めています。⁠仕事がうまくまわり,さらに自分自身の楽しさが増すという,良いサイクルに入っている感覚がある」と,三上氏は現在の自分を評価します。

「正直,死ぬほど挫折もしました。思うような仕事に就けなかったり,自分の気持ちが強すぎて伝わらないこともありました。それを少しずつ解決していく手段が,学習し続けることだったんです。知らないことを知ることは純粋に楽しいです。やっぱり,少しでも世の中の役に立つことをしていきたいですね」⁠三上氏⁠⁠。

挫折を乗り越えながらも試行錯誤を繰り返し,組織までもを巻き込んでいく姿にはとても勇気付けられました。これからも多くの人たちを巻き込み,三上氏のUXデザインへ向かう旅は続きます。

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著者プロフィール

森川裕美(もりかわひろみ)

UI設計とフロントエンドをつなぐひと。

RIA開発に憧れ2009年よりエンジニアキャリアをスタート。HTML5の黎明期からWebフロントエンドのR&D業務に関わったのち,新規事業や業務システムを中心に,シナリオ設計からIA,プロトタイプ開発,ユーザビリティテストまで一貫してUI設計業務に従事。現在はアジャイル開発の推進を行う。HCD-Net認定人間中心設計専門家,Scrum Alliance認定スクラムプロダクトオーナー。


羽山祥樹(はやまよしき)

時代の3歩先をねらうWeb屋さん。

1996年からインターネットに触れる。Webデザインのアルバイトでネットショップの立ち上げと運営を経験。就職後、システム営業を経て、現在はIT系商社のWeb戦略に関わる。

大規模Webサイト運営やWebガバナンス、Webサイトガイドライン、Webコンテンツ品質管理・監査を得意とする。UXD(ユーザエクスペリエンスデザイン)やIA(情報アーキテクチャ)、アクセシビリティの分野でも積極的に活動をしている。

個人Webサイト:http://storywriter.jp/

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