「AWS re:Invent 2019」ミニレポート“re:Inventのスキマから”

002 45秒が命運を分ける ―ロサンゼルスの地震警告システム「ShakeAlertLA」支えるAWS

AWSは各国の政府機関や自治体、NPO、学校などのパブリックセクターにおいても高いシェアを誇っており、現時点で4万を超えるパブリックセクターの顧客がAWSクラウドを利用しています。とくに米国では、政府専用リージョン「AWS GovCloud」が用意されていることもあり、日本では考えられないほどの先進的な使い方をしているパブリックセクターも存在します。

今年のAWS re:Inventには約6000名を超えるパブリックセクター関係者が参加しており、パブリックセクター"だけ"にフォーカスしたプログラム「The World Wide Public Sector Keynote」の参加者も1000人を超える活況を呈していました。このキーノートでは、その年にアナウンスされたイノベーティブなパブリックセクターの事例がいくつも紹介されるのですが、本稿ではその中から「ShakeAlertLA」―2019年の「City on a Cloud Innovation Challenge」⁠AWSクラウドを使ったもっともイノベーティブなプロジェクトを実施したパブリックセクターに贈られるアワード)「Dream Big」部門で受賞したロサンゼルスのケースをピックアップしてみます。

「City on a Cloud Innovation Challenge」はAWSが全世界のパブリックセクターを対象に毎年開催しているコンペティションで、夢のあるアイデアを競う「Dream Big」部門にはロサンゼルスを含む18の組織が応募した
「City on a Cloud Innovation Challenge」はAWSが全世界のパブリックセクターを対象に毎年開催しているコンペティションで、夢のあるアイデアを競う「Dream Big」部門にはロサンゼルスを含む18の組織が応募した

ロサンゼルスは日本と同様、つねに地震のリスクにさらされており、大きな揺れが発生した場合に住民の安全をいかに担保するかは、同市にとって長年の課題でした。この課題を解決するためにロサンゼルスが取り組んだプロジェクトが「ShakeAlertLA」で、バックエンドシステムはAWS上(ベースはAmazon EC2またはKubernetes)で構築されています。

プレゼンを行ったサンゼルス市CIO テッド・ロス氏
プレゼンを行ったサンゼルス市CIO テッド・ロス氏
「ロサンゼルスは地震の街」⁠ロスCIO)
「ロサンゼルスは地震の街」(ロスCIO)

地震の後に"通知"するのではなく、これから来る地震を"警告"するためにロサンゼルスが注目したのが地震のP波(最初の波)とS波(第2の波)の間に存在するわずかな時間差でした。市内やハイウェイなど200カ所以上に設置したIoTセンサーが最初の地震波であるP波を検知すると、その信号はすぐさま「アラートセンター」に送信され、震源地や地震の規模が自動的に推定されたのちに、アプリ経由で住民のスマートフォンに警告が送信されるしくみとなっています。アラートセンターに集約されたセンサーデータはリアルタイムな警告だけでなく、ヒストリカルデータとしてPostgreSQLベースのデータウェアハウス、さらにAmazon Aurora上に集約され、R StudioおよびShiny Dashboardによって可視化、地震の傾向を分析するのにも使われます。実際の地震への対応のほかに、大地震の発生を想定した避難訓練にも活用していくとのこと。なおワークフロー管理にはApache Airflowが採用されています。

「ShakeAlertLA」のユーザインタフェース。最初の揺れ(P波)を検知すると、大きな揺れ(S波)が来る前に「Earthquake! Earthquake」と警告を住民のスマートフォンに通知する。アプリはiOSとAndroidに対応
「ShakeAlertLA」のユーザインタフェース。最初の揺れ(P波)を検知すると、大きな揺れ(S波)が来る前に「Earthquake! Earthquake」と警告を住民のスマートフォンに通知する。アプリはiOSとAndroidに対応

「エレベータを止めて安全な場所に避難したり、子供を守る体勢を取るなど、45秒あれば人はかなりのことができる。クラウドがすばらしいのは、こういったシステムを非常にスピーディに構築できる点だ。たとえロサンゼルスのような巨大な都市ではなく、小さな自治体であっても、我々と同じことができる。だから我々のユースケースをここで広く共有したい」―キーノートでプレゼンを行ったロサンゼルス市 CIO テッド・ロス(Ted Ross)氏は今回の発表の意義をこう語っていました。テクノロジのパワーで市民の住民の生命を守り、その成功体験をほかの自治体にも拡げていく、この「共有したい」と思わせるパワーもまたAWSの大きな魅力のひとつです。

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