「FITC Tokyo 2009」詳細レポート

#5Joshua Hirsch氏「Big Spaceship : Digital Creative Agency」品質は楽しむことから生まれる

11月28日、ベルサール汐留にて、FITC Tokyo 2009が開催された。以下は、Joshua Hirsch氏のセッションのレポート。

Joshua Hirsch氏「Big Spaceship : Digital Creative Agency」

元々ロックスターだったという Joshua Hirsch(ジョシュア・ハーシュ)氏は、FWA最多受賞企業であり、FWAの殿堂入りを果たした最初の企業であるBig Spaceshipにて活動している。氏によれば、Big Spaceshipは当初、ハリウッド映画専門のWeb制作会社として広告業界、Flash業界で名を知られるようになり、その後ナイキ、コカコーラなどをはじめ、今では様々な企業と契約するようになっていったという。また、オフィスはオープンスペースを共有する形となっており、チーム別に座席が決まっていると語る。

写真1 オープンスペースを共有していると語る、Joshua Hirsch氏
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チームは分野別(Strategy、Production、Design、Development)に分かれているのではなく、各分野から集められたメンバーで構成されている。チームでまとまって仕事することで、お互いの仕事への理解度を深めると共に、すぐにミーティングできるようにしている。プロジェクトのプロセスについては、昔はStrategyがプロジェクトを企画し、Productionがスケジュールを引き、Designがデザインを行い,Developmentが開発を…という流れ作業のように行われていたそうだ。だが、混成チームにすることでメンバー全員が最初からそのプロジェクトに関わりることができ、例えば⁠アイディア段階で技術的に可能⁠なのか、ということを予め確認できるようになったと述べた。また氏は「開発者としても、いきなり見たこともないものを作れと言われるよりかは、最初から携わったほうが愛着を持ってコーディングできる」語り、またそれが品質に繋がるとしている。

"品質は楽しむことから生まれる"と、ジョシュア氏は語る。⁠社風を楽しくポジティブにし、探索・実験・探求をしやすい環境にしなければ、いいものはつくれない。楽しむことができれば、気持ちを入れて仕事ができる。自分の誇りを、その仕事に反映できるからだ」とし、チーム事に積極的に実験的なプロジェクトをするように奨めているという。これによって、プロジェクト間に空いた時間を有効に使い、常に学習することで革新的なテクノロジーを自分のものにする。前例を作ることで、リスクを把握・解消した上でクライアントに紹介できるようになるそうだ。この実験的なプロジェクトのひとつとして、"Visual Table Soccer"が紹介された。テーブルサッカーにセンサーを取り付け、ゴールが入るたびにスクリーンのFlashアニメーションが変わる、というものだ。次に紹介されたのがPretty Loadedだ。これは日本でも話題になったサイトで、ローディング画面をまとめたもの。普段は煩わしいローディングだが、思わずずっと見てしまう。また、ネットと物理的な動きと連動した実験としてhope vs Despairを紹介。Twitterを30秒ごとに集計して、"hope vs Despair"に分類。いまのTwitterの顔を、現実の世界で表現した。また、ゲームの実験として"Perfect Monkey Tankpants"を紹介。氏曰く、"宇宙からやってきた戦車のパンツをはいているモンキーがカナダに墜落してしまい、死んでしまう。同乗していたロバの彼女(ドンキー)が、彼の着ていた戦車のパンツをはいて、ニューヨークにやってくる。そこで意気消沈のまま全ての人類を抹殺する"というストーリー。これには会場大受けとなり、笑いに包まれた。会場ではゲームの設定・制作過程が紹介され、実際にデモプレイが披露された。

写真2 実験コンテンツとして制作されたゲーム「Perfect Monkey Tankpants」
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「素材は極力自分たちで作るようにしている」と、ジョシュア氏は語る。"必ずしも全てデジタルでやるのではなく、アナログで作るのもいいのではないか"とし、自社のロゴアニメーションでは紙で作られた火山を制作。ストップモーションで、アニメーションを撮影したとのこと。

写真3 自社ロゴのアニメーションの制作風景。素材は社内で極力制作している
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写真4 完成した自社ロゴアニメーション
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また、Adobe Max 2008でもサイト等の制作を担当。こちらでもアナログ素材として、紙で氷山を表現したという。

写真5 Adobe Max 2008のおけるサイト素材の制作風景
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ジョシュア氏は"デザイナーとデベロッパーのコラボレーション"のよい実例と述べた。最後に、映画監督ティムバートン氏のワークサイトとして制作したMoMA | Tim Burtonを紹介した。こちらも紙で制作した階段による、アナログ表現と奇抜な世界観そして高度なデジタル技術が融合した素晴らしいもので、思わず引き込まれそうになるサイトだ。紙で制作した階段をいかにティムバートン氏の世界観とマッチさせるために、照明や構図を何度も実験したという。

このセッションでは、効率的なワークプロセスと、社風から生まれる積極的な実験アプローチ、そしてアナログ表現と再度向き合うといった、説得力のあるものだった。また、ジョシュア氏のユーモア溢れる魅力的なプレゼンは参考にすべき点も多く、インスピレーションを感じたのではないだろうか。

記念すべき第一回目のFITC Tokyoをを丸一日通して体感できたことは非常に感動的だった。まさに、"日本では聞けない"Flash界が激震するイベントだった。来年も、是非期待したい。

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