群衆の叡智サミット2008 Spring 開催

2008年5月21日、東京丸ビルホール&コンファレンススクエア7階「丸ビルホール」にて、株式会社テックスタイル主催、株式会社Prediction共催の「群衆の叡智サミット(WOCS)2008 Spring」が開催された。

WOCSは今回で2回目の開催となる。今回も「群衆の叡智―Wisdom of Crowds」をテーマに、ITやWebを中心としたパネラー陣による熱いディスカッションが行われた。

会場入口
会場入口

セッション1:「群衆の叡智」につながる条件とメカニズム~人々の関心とムーブメント―はてなブックマークの明日はどっちだ?

セッション1は、群衆の叡智が生まれるための「メカニズム」にフォーカスを当て、株式会社テックスタイルの岡田良太郎氏をチェアに、以下6名によるパネルディスカッション形式で進んだ。

伊藤久美氏(IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社)
伊藤直也氏(株式会社はてな)
生越昌己氏(WASP株式会社)
鈴木友峰氏(日立製作所)
谷川正剛氏(株式会社Prediction)
西田隆一氏(CNET Networks Japan)

セッション1の登壇者。左から岡田氏、伊藤久美氏、伊藤直也氏、生越氏、鈴木氏、谷川氏、西田氏
セッション1の登壇者。

まず、はてな伊藤直也氏による、はてなブックマークに関するプレゼンが行われ、はてなブックマークの現状分析や、今後予定されているはてなブックマークのリニューアルなどについて取り上げられた。具体的には、統計的手法による改善や(現状の)均一化からの脱却などをポイントに挙げていた。

また今回のサミットでは、進行中に携帯電話を利用した参加者アンケートが実施され、⁠はてブに足りないものは?」という質問に対して、⁠集約性が不足している」という声が多数挙がっていた。

続いて、日立製作所鈴木雄峰氏による、日立および業界によるオープンソースソフトウェア(OSS)開発やOSSビジネス戦略という内容で話が進み、OSSの開発モデルのメリットや課題というところで議論が進んだ。

3番目は、株式会社Prediction谷川正剛氏による同社の予測市場サイトPrediction.jpを題材に、予測市場と群衆の叡智というテーマで展開が進んだ。予測市場に関して、はてな伊藤氏から「オリコンやGoogleのようなユーザを説得する材料がない場合、どのような理由付けが可能なのか?」という質問が上がり、それに対して「予測市場は数値化しやすいものに向いている」⁠モチベーションとの紐付けが難しい」⁠予測市場は当たるか当たらないかが重要なポイントである」というように、さまざまな回答が上がって、熱い議論が交わされた。

その中で、チェアの岡田氏は「リアルを数値化するというのはその時点でデフォルメ化されている。そう考えるとThink or Feelという考え方が大事なのでは」というコメントをしていた。

最後に、IBMビジネスコンサルティングサービス伊藤久美氏による、IBMとしての群衆の叡智(WOCS)への取り組みをテーマにしたプレゼンが行われた。具体的に、群衆の叡智を実現するための4条件として「独立性」⁠多様性」⁠集約性」⁠分散性」を取り上げ、その回答としてIBMは「Jam」⁠IoFT」⁠GIO」⁠Extreme Blue」というキーワードを掲げて実行していると説明した。

中でも印象的だったのがIoFT(Innovation on Future Technology⁠⁠。これは、未来学者(Futurist)がサインポストを決め、サインポストの動向に関して出現率をデータマイニングするという考え方。つまり、大きなロードマップを作るときに、1つ1つのポイントを細分化し、その中でサインポストのつながりを元に実現性を高めていくというもの(写真⁠⁠。ここが、群衆の叡智の考え方とクロスオーバーする部分と言えるだろう。また、この解説の後に『Harvard Business Review 2007 Sept.』から「Wisdom of "Expert" Crowds?」を引用し、専門家の重要性などについても説明した。

一方で、パネリストの中からは「エキスパートの考えではなく、普通の人たちから生まれてくるものが群衆の叡智」というコメントも上がっており、その1つの例としてOSSプロジェクトの進め方が取り上げられた。

今回のサミットでは、携帯電話を利用した来場者参加型アンケートが随時行われた。
今回のサミットでは、携帯電話を利用した来場者参加型アンケートが随時行われた。

最終的に、群衆の叡智を実現するメカニズムの正解は出なかったが、実際にさまざまな企業やインターネットサービスで、群衆の叡智を可視化する取り組みは始まっており、今もなおたくさんの課題が残っている、というまとめとともにセッション1の幕が下りた。

セッション1と2の間の休憩で配られた「GOLDEN SPOON」のフローズンヨーグルト。
セッション1と2の間の休憩で配られた「GOLDEN SPOON」のフローズンヨーグルト。
セッションの合間に、司会の船橋氏より、2008年5月28日に開催される、業界横断イノベータコミュニティJELLY BEANS PARTYのキックオフのアナウンスがされた。
セッションの合間に、司会の船橋氏より、「JELLY BEANS PARTY」のキックオフのアナウンスがされた。

セッション2:「群衆の叡智」のポテンシャル―経済活動のイノベーションは起こせるか~群衆が指し示す「あなた・企業・社会が、次にすべきこと」とは?

セッション2は、日本ユニシス株式会社 伊藤佳美氏をチェアに、企業・教育機関・政府関係機関・Webメディアと、さまざまな立場の方がパネリストとして登壇し、群衆の叡智とイノベーションの関係性をテーマに議論が交わされた。

楠正憲氏(マイクロソフト株式会社)
田代秀一氏(独立行政法人情報処理推進機構)
徳力基彦氏(アジャイルメディア・ネットワーク)
福岡秀幸氏(日本電気株式会社)
山口浩氏(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部)
吉岡弘隆氏(ミラクル・リナックス株式会社)

セッション2の登壇者。左から伊藤氏、山口氏、福岡氏、楠氏、田代氏、吉岡氏、徳力氏
セッション2の登壇者。左から伊藤氏、山口氏、福岡氏、楠氏、田代氏、吉岡氏、徳力氏

まず、チェアの伊藤氏から群衆の叡智はイノベーションを生むか?という質問に対し、会場の約60%が生むと答え、25%が関係がない(生まない⁠⁠、残りの15%は、わからないのでこのサミットに来たという回答を挙げた。この質問をベースに、それぞれの自己紹介が行われた。基本的には、どの参加者も、群衆の叡智がイノベーションを生む、または、生む可能性があると答えた一方で、その前提条件などについて触れていた。

その後、まず、駒沢大学山口氏のプレゼンが行われ、同氏はこの中で「群衆の叡智は魔法の推奨ではない」⁠過度の期待は禁物」という意見を強調し、群衆の叡智からイノベーションを考えるときに、⁠正解」を探すことが重要なのではなく、多様性、柔軟性が大事とまとめた。

続いて、NEC福岡氏より、EGM(Employee Generated Media)というキーワードとともに、同社の社内SNSを例に挙げ、社員という群衆の中から生まれるアイデア、また、そのきっかけとなる新しい結合の重要性について話が上がった。このSNSは、現在15万人のグループ社員のうち、2万人の閲覧者がいるとのことで、とくに部署間を越えたコミュニケーションが生まれたことに効果が上がっていると発表した。

続いて、マイクロソフト楠氏は、ここ数年のMicrosoftの方針転換、とくにオープンになっているポイントを強く訴えた。たとえば、正式な発表をプレスリリースのみで行うのではなく、製品担当者レベルのblogを活用し、さらにそこに来るフィードバックを汲み取った上で製品開発を行っているということに、群衆の叡智からイノベーションが生まれる可能性があると述べた。一方で、情報の発信出口が多様化したことにより、とくに(英語情報を積極的に見ることが少ない)日本のプレスやメディアが情報についていけなくなっている現状を危惧していた。

最後に、IPA田代氏がIPAの現状や取り組みについて説明をする中で、セッション1でも取り上げられていたOSS開発の話題が上がった。これについては、パネラー陣の中でも、さまざまな意見が上がったのだが、AMN徳力が述べた「群衆の叡智なり、OSSプロジェクトの進め方というのは、あくまで選択肢の1つである。それが必ずしもすべて良いわけではない」というコメントが印象的だった。このコメントに対してはミラクル・リナックス吉岡氏も賛同し、さらにOSSの強みは「Release early, release often」であること、これが適用できるものであれば、OSS開発の考え方を取り入れた方が良いと述べた。

セッション2は、タイムオーバーのため最終的なまとめまで議論が進まなかったが、皆、イノベーションを生むための仕組みとして群衆の叡智は役に立つという大きなコンセンサスがあるように受け止められたが、一方で、それが最適解ではなく、柔軟に利用していくことが大事であるという声も挙がっていた。


今回、計4時間、2セッションに渡り、各パネリストが持論を展開し、意見と意見をぶつけ合いながら熱い議論が交わされた。どちらのセッションも、群衆の叡智に関する明確な答えが出たわけではないが、今回のサミットの主旨からすると答えを出す必要がなかったと言えるだろう。

群衆の叡智とは、まず、自分自身がその群衆の中の1人であると認識することが大事であり、そういった人たちが集まった結果、群衆ができ、群衆の叡智が生まれてくるのではないだろうか。次回も予定されているとのことなので、今回のレポートで「群衆の叡智」に興味を持った方は、ぜひ足を運んでもらいたい。

群衆の叡智サミット
URLhttp://techstyle.jp/wocs/

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