1月28、29日の両日、東京、目黒雅叙園にて「ソフトウェアテストシンポジウム 2009 東京」( JaSST '09 Tokyo/主催:NPO法人ASTER)が開催されている。東京での開催は7回目を迎える同イベントは、今年も延べ1,700名以上の参加者を集める見込みだ。
1日目のオープニングセッションとして、JaSST'09 Tokyoの共同実行委員長を務める香川大学教授、古川善吾氏が、同イベントの概要と主旨、そしてJaSSTを主催するNPO法人ASTER (ソフトウェアテスト技術振興協会)を中心とした活動について紹介を行った。
オープニングセッションの模様
この後、基調講演として国際的に活躍するITコンサルタントRoger S. Pressman氏が登壇した。Pressman氏は「実践ソフトウェアエンジニアリング 」などの著書で知られるソフトウェアエンジニアリングの第一人者で、30年以上にわたってソフトウェアエンジニアリングの課題や教育に力を注いできた人物だ。
今回の講演は「Emerging Trends in Software Engineering」と題して、ソフトウェアエンジニアリングや品質にかかわる今後の流れや将来像について語るもの。まず前置きとして「将来のことを語るのは非常に難しい。日本に『鬼が笑う』という諺があるそうですが、まさにそのとおり」と、格言や著名人の発言、有名な書籍の一節などを引用しつつ、会場内を埋め尽くした参加者に語りかけた。
「こうした場を何度も経験していますが、“ カリスマ” と紹介されたのは初めてです」と語り場内を沸かせるPressman氏。時にジョークを交え、壇上を動き回って参加者に強くアピールする講演だった
場内を埋め尽くす参加者
Pressman氏によると、近い将来-数十年のオーダーでソフトウェアはSIS(Software Intensive System:集約されたソフトウェアシステム)に進み、桁違いの複雑化、高度化をとげるという。Ray Kurzweilという著名なフューチャリストが2029年には高度な人工知能が現実のものとなると予言しているが、Pressman氏も同じ見方だと述べ、こうした急激な進化が、ソフトウェアエンジニアリングに大きな影響を及ぼすと予想した。
そして、これらのシステムはネットワーク化され、偏在化することによって、その品質を確かめたり、テストしようとする際に大きな困難に直面することになる。往々にしてテストというのは製品開発の最後に回ってくるため、高い信頼性とスピードの両方を求められるが、ときに速さを過剰に求められたら「NO」と言うことも必要だ、と説いた。
こうした高度なシステム開発においてテストや品質確保に求められる要件をPressman氏は「Emergent Requirement」と表現し、これをどのように解決するかが大きな課題であることを指摘。解決方法は単一ではなく、ある程度の標準化やモデル化をしつつ、個別の対応が求められる。標準化やモデル化を進めすぎると、うまく機能しないことが多い。ソフトウェア開発におけるコンポーネント化や再利用の際にも、大きな落とし穴があるという(氏はこれを「“ not invented here” 症候群」と呼んでいる) 。
こうした中、今後鍵を握るのが、ソフトウェア開発やテストに関わる人間同士のコミュニケーションやコラボレーションであるとPressman氏は言う。技術系の人間は、とかくこうした社会学的、人間学的な面を苦手とし、避ける傾向があるが、とくにプロジェクトマネージャなどにとって、さまざまな背景を持った人間やグループをどのように協調させていくかという点もっと意識すべきであると説いた。またこれは、高齢化が進む北米やヨーロッパ、日本などの開発現場で、経験者のもつナレッジをどう引き継いでいくかという課題にも関係してくるとのこと。
著名なITコンサルタント、G.M.ワインバーグの言葉「ソフトウェアのすべての問題は『人』にかかわる問題だ」を引用しつつ、「 人間の問題」にもっと目を向けるべきと語った
最後に来場者の質問に答える形で、ソフトウェアテスト技術者に向けて「テストは品質を作り込むことはできません。設計で作り込めなかったことはテストではどうすることもできない。しかし、テストはいわば『最後の砦』です。ここが崩れたらすべてが無になるということを忘れないでください」と訴え、話を結んだ。
2日目 に続く。
JaSST ソフトウェアテストシンポジウム
URL :http://www.jasst.jp/