2009年5月13日(水) ~15日(金)の3日間、東京ビッグサイトにおいて「組込みシステム開発技術展」( ESEC)が開催されました。第12回となる今年も不況をものともせず多数の出展社が集い、組込みシステム開発に必要なあらゆる製品を目にし、体験することができました。
また、例年いくつかのIT系展示会がこれに並行して開催されますが、今年は「情報セキュリティEXPO」「 Web&モバイル マーケティング EXPO」など、実に9つのイベントが同時開催され、多くの来場者を集めました。
会場の模様
それでは、ESEC会場内の模様をお伝えしましょう。
グレープシステム
いまやスマートフォンなどの携帯端末においても、ネットワークセキュリティの強化は大きな課題です。グレープシステム では、モバイル機器をネットワーク経由のあらゆる攻撃から防御するソリューションMocana NanoDefenderが展示されていました。同製品は、組込み機器内のアプリケーション動作中のファンクションフローに着目し、正常動作時のシステムコールなどの手順から外れた動作が検知されるとアクセスがシャットダウンされるというもの。攻撃パターンファイルのような更新が必要な大きなデータベースを持つ必要がないため、組込みシステムに向いており、未知の攻撃パターンにも対応できる点が優れています。対応OSはLinux、BSD、VxWorks、そしてAndroidにも対応の予定です。
NanoDefenderが作動し, アプリケーションがシャットダウンされたところ(NokiaのLinuxスマートフォン)
日立ソフトウェアエンジニアリング
大規模な組込み開発プロジェクトでは、1企業の枠を超えて多くの組織が関わるケースも珍しくありません。また、オフショアなど国境を超えた開発も今後ますます増えていくと思われます。このような場合に煩雑なのは、複数の開発拠点での環境を揃える必要がある点です。また開発拠点が分散すると、開発コード漏洩などのリスクも増大します。
日立ソフトウェアエンジニアリングのブースで参考出品されていた「Secure Online for Embedded」は、こうした分散環境での開発を支援するASPサービス。開発環境やコードなどのリソースをすべて同社の管理するサーバ内にセットアップし、各開発拠点からSSL-VPNでつながった専用クライアントソフトを使ってアクセスすることで、個々の環境構築の必要がなくなります。ソフトウェアのビルドなどもサーバ内で行うので、シンクライアントからの利用も可能。クライアント内にはデータが残らないので、開発情報の漏洩も防止することができます。これまで組込み開発向けには提供されていませんでしたが、ICEなどを接続した実機デバッグに対応し、組込み向け開発環境でも利用可能となるそうです。
日立ソフトにあるサーバと通信しながらのデモ。「 これまでの開発環境を一戸建ての家とすると、このシステムは家具付きウィークリーマンションのようなもの」とのこと。
ユビキタス
Androidというと、一般的には携帯電話を思い浮かべますが、組込み開発の最前線ではデジタル家電をターゲットにした研究も活発で、ESECでもいくつか見ることができました。
( 株) ユビキタスではデジタル家電のネットワーク上でコンテンツ配信などを行うための機能をAndroid上に実装し、デモを行っていました。商用のデジタルコンテンツ配信にはDLNA(Digital Living Network Alliance)の定めたDTCP-IPという暗号化技術が必要です。同社のUbiquitousSAFEはこの部分をモジュール化し、さまざまな機器にネットワーク配信機能を付加させることができます。
デモではTexas Instruments製のARMベースCPUであるOMAP3が実装された「Beagle Board」上でAndroidを動かし、UbiquitousSAFEによる動画配信を行っていました。Beagle Boardは非常に安価に入手できるボードコンピュータで、ESECの会場内でもこれをデモ用に使っているブースが散見されました。
日本セーフネット
VPNの普及やIPv6へのリプレースが進む中、ルータなどの専用機以外でIPSecを標準で実装する製品も珍しくなくなりました。日本セーフネットでは、さまざまな形で組込むことができるIPSecソリューションを展示していました。
IPSecソフトウェアツールキット「QuickSec」シリーズでは、IPSecのデータハンドリングを最適化することにより、スループット低下を極力抑える改良を続けているとのこと。また、もっと高速な処理を必要とするユーザに向けて、IPSecの専用処理を行うコプロセッサや、それを組込んだアクセラレータボード、さらにはチップに組込まれたビルディングブロックそのものを提供する「SafeXcel IP」ソリューションも用意されています。
IPSec機能が組み込まれたチップ、ボードの展示
イーフロー
2008年末にエスマテック、ユビオン、ウェブソフト・インターナショナルの3社が合併してできた新しい会社です。エスマテックといえば、携帯のJavaをハジメとしたVM技術で定評がありましたが、これにブラウザ技術、各種のネットワークサービスを加えることで、デバイスからサービスまでの一貫したサポートを目指すとのことです。ブースでも、Android携帯から組込みブラウザ、組込み向けクラウド開発ソリューションなどバラエティに富んだ展示が披露されていました。
ホームネットワークに特化した組込みブラウザeSpinnerの展示
アイ・ビー・エス・ジャパン
会場はいくつかの専門ゾーンに分かれており、「 モーションコントロール ゾーン」では、ネットワークを通した産業用の制御に関する展示が集められていました。その中のにブースを構えていたアイ・ビー・エス・ジャパンでは太陽光発電システムの太陽追従制御を例に、センサーからシリアル通信で集められた情報を、「 Turbo Ring」と呼ばれるシステムを使ってネットワーク経由で制御センターに送るシステムについてのパネル展示が行われていました。
「Turbo Ring」は3重のルータをリング上に組み合わせて配置することにより、どれかが故障しても20mSec以内に復旧が可能というシステム
コントロンテクノロジージャパン
ESEC内に併設された「組込みボード・コンピュータEXPO」のコーナーでは、国内外のボードコンピュータメーカの出展が見られました。コントロンはドイツのボードコンピュータメーカで、Intel系CPU搭載のボードコンピュータを世界的に展開しています。エンタープライズではブレード系システムが全盛ですが、同社ではこうした大物からETXやMicroTCAといった小型のモジュールバス製品、さらにこれらをブレードのように組み合わせたプラットフォームなども展開しています。
産業用のボードを使っていて困るのは、CPUやデバイスのモデルチェンジによって、利用状況は変わらないのに同じシステムを継続して使用できない点です(とくにIntelは切り替わりが早い) 。同社はIntelから特別な供給を受け、7年間同じ製品を提供し続けることができるとのこと。もちろん最新のプロセッサについてもIntelの発売と同時に実装した新製品を供給可能だそうで、Intel系ボードの供給には大変な自信を持っていることがわかりました。
組込み分野といえど、ITの一ジャンルです。「 セキュリティ」「 ASP」「 クラウド」「 ブレード」など、それだけ聞くとエンタープライズ業界と見紛うようなキーワードも、いまや組込み業界で普通に研究されている技術なのです。今後はエンタープライズ、Web、組込みといった垣根を超えた発想が、ますます必要になるのではないかと強く感じました。次回のESECが楽しみです。