12月14日、東京、全国情報サービス産業厚生年金基金会館において、「Qt Conference Tokyo 2009」が開催された。Qtはノキアが提供するオープンソース/クロスプラットフォームのGUIフレームワーク。本格的な開発者イベントが日本で行われるのは初めてとなる。
オープンソース開発者との協力で進化をスピードアップさせる
最初のプログラムはNokia, Qt Development Frameworksのグローバル営業担当部長トム・ミラー氏によるキーノート。「Qt Strategy」と題し、Qtが現在どのようなポジションにあるのか、そしてどのような方向性で今後の開発やコンセプト作りを進めていくのかについて語った。
Qtのコンセプトは「ソフトウェア開発の効率化」にある。異なるプラットフォームやプラットフォーム自体の進化に伴い、その上に載ったシステムをリライトしなければならないことは多い。Qtはこうした無駄を省き、開発時間をより短縮させるもの。つまり「クロスプラットフォーム」「ハイパフォーマンス」「納期短縮化」の3つの特徴をもつ。これらの特徴を今後も伸ばしていきたいとミラー氏は語った。
そのための土台作りをNokiaも進めていて、開発をオープンリポジトリに移行し、イベントやセミナーなどの啓蒙活動を通じてオープンソースコミュニティを育てていきたいとのこと。ミラー氏はオープンソース開発の特長として、新しいイノベーションをより迅速に取り入れて行けること、通常の開発では見つけられないようなバグを素早く見つけることができ、結果として市場の急激な変化にも追従できる点などを挙げた。
とくにQtの場合、開発の中心はノキアが押さえつつ、オープンソースコミュニティの協力で良いフィードバックをもらい、市場のニーズにあった製品提供に結びつくという良いサイクルができてきたと言う。マルチメディアツールを統合できたり、Qt Creator、Assistantなどの使いやすい開発ツールは、こうしたオープンソースデベロッパとの協調関係で生まれたことを強調した。
その成果として、12月の頭にリリースされたQt 4.6では、マルチタッチ、アニメーションUIをリッチにするフレームワークを追加し、各チップセットメーカと連携してグラフィックのパフォーマンスを大幅に改善したという。また、Javaとの親和性や、JavaScriptとQt独自のスクリプトとの連携も強化されてきており、これらの特長は今後のバージョンでよりブラッシュアップしていくと語った。
2010年中に登場予定の次バージョンQt 4.7では上記の方針に加え、新たに「Declarative UI」(宣言型ユーザインターフェース)が採用予定。これまでUIのプログラミングでは、その構造を記述してきたが、宣言型ではその表現や挙動を記述してプログラミングできる。一種のマークアップ表現(QMLと呼ばれる)により記述でき、これにより、デザイナーがよりプログラミングにコミットできるようになるという。
進化したデバッグ/テスト環境
基調講演の後、Qtのマーケティングやビジネスモデルの展開についてセッションが行われ、これと並行して技術トレーニングと協賛各社の製品デモも行われた。トレーニングでは実際の開発環境(Qt Creator)をあらかじめセットアップしてきた開発者を前に、gihyo.jpでの連載「進化するQt-Qt最新事情2009」でもおなじみの杉田 研治氏らによりQtでの実践的なUI開発についての講義が行われた。
また、午後は技術的なトピックについてのセッションが行われた。杉田氏の「Qt CreatorでのデバッグとSquish/QtによるGUI自動テスト」と題されたセッションは、これまであまり触れられることがなかったQtのデバッグ環境と機能テストの自動化についての興味深い内容。Qt Creatorのデバッグ機能を使うと、これまでそのままでは2進数でしか表示できなかった変数やメッセージの内容を自由に整形表示でき、2バイト文字(日本語)も見ることができる。これは、とくに日本語UIの開発に便利だという。
また、自動テストを可能にするSquish/Qtは、ソースコードの変更やコンパイルオプションの変更は一部の例外を除いてほとんど必要なく、普通にコンパイルして作ったプログラムを、一種のラッパライブラリの助けによってテストできるという優れたツール。テスト操作を記録するスクリプトとしてはPython、Tcl、JavaScript、Perlが利用できる。
いずれのセッションも、とくに日本語ではなかなか聞けない情報が多く、参加者にとっては非常に刺激になったのではないだろうか。ノキアでは今後も日本の開発者に向けて、イベントや情報提供などの支援を強化していくとのこと。