「電子書籍を考える出版社の会」初の出版社向け説明会を開催

7月1日、毎日コミュニケーションズにて、「電子書籍を考える出版社の会」(略称:eBP)の説明会が開催されました。

「電子書籍を考える出版社の会」は、6月8日にその設立が発表された新しい団体で、外部の方を交えての説明会としては初めてのものでした。今回は参加を検討されている出版社を対象としたもので、約30社の方が参加されました。

発足の経緯と分科会の活動について

説明会の最初に、代表幹事の毎日コミュニケーションズ 滝口氏より会の発足の経緯などについて紹介がありました。

滝口氏によると、電子書籍は今年に入ってから注目度が高まり、特にiPadの発表以降、大きな盛り上がりが感じたということです。そこでいち早く手がけようとしたところ、わからないことが非常に多く、情報交換の必要性を感じる一方、著者の方からも電子書籍についてのさまざまな問い合わせを受けることもあり、そこから知り合いの会社に声をかけ、このような団体の設立につながったそうです。

滝口氏は「日本電子書籍出版社協会」にも触れられ、錚々たる出版社が集まっていることについてはとても良いこととしながらも、同協会に集まっている出版社が出しているものは文庫本などの書籍が中心であり、専門書や実用書を手がけていて、単価も5,000円を超えるものなどがある自分たちとは商品モデル等が異なることについて懸念があり、異なる団体の必要性を感じたとのことです。

続いて、副代表幹事である翔泳社の臼井氏からは、活動の形態について説明がありました。

今のところ、月1回の定例会、月1回ペースでは間に合わない場合にはそれ以上の開催や合同開催なども踏まえた分科会、適宜開催する予定の幹事会、といった形で活動を展開する予定とのことでした。現在幹事としては4社で運営されているそうですが、同傾向の出版社になっているため、できればもう少し幅広くしたいそうです。

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このあと、各分科会の紹介がありました。

契約・権利分科会については、契約権利管理の知識を共有することを目的とし、すでに電子書籍を販売している出版社が使用している契約書をベースに、⁠eBPフォーマット」と呼べるような契約書の雛形を作ること、さらに海外への対応についても考えていくとのことでした。

販売分科会については、たとえば既存書籍の電子化についても、どういったものを優先し電子化するか、あるいは同じコンテンツでよいのかといった方法論から、具体的に販売する方法としてはどのようなものがあるかの比較検討を行いながら、実際にプラットフォームやソリューションを提供している企業とも接触を図り、情報交換をしていく予定とのことでした。

技術分科会については、そもそもの電子書籍の形態には2通りあり、1つは紙を電子化したもの、もう1つはインタラクティブなコンテンツなど、新しいデバイスを生かしたもの、という認識の元、それぞれをどのように実現していくかを情報交換していくとのことでした。必要に応じてツールベンダ、フォントベンダとも連携していくそうです。

またこの分科会では、新しいフォーマットを作るつもりはなく、既存のものを活かしていくつもりであること、その中で、もし既存の仕様や実装に不足があった場合、たとえばビューアに新しい機能が必要であれば、それをツールを開発している企業に提案していくような活動をしていきたいとのことでした。

その後の質疑応答では、参加された出版社の方からはどのような傾向の出版社が集まっているか、参加資格についてなどの質問がありました。またプレスの方からは、特定のプラットフォームに乗っかってしまった方が早いのではないか、という質問がありました。これに対して、おそらく今後は単独のプラットフォームへ対応すればよいということにはなりにくく、複数のプラットフォームや販売サイトに対してどのように提供していけばよいのかを考える必要があるのではないか、という回答がありました。

同時に全体の補足として、とにかく状況の変化が速く、毎週のように新しい情報が出てくるため、1社のみで情報を捕捉し判断していくのが難しいこと、そして今後については積極的に情報発信していきたい、とのことでした。

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「時代の急速な変化」にどう向き合うか

説明会に参加し、一通り説明を聞きながら感じたのは、急な変化に対する戸惑い・困惑のようなものと、それと同時に、この変化に正面から誠実に向きあおう、という前向きな意志でした。この2つは相反するところもありますが、しかしその根は同じところにあるのでしょう。

説明会の中で滝口氏も述べられていましたが、現在の電子書籍を取り巻く状況については、出版業界自体が96年にピークを迎えて以降、長期の低迷を続けている中、新たなビジネスを求めていることも背景にあります。加えて今は動きが早く、実際に説明会当日に限っても、ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社が「電子書籍配信事業準備株式会社」を設立したというニュースや、トーハンが電子書籍の取り次ぎサービスを開始するといったニュースが飛び交う状況です。今後予想される変化の大きさと深さは、各社がそれぞれ少しばかりの対応策を考えたところでどうにもならないだろうという、ある種さばさばした諦念のようなものもあるのかもしれません。

けれども、このような変化に対し、既存事業の守りに入ったり、むやみに大きな花火を打ち上げたりするわけでもなく、新しい時代の出版について確実にキャッチアップしていこうという態度は、好ましく、また頼もしく感じられました(あるいは現在活動の中心となっているIT系書籍の出版社としては、電子書籍は相対的に強みを発揮しやすい分野であるという読みもあるのかもしれません⁠⁠。

いずれにしても、今後具体的な成果を挙げていくことを期待したいと思います。

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