10月7日、東京、麹町のKDDIウェブコミュニケーションズ( 株) にて、3回目となる「スタートアップ デイティング」が開催された。今回のメインセッションは「エンジニアブレークスルー」と題したパネルディスカッション。現在第一線で活躍中の気鋭のエンジニアが集まり、エンジニア不足と言われる現状や、エンジニアの成長とは何かといったテーマについて議論が展開された。
会場の模様
モデレータを務めるのは、gihyo.jpの連載「達人が語る、インフラエンジニアの心得」 などでエンジニアのスキルやマインドについての発言も多い山崎徳之氏(株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ) 。今回のパネルの発起人でもある。山崎氏の呼びかけに9名のエンジニアが集まった。
米林正明 氏(株式会社Abby)
閑歳孝子 氏(株式会社ユーザーローカル)
和田修一 氏(株式会社ロケットスタート)
福永康司 氏(fkoji.com)
並河祐貴 氏(株式会社サイバーエージェント)
佐藤一憲 氏(有限会社スティルハウス)
小林 隆 氏(株式会社ブレインパッド)
大谷晋平 氏(株式会社電通国際情報サービス)
神林飛志 氏(ウルシステムズ株式会社)
前半4名がアプリケーション系、後5名の皆さんがインフラ系と大まかに分かれ、山崎氏から振られるテーマにコメントを返す形でディスカッションに入った。
エンジニア不足の裏側
各人がこれまでの仕事の経歴を中心に自己紹介を行った後、まず「エンジニア不足」と言われる現状についてのトークとなった。パネリストからは、エンジニアが不足しているという実感はなく、不足しているように見えるのは、ある水準以上の経験やスキルを持ったエンジニアに対する需要が多いためではないか、という意見が多く上がった。
しかし経験を求めるばかりでは若い人の成長は望めない。技術や経験が無い人は採用できないのか? 和田氏はITの知識以外ではコミュニケーションスキルやプロジェクトの流れを見て把握できる点を挙げた。大谷氏の会社ではJavaと.NETの最低限の知識は必要としながらも、経験やスキルのない新人でも、短期間で小さな課題を与える訓練が効果があるという。
また神林氏は「採用側の経験者として」との前置きで、エンジニア全般にあてはまるという常識の無さを指摘。「 発注、納品、請求してお金が入る、といった取引の基本的なことすらわかっていない。学校で教えるような社会教育から始めなければいけないのはリスクだ」と手厳しい。
これを受け、山崎氏はエンジニアはまず営業を経験した方が良いと提言。自身がかつて営業職に就いた経験をもち、それが現在の会社経営にも非常に役立っているという。「 営業を経験するとコミュニケーションスキルや最低限の社会常識が身に付く。コミュニケーション下手というだけで失格の烙印を押されるエンジニアがいるのはもったいない」( 山崎) 。
右から、モデレータの山崎氏、そして米林氏、閑歳氏、和田氏、福永氏の“ アプリケーション系” 組
「広く浅く」or「一点集中」
話を戻し、実際にエンジニア不足であるとしたら、その原因は何か? についてのトークになった。
佐藤氏はGoogle API Expertを務めている。その関係でGoogleを訪れると、同社に入社を勧める光景をよく目にするが、実際に採用した人はほとんど見ない。ITの先端企業はかなり先端の人材しか採っていないのではないか? と想像する。大谷氏は、以前よりエンジニアが知らなくてはいけないことが増えている。データベース1つにしても、MySQLとPostgreSQLのどちらを選ぶか、といった場合、幅広い知識と積み重ねが必要になってくると指摘した。
米林氏は経営者としての経験で、人を採用するのは難しいという。確かに幅広い分野をカバーできればベストだが、そんな人材なかなかいない。「 ならば、何か1つ得意なことがある人を採用したい。ある1つのことを追求する能力があるということは、別のことにも自分だけで踏み込めるから」 。神林氏もこれに同意して、20代の人は何か1つのことを究めてほしいと提言。ある分野に絶対の自信を持つ人は、若くても周りに良い影響を及ぼすエンジニアになれると説いた。
エンジニア成長のきっかけは何か?
では、何かを究めるためのモチベーションはどのように持てばいいのか? 福永氏は開発者がサービスを作って出すことにあこがれ、大企業からWeb系のベンチャーに転職した。その際、経験が不足していたので優秀な人を求める会社には行くことができなかったが、入社した会社はポテンシャルを見てくれて、プロダクトを任せてくれたという。「 これは覚えないといけない、と思い勉強しました」 。( 福永)
こうした目標を持たせることは重要だが、その「目標設定には注意が必要」と和田氏。最低限どのように作るかまでを指示し、目的のオペレーションを提示することで、必要な技術は自らブレイクダウンして身につけるようにしなければ人は育たない。「 『 言われたことをやるだけ』にしてはだめ」( 和田) 。山崎氏はかつて、学んでいることを自覚するため、1日の終わりにその日に何を身につけたかを確認していたという。和田氏は現在もそれを行っている。自分の成長をいかに確認するかも重要だ。
また自ら情報発信することで、そのための勉強が自分の糧になるという。小林氏は、情報発信を始めると「突っ込まれると怖いので」いつもより勉強が進むと指摘。これを受けて閑歳氏が学生時代、当時まったく書けなかったPerlの講師のアルバイトに応募し採用されたため1週間必死で勉強したエピソードを明かし、その体験がその後のモチベーションの原点になったと語った。
逆に「こういう人は成長しない」という例として、米林氏は自身が昔C言語の本をノートに“ 写経” していたと告白。まったく役に立たなかったという。「 だめな方法に気づくというのも大切(笑) 」 ( 米林) 。さらに神林氏は良くないエンジニアの例として「人にコードを見せない人」を挙げた。伸びる人は、まず仕事ができる人に聞いたり、やり方を盗むという。人に相談して足りないところを認めることではじめて成長する。「 自分の足りないところを認めずやっているうちに“ 爆発” してしまう」 。( 神林) 。山崎氏も「やらない理由を考える人はそれ以上進めない」と続けた。これは比較的仕事ができる人にも多いとのこと。
福永氏は、自分が人に聞けないタイプだったので苦労したと語った。自分で調べられるものをとにかく調べることから始めたという。ベストなのはやはり周りの人が聞きやすい環境を作ってあげることだと語る。「 そういう意味でもペアプログラミングは良いですね。聞きやすい」( 福永)
心が折れないようにするために
こちらは“ インフラ組” 。右から並河氏、佐藤氏、小林氏、大谷氏、神林氏。
ここまでは、ある程度できている人がさらに伸びるための話ばかりだったが、ではゼロから始める人はどうだろうか? ゼロを1にする突破口について和田氏はとにかく動く、何かを動かすことが重要という。「 最初からきれいなコード書かないと、などと考えずに、動くものを作ることが突破口となる」( 和田) 。大谷氏も同意し、学生時代に不真面目だったため、社会人になってちゃんとした設計書やプログラムがなかなか書けなかったことを披露。「 大きな事ばかり考えていたのでダメだった。そこで目標を小さくした。それでもわからないことは人に聞いた」( 大谷)
このように何か1つでも、小さくても「動く」「 見える」ものを作りあげる体験が重要という点では全員の意見が一致した。山崎氏はこれを受け「ゼロからやるときは最初に勝てないとだめ。折れてしまう」と続けた。ここから「心が折れるとき、折れないためにはどうするか」という重い話題に。
神林氏は金額の大きなプロジェクトに失敗し、会社を辞めた体験を語った。「 うつ一歩手前まで行った。こうなると同じところにいても何も進まない。環境を変えるしかない」( 神林) 。しかし環境を変えるといっても会社を辞めるのは大きなリスクだ。選べないときにはどうするのか? 小林氏は、勉強会など外のコミュニティに参加することで価値観を変えることができるという。「 会社の中にいると価値観も固定してしまう。かといって会社をやめるのも難しい。勉強会で他の人の価値観に触れ、変わることができた」( 小林)
米林氏は心折れなくする秘訣として、これなら息抜きできること、趣味をもつことが重要と語る。「 私にとってはバスケ。仕事以外のこと、趣味を大切にしている人が良い仕事をしていると思う。」( 米林)
では、環境を変えられない人、選べない人はどうするのか? 福永氏は有名ベンチャーに入れず、小さいところに入ったがそこで4年間いたことで、独学でやるより吸収するものがあったと言う。「 最初は会社を選ばなくてもいい」( 福永) 。神林氏も「超ブラックな企業は別だが、第一志望でなくても3年は頑張った方がいい」と同意。最初は環境(会社)にこだわらないスタンスを進めるパネラーが多かった。
この後話はインフラ系エンジニアの評価に移り、アプリケーション系に比べて評価が低くなりがちという大方の意見に対し、神林氏は基幹系はインフラの評価が高いと反論。「 逆転の評価が出るのがインフラ、動かないときに動かすと客の評価180度変わる」( 神林) 。さらに、どのように評価を良くするかという点では、目標設定の適切さと、自分の仕事をいかに説明できるか、問題が生じたときに解決しないまでも、解決の方向に向かっているかどうかが重要といった意見が交わされた。
技術はマインドがあればについてくる
この後、来場者からのQ&Aタイムに入った。今どんな技術をもった人が欲しいか、という質問にはHadoop、Cassandraなどの分散データシステムをわかって不具合を直せる人(神林、小林) 、論理的に物事を考えることでき、言語を問わずプログラミングできる人(大谷) 、最新のテーマにアンテナを張っている人(並河) 、データベースやサーバまわりのわかる人(福永) 、サービスの運用経験を持っている人(和田) 、何でも勉強する人、トラフィックをさばくのに喜びを感じる人(閑歳) 、1つのテーマを掘り下げられる人、そして挨拶ができる人(米林) 、といったコメントがあった。
また、経験が少なくやる気の出ない部下をどう扱うか、という質問には、米林氏が「エサを見せること」とアドバイス。仕事中に「ニコニコ動画」ばかり見ている人がいた。「 ここまで画面を作ったら見て良い」と言ったところ、やる気を出して画面をどんどん作ったという。このほか、小刻みな目標をクリアさせていくのが良いという意見も複数上がった。
また、たとえばレガシーシステムの運用オペレータなど、状況的にブレークスルーしにくい人はどうすれば良いのかという質問には、勉強して、いまの仕事を新しい技術で置き換えるようなソリューションを考え、提案する、政治力を地道に上げていく、といったアドバイスの他、会社を変えるのは難しいから、オープンソースコミュニティなど、つながりを外に求め、仕事以外の技術にも興味を持って挑戦してほしいという意見も出た。
そして今回のまとめとして、メンタルヘルスを保つのが一番、人間として礼儀やしっかりしたマインドを持つことでエンジニアとしても成長できる。そして何事にも正解は1つではないことを思い出してほしい、と結んだ。
パネルの後、今回協賛の宅麺.com 、そしてアマゾンジャパン からサービスとプレゼント、そして会場提供のKDDIウェブコミュニケーションズ からプレゼンがあり、会場は盛り上がりのまま次の立食形式の交流会へと移った。