Linux Foundation主催「5th Annual Collaboration Summit」レポート─祝 Linux 20周年、次の20年に向けて更なる成長への課題とは

2011年4月6日~8日にかけて、米国サンフランシスコにてThe Linux Foundation主催の「Collaboration Summit」が開催されました。

「Collaboration Summit」は、毎年4月に世界中のLinux業界リーダーを集めて開催されるカンファレンスで、その年に業界として取り組むべき多くの課題が提示され議論される、まさにこの1年のLinux業界の動向を占う重要なカンファレンスと言えます。

「Collaboration Summit」会場の模様
「Collaboration Summit」会場の模様

このレポートでは、⁠Collaboration Summit」初日のJim Zemlin氏の基調講演をメインに、今年のLinuxの業界で関心が高まると思われる分野を簡単に紹介していきましょう。

「State of Linux Union」─The Linux Foundationエグゼクティブ ディレクター Jim Zemlin氏基調講演

オープニングの基調講演として、The Linux Foundationのエグゼクティブ ディレクターのJim Zemlin氏が登壇し、過去12ヵ月間のLinuxの発展と、2011年の展望について語りました。

登壇したJim Zemlin氏
登壇したJim Zemlin氏

講演でZemlin氏はLinuxの20年間の歩みを纏めたビデオを紹介した上で、次のような例を用いて、これまでの20年でLinuxいかに社会的に重要な存在となったかを示しました。

  • 東京証券取引所がLinuxベースへ移行し、その結果2010年は世界の証券取引の72%はLinuxベースのシステムで取引されました。2011年以降もLinuxベースシステム上での取引は増加すると予測されています。
  • Linuxが初めてTop500 Supercomputer Listに登場したのは1998年。その後10余年で、UNIXが96%を占めていた市場はLinuxが96%占める市場へと変わりました。加えて、スパコンの性能が飛躍的に伸びたのは2006年以降であり、その頃すでに圧倒的な市場シェアを有したLinuxがスパコン性能の飛躍的な向上に大きく寄与しています。
  • Linuxは組込みOS市場におけるトップシェア(2009年時点で25.2%)を有しており、とりわけ2010年にブレークしたAndoridによって、スマートフォン市場におけるシェアでiPhone(iOS)を凌駕し第1位となっています。
  • 過去10年間でRed Hatの株価は400%上昇している一方で、Microsoftの株価は上がっていません。企業の将来性を示す株式市場においてもLinuxのこれまでの成長が認められ、今後の更なる躍進が期待されていることがわかるでしょう。

以上のような過去20年間の成長を説明した上で、Zemlin氏は2011年の注目点として次の4点を掲げました。

  1. オープンソースを活用した新しいビジネスモデルの出現。たとえばAndroidはLinuxを活用し、Googleのサービスにトラッフィックを集め、広告収入を上げるというビジネスモデルです。このようにオープンソースを活用しつつ、直接的にはオープンソースでない部分で収益をあげるモデルが新たに誕生することが期待されます。
  2. Yocto、Linaro等のプロジェクトの出現により、カスタマイズOSの開発が容易になりました。その結果、より多くの組込み専用端末にLinuxが活用されていくことになると考えられます。
  3. 同様に、IBMの質疑応答システム「Watson」のように単一用途のHPCにも注目が集まるでしょう。
    参考記事:「質問応答システム⁠ワトソン⁠がクイズ番組に挑戦!
  4. Linuxの成長に伴い、今後も多くのFUD(Fear、Uncertainty, Doubt)情報が出てくると予想されますが、これに惑わされないことが重要で、そのためにもコンプラインスに対する意識を高める必要があります。

以上のようなLinuxを取り巻く状況のもと、Linux FoundationはHi Availability Working Group を新たに発足させるとともに、Yocto Project、Open Compliance Programなどを通して、現在Linuxが抱える課題に対して業界全体が協力し解決するための枠組みの運営を推進しているといった、Linux Foundationの現在の活動状況が報告されました。

Linuxの最新動向をめぐるセッション

Jim Zemlin氏の基調講演の後、Linuxが抱える課題に対して取り組む企業、団体、コミュニティが登壇し、それぞれの取り組みや、課題に関して講演を行いまた。以下それらの講演を簡単にダイジェストで紹介しましょう。

Introducing the Yocto Project & what is means for the embedded Linux Industry

このセッションは、現在Yocto Projectに参画し活動しているWind River、Texas Instruments、Sakoman Incより3名が登壇し、同プロジェクトでの取り組みについてパネルディスカッション形式で発表するものでした。

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彼らがYocto Projectを推進する理由として、これまで各社が必ずしも自社の強みではない部分で、しかも同じような作業に対して別々に投資を行ってきたため大きな無駄があった点を挙げ、こうした「Share」できる作業を共同で行うための枠組みとしてYoctoに参画していることを説明しました。

また、Linuxの開発人材は非常に希少であり、多くの開発者を採用することは非常に困難なため、人材が足りない分をYoctoで提供されるようなツールを充実させて解決できることを期待するという声もありました。

What's Next for Linux in the Enterprise and Cloud?

このセッションではYahoo!、AMD、IBM、Splashtopからそれぞれ現場の責任者が登壇し、Yocto Projectのセッション同様、パネルディスカッション形式で行われました。

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セッション中、Yahoo! の Sven Dummer氏(Linux OSディレクター)は、Yahoo! は以前のFreeBSDベースのシステムからLinuxベースのシステムへと移行し、現在はRed Hatをベースにした自社開発ディストリビューションを活用していると説明しました。Dummer氏は自社ディストリビューションを開発する理由として、できるだけ最新のカーネルを取り入れることにより、自社のシステムに期待されるパワーマネージメントの向上や、ラックの省スペース化が可能となったと語りました。

Demand for Mobility Device Open Source Innovation

このセッションでは、Qualcomm Innovation CenterのMark Charlebois氏(オープンソース戦略担当ディレクター)が登壇しました。

Mark Charlebois氏
Mark Charlebois氏

Charlebois氏はモバイルデータ消費量が2010年から2015年の5年間で10~12倍に膨れ上がることを指摘し、⁠Fragmentation」が今後の大きな課題になると指摘をしつつ、以下の点が市場における今後の「機会」となって行くだろうと述べました。

  • HTML5の登場による、モバイルアプリケーションのパラダイムチェンジ(Native Application と Web Applicationの特性の融合)
  • P2Pベースのアプリケーションの増加と、それによる端末が持つ可能性のさらなる引き出し。この一環としてQualcomm Innovation CenterではAllJoinというオープンソースプロジェクトを推進していることを紹介。

またCharlebois氏は、GCCに変わるツールであるLLVMに対する期待にも言及していました。

おめでとう!Linux 20周年

今回のCollaboration Summitでは上で紹介した基調講演と並び、本年「Linuxの誕生20周年」を記念して行われるいくつかのプログラムが発表されました。総じて、20周年という節目にふさわしい多くの新しい取り組みが紹介され、向こう20年間のLinuxの大いなる可能性やモメンタムを感じさせるカンファレンスとなりました。

Linux Foundationが主催する次なるイベントは、6月1日から始まるLinuxCon Japan 2011です。Linus Torvalds氏をはじめ、Collaboration Summitと同等か、それ以上のキーノートスピーカーの来日が予定されています。今後のLinuxの可能性を肌で感じる事ができるカンファレンスとなるはずなので、ぜひ多くの方にお越しいただきたいと思っています。

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