Firefox、Chrome、Opera、Safariなど、現在、メジャーなブラウザの最新版のほとんどはHTML5に対応している。まもなく日本語版も登場するMicrosoftのIE9もしかり。もっとも2、3年前なら、IE MicrosoftがHTML5準拠を声高らかに宣言するようになるなんて、あまり想像できなかったわけなのだが……。
さて、日本でのHTML5普及も着実に拡がりつつあるといっていいだろう。スマートフォンユーザの増加、そして前述のとおりIEのHTML5サポート宣言により、ここにきて一気に普及が加速していく可能性は高い。だが、その普及を支えるWeb制作者たちを見てみると、HTML5に興味はあるけれども、日常の業務に追われて、新しい知識を吸収する時間や余裕をなかなか作れないという開発者やデザイナーは少なくない。
とくに企業向けのWebサービス開発が業務の中心だったりするアプリ開発者の場合、新しいことに挑戦するよりも、「 どんな(古い)環境でも必ず動く」「 強固なセキュリティ」への対応が第一となる。いまだにIE6での動作を前提に開発をしなければならないケースもあると聞く。
そんな開発者やクリエータを少しでも応援したい、そして日本でのHTML5の普及を促進していきたい、という願いを込めて結成された勉強会グループが「html5-developers-jp」 だ。Google API Expertでもあり、HTML5関連の記事や書籍を数多く執筆している白石俊平氏が同グループの管理人を務めており、グーグルのシニアプロダクトマネージャ 及川卓也氏や、白石氏と同様にHTML5の著書を多数執筆している羽田野太巳氏などがメンバーとして参加している。メーリングリスト上でのディスカッションが活動の中心で、4月現在のメンバー数は3,200人を超えている。HTML5に興味がある人なら誰でも参加することが可能だ。
html5-developers-jpが掲げるテーマはもちろん日本におけるHTML5の普及だが、業務外の時間を使って参加してもらうならば「楽しい」活動でなければメンバーのモチベーションも上がりにくい。HTML5の普及を図りながら、メンバーに楽しく参加してもらえるイベントを何か開催したいというスタッフの思いが結実して開催されたのが「第0回 HTML5プログラミング&クリエイティブ コンテスト」だ。
プログラミング部門とクリエイティブ部門に分け、プログラミング部門は「アスキーアートを使った何か」「 Chrome WebApp/Extension」「 自由課題」の3部門、クリエイティブ部門は「川柳」「 キャラクターデザイン」の2部門、計5部門で作品を募ったところ、全部で114件の応募があったという。「 思ったよりずっと多くの、しかもすばらしい作品が集まって本当に感無量。メンバーの熱意に少しでも恩返しをしたい」( 白石氏)として、さる4月15日、東京・新宿にて各部門の最優秀作品賞および優秀作品賞を表彰するイベントが開かれた。
入賞者には白石氏(左)の著作などが記念品として贈られた(右はアスキーアートUIで動くHTML5 Radio作成者の大津繁樹氏)
新宿の某居酒屋で和気あいあいと行われた表彰式。20人以上が参加し大盛況となった
入賞した作品は以下のとおり。
プログラミング部門
アスキーアートを使った何か
Chrome/WebApp/Extension
自由課題
クリエイティブ部門
川柳
最優秀作品賞 「新技術使われてこそ意味がある」( yusakaki氏)
優秀作品賞 「分け入っても分け入ってもdiv」( イチジョウ氏)
「IEもモダンブラウザ仲間入り」( shoito氏)
キャラクター
もともとは2月に行われた「Developer Summit 2011」のコミュニティブースで展示するコンテンツをスタッフで協議しているうちに、今回のコンテストに行き着いたという。「 レベルの高さよりも、ひとりでも多くの方が労力を割いてHTML5の作品を作ってくれることに意義がある」と白石氏。応募期間は1月12日~2月11日の1ヵ月間。入賞作品の選考は白石氏を中心とするhtml5-developers-jpの数名のスタッフによりオンライン投票で行われた。
入賞作品はいずれも力作ぞろいだが、筆者が取材して気になったのは「アスキーアートを使った何か」という部門をわざわざ設けたこと。あるスタッフの方によれば「楽しそうだから、というのが大きな理由ですが、HTML5ってリッチな表現をしてなんぼ、みたいなイメージが少なからずあります。そこであえて対照的な“ プア” なアスキーアートに限れば、どんな表現が可能なのかを試してみたかった部分はありますね」との弁。同部門の最優秀作品賞に輝いた大津氏は「アスキーアートの"プア感"をだすために、あえてノイズを聞こえるようにする工夫もしています。音楽に合わせて音符のマークが出てくるのですが、CSS3のanimationが使えないので、そこが一番苦労しました」と語る。一見“ プア” なアスキーアートの裏ではいくつもの高度な技術が使われているという、このギャップがクリエータ魂をかき立てるのかもしれない。
今回のコンテストは「第1回」ではなく「第0回」と銘打たれている。白石氏は「今回は試験的な要素が強いイベントだったので、あえて第0回とさせてもらった。だが、予想以上にたくさんの方に応募していただいたこともあり、また、“ 今回は選から漏れたけど、次回は頑張ろう” と思ってくれている方も多く、なんとかその思いに応える機会を再度設けたい」と語る。
html5-developers-jpのイベントはすべてボランテイアベースで行われるため、運営スタッフにかかる負担は決して小さくない。そのためどうしても大々的に開催することが難しく、次回の開催を約束しにくい状況にあるという。だが、「 日本のHTML5開発を盛り上げ、サポートするのがこのコミュニティの使命。参加してくれた人々の作品を知ってもらうためにも、ぜひ次回以降につなげていきたい」(白石氏)とのこと。まずはひとりでも多くの開発者にHTML5に興味をもってもらいたい。 同コミュニティではコンテスト後も引き続きメンバーを巻き込んだ"楽しい"イベントを計画していく予定だ。
コンテスト応募作品の全ギャラリー
URL:http://komachu.sakura.ne.jp/0thgallery/index.html