レポート

未来は決まっていない,挑戦なくして未来は開かない─「エンジニアの未来サミット for students 2011」第3回レポート

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「こんな事もあろうかと」の多くは実は使われていない?!

後半は,サイボウズ⁠株⁠代表取締役社長 青野慶久氏,サイボウズ・ラボ 竹迫良範氏,モデレータとして技術評論社 馮富久が加わったパネルディスカッションです。参加者からの質問を受けてのパネルでしたが,やはり國中教授に質問が集中しました。

第2部 パネルディスカッションの模様

第2部 パネルディスカッションの模様

まずパネラーである青野氏から,はやぶさで想定外の事態に陥ったときに使われた技術について質問がありました。竹迫氏も,オペレーション中のソフトウェアの書き換えに興味を引かれたとコメントしました。

これについては,単独で機能しないイオンエンジン2基の,正常に動く部分だけを使って1基のエンジンとして使うための「バイパス回路」は,⁠こんな事もあろうか」と,あらかじめ用意されていたそうです。ただ,その他にもいくつか想定して積んでいったのに,結局使わなかった機能もたくさんあったとのこと。

逆に,イオンエンジンを使った姿勢制御や,イオンエンジンによる地球到達時の精密な起動誘導についてはまったく想定しておらず,⁠牽引式のトラックをバックで運転するような」操作が必要で,実現できたのはオペレータの努力のたまものだったということです。

これはある意味予想が外れたとも言えますが,そうした準備を尽くしたからこそ予定外の事態にも状況の切り分けが迅速になり,適切に対応できたのではないでしょうか。ソフトウェア書き換えで予想外の動作にも対応できる(する)のは,究極の「こんな事もあろうかと」ではないかと思います。

パネルディスカッションでの國中氏とサイボウズ社長 青野慶久氏

パネルディスカッションでの國中氏とサイボウズ社長 青野慶久氏

学生さんからは,20年でものごとを考えるやり方にとまどう質問がありました。日ごろネットなどの動きの速さを目にしていると,果たして今飛びついたものが将来も評価されるかどうかが気になります。

これに対して,國中教授は学生時代にロケットを作りたいという希望を持って宇宙科学研究所に見学に行ったエピソードを語りました。当時ロケットというのはもう研究しつくされ,あとは作るだけのものだ,と言われたそうです。ただし電気ロケットは全然進んでいないという話を聞き,⁠これをやる」と決めたとのこと。当時の電気ロケットは研究ばかりして実用にならない,と非常に評判の悪いものでした。

また当時はロケットといえばアメリカで,有人探査をはじめ何でもできる巨大なものが作られていました。対する日本では小さいロケットしか作ることができず,対抗するには「ロケットで運ぶモノ」の性能を上げるしかない,それがミッションだったという事情もあります。⁠流行ものに手を出すのは競争率が高いし,良い方法ではないと思います」⁠國中教授⁠⁠。

これには竹迫氏も「たしかに今うまくいっていない分野というのは狙い目だし,やりがいもあるのでは」と同意しました。

「はやぶさ」プロジェクトで最も手応えを感じた瞬間は? という質問には,前出の「いとかわ」の形が見えてきたときのうれしさを挙げ,⁠自分はイオンエンジンがうまく動けば成功と考えていたが,小惑星の形が見えたときに,知識欲求がすごく活性化された。それで他の研究者や見ている人たちを『エンカレッジ』できたことに大きな喜びを感じた」とコメントしました。

この話に青野氏も大きく同意したようで「社長をやっている楽しみにも通じるところがある。自分の周りの人の喜びが自分の喜びになる」と続けました。

サイボウズ・ラボ 竹迫良範氏(右⁠⁠,技術評論社 馮富久

サイボウズ・ラボ 竹迫良範氏(右),技術評論社 馮富久

パネルの結びに,竹迫氏は「人と違うことをやる」重要性を再度強調しました。國中氏もこれを受け,前出の「ゲームチェンジ」論を再び説きました。⁠従前のことをやっても次の世界は開けない。ロードマップをしっかり見て,自分がどう貢献できるのか,今だれもやっていないところに伸びしろがある」⁠國中教授⁠⁠。宇宙とIT,分野は違えど,何かを成し遂げるための筋道に大きな違いはありません。

エンジニアの未来サミット for students 2011を終えて
馮富久

3回を通してMCを担当した馮富久から,今年の「エンジニアの未来サミット for students 2011」を終えての所感を添えさせていただきます。

「エンジニアの未来サミット」は2008年に第1回を開催してから3年半が経ちました。当時はまだ,リーマン・ショック前でもあり,日本,世界とも働き方,社会の動向がまったく異なっている時代でした。IT業界という括りで見ても,インターネットの活用は進んではいるものの,今ほどまでソーシャルやモバイルが生活レベルにまで浸透していなかった時代でした。

それから世の中の様相は本当に変化しています。この業界の3年というのは本当に長い時間でもあり,さらに日本の景気不況,そして2011年は3.11という悲しい出来事があり,人が働くことについて,改めて考え,認識が変わった年でもありました。その中で,今年の第1回目のゲストまつもとゆきひろ氏,第2回目のゲスト小飼弾氏,渡辺弘之氏,第3回目のゲスト國中均教授,ホスト役の青野慶久氏,竹迫良範氏全員に通じていたのが,⁠自分で考え行動することの大切さ。その気持ちを持ち続けることから生まれる強さ⁠でした。

とくに,エンジニアという職種で働くことは,⁠何かを生み出す⁠⁠何かを創り出す⁠⁠,創作活動でもあり,アウトプットが求められる仕事です。どういった状況でも,何かを表現することが求められるわけです。私自身,トッププレイヤーたちのプレゼン,トークセッションを横で聞きながら,自分が何を考え,何を作りたいのか,それが世の中にとってどういう価値があるのか,それを常に自問自答し続けることが大切だと感じました。

就職活動を始めた学生の皆さんにとってはこれからが正念場だと思います。迷うこと,悩むことがあったとしても,その自問自答を持ち続けながら,一歩ずつ進み,ときには立ち止まって考えてもらえればと思います。そして,エンジニアを目指す学生の皆さんの力で,これからのIT業界,エンジニアの新しい未来が拓かれていくことを期待しています。

著者プロフィール

小坂浩史

gihyo.jp編集部 所属。最近では電子書籍の制作にも関わる。