Make the Future Java(未来のJavaを作り上げよう) ─このキーワードとともに幕を開けたJavaOne 2012。本稿では初日の9月30日、サンフランシスコのメゾニックオーディトリアムで行われたストラテジーキーノートの模様をお伝えしながら、オラクルがJavaテクノロジをどうドライブしようとしているのか、その方向性を探ってみたいと思います。
JavaがJavaであるために
最初に登場したのは米オラクルでOracle Fusion MiddlewareおよびJava部門のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるハッサン・リズビ(Hassan Rizvi)氏です。
ハッサン・リズビ氏
同氏はまず、現在においても未来においてもJavaのあるべき姿として
プラットフォームとしての完全性
モダナイゼーションとイノベーションの両立
開発者にとっての生産性向上
オープンで透明性を保った進化
アクティブなコミュニティを巻き込んだ活動
クォリティとセキュリティの担保
という5つのポイントを挙げました。JavaがJavaであるためには、今後どんな機能が追加されようとも、この5つは一貫しているべきという主張です。
次にリズビ氏は、Java SE、JavaFX、Java ME/Embedded、Java EEという主要な4つのJavaテクノロジについて、2012年度においてそれぞれどんな成果を上げたかをスコアカードとして示しました。
Java SE
OS XおよびARM版のサポート、300以上のエンハンスメントを含む7度のアップデートリリース
JavaFX
Windows/OS X/Linux版のJavaFX 2.2、WindowsおよびOS X版のJavaFX 1.0 SceneBuilder、JavaFXのオープンソース化
Java ME/Embedded
組込み用ミドルウェアスタックのJava Embedded Suite、マイクロコントローラデバイスで動作するJava ME Embedded for Java、Java SE 8とJava ME 8のアラインメント計画(2013年度目標) 、Java ME 8 JSRのJCPへの提出準備
Java EE
2度のGlassFishリリース、2013年度リリース予定のJava EE 7の仕様見直し、Java EE 7と簡素化したHTML5との統合
組込み技術であるJava ME/Embeddedに関しては、9月に入ってからオラクルから新しいリリースが相次ぎ、組込み市場でのJavaの優位性を高めるスイートとして注目が集まっています。一方で、2013年度リリース予定のJava EE 7においては、クラウド機能の実装が先送りになるなど、やや残念なニュースもありました。もっともリズビ氏は、コミュニティの活発な活動や、オラクルのリーダーシップなどを含めて2012年度のJavaを振り返ると、総じて高い評価が得られているとしています。
NashornがOpenJDKにも
リズビ氏につづいて登壇したのは、オラクルでJavaプラットフォームグループを担当するソフトウェア開発部門のバイスプレジデントであるジョージ・サーブ(Georges Saab)氏です。同氏はJava SE開発におけるリーダーとして知られており、OpenJDKのチェアマンも努めています。
ジョージ・サーブ氏
サーブ氏は、Javaの開発の主体がオラクルに移ったここ1、2年はサンが行ってきた開発よりもずっと多くの機能強化が図られてきたと語り、とくに2011年7月末にリリースされたJava SE 7は、これまでにない革新的な進化を遂げたバージョンであることを強調しています。そして次のメジャーリリースとなるJava SE 8でもその流れを受け継ぎ、いくつもの新機能を実装するとしています。
JavaSEのロードマップ
その中でもサーブ氏が注目すべき機能として挙げているのが、新しいJavaScriptインプリメンテーションとなるNashorn(開発コード)です。JavaVMとの高い互換性を実現するバイトコードinvokedynamicにより、これまでにない高速性が実現するというNashornですが、サーブ氏はここでNashornが近い将来、OpenJDKにも提供されることを発表しました。また同時に、IBM、Red Hat、Twitterの各社が協力してこのプロジェクトに参加することもあわせて発表しています。
NashornはOpenJDKにも提供され、IBMやRed Hatも協力を表明している
オラクルは今年8月、Linuxディストリビュータなどに対するJavaライセンスを撤回して おり、ディストリビュータがJava開発環境を同梱するにはオープンソースのOpenJDKしか選択肢がありませんが、Nashornが提供されればOpenJDKのパフォーマンスも大きく向上すると見られており、期待がかかりそうです。
JavaFX、Java SEとの統合に向けて加速中
次に登壇したのは、オラクルのエンジニアリング部門バイスプレジデントであるナンディーニ・ラマーニ(Nandini Ramani)氏。JavaFXのエキスパートとして日本でもお馴染みの方です。
ナンディーニ・ラマーニ氏
ラマーニ氏は、現バージョンのJavaFX 2.2が確実にフロントエンドの世界で普及していることを強調し、なかでもデザインツールのJavaFX Scene BuilderがNetBeansに同梱されたことで、JavaFXの開発環境が大きく改善されたとしています。JavaFXは現在、JavaSEとの統合に向けてプロジェクトが進められていますが、非常に順調に運んでおり、もうまもなく作業が完了するとのことです。また、Java FXがLinux ARMでも利用可能になったことがラマーニ氏より発表されました。
JavaFX2_2以降で期待される機能
JavaFXがエンタープライズの現場でも採用が進んでいる実例として、スイス・バーゼルに本社を置くCanoo Engineeringの開発事例が紹介されました。Canoo EngineeringはJavaベースのRIA開発を得意とするWebアプリケーション開発企業です。登壇した2人のエンジニアはJavaFXが高いパフォーマンスで描画できるデモを示し、同社が開発するJavaFXソリューションのDolphin をオープンソースで提供することを発表しています。
3D描画もJavaFXでさくさくと(Canooのデモより)
また、もうひとりのゲストスピーカーとしてAMDのコーポレートフェローであるフィル・ロジャース(Phil Rogers)氏も登壇し、Javaのグラフィックパフォーマンスを向上させるため、AMDは現在、OpenJDK開発チームと組んで「Project Smatra 」というプロジェクトに取り組んでいると語りました。「 ヘテロジニアスなコンピューティング環境が進み、クラウドやビッグデータといった大量データの時代を迎えた現在、ハードウェアのトレンドはマルチコアCPUへ、そしてGPUのトレンドも共有メモリやチップの共有に移りつつある。真のWrite Once, Run Anywhereを実現するため、GPUがJava VMとどう最適に連携できるのかをこのプロジェクトで探っていきたい」( ロジャース氏)
フィル・ロジャース氏
最後にラマーニ氏は会場に集まったJava開発者に向かって、JavaFXのテストへの参加を呼びかけました。前述したように、Java SE 8とJavaFXの統合は着々と進んでおり、2013年の1月にはほぼ仕様が決定する予定です。「 デベロッパプレビューは2月から開始する予定なので、ぜひ試してフィードバックを送ってほしい」とのこと。またProject RambdaやJavaFXを統合したJDK 8の開発版はすでにjava.netから入手可能なので、こちらもぜひ使い心地をレポートしてほしいと呼びかけています。開発者とのコラボレーションがJavaFXの開発を支えるというポリシーは、Java SEに統合されても変わることはありません。
今回のJavaOne基調講演は、いくつかの新発表はあったものの、こちらを驚かせるようなインパクトの強い発表はほとんどありませんでした。だからといって、Javaの開発が停滞しているわけではなく、この1年での開発の成果をベースにきっちりとそれぞれのテクノロジの足元が強化し、コミュニティと歩調を合わせながら新機能の実装に向けて開発を進めている、そんな堅実な姿勢を感じました。ただ、初日のキーノートだからこそ、もうすこし開発者やユーザの心をぐっと掴むような仕掛けが欲しかったように思えます。開発者が情熱をキープできるようなエキサイティングな環境づくりも、これからのオラクルが果たすべき重要な役割のはずなので、来年はもうすこし華やかなキーノートを期待したいところです。