「第1回 Liferayオープンソース ユーザコミュニティ」開催

11月14日、東京六本木において日本ライフレイの主催によるセミナーイベント「第1回 Liferayオープンソース ユーザコミュニティ」が開催されました。

Liferay社のコミュニティ・マネージャであるジェームズ・ファルクナー氏による「Liferay」の概要、プラットフォームの責任者であるグレッグ・アマーソン氏による技術解説、そしてユーザ事例としてSesame WorkshopのCTOであるノア・ブロードウォーター氏が「セサミストリート」サイトの構築や運用について紹介しました。さらに「Liferay Community Contributor of the Year 2012」の表彰も行われました。その模様をご紹介します。

7万人を超えるユーザが利用している「Liferay」活発なユーザコミュニティが高品質の製品を生み出す

最初に登壇したのは、Liferay社のコミュニティ・マネージャであるジェームズ・ファルクナー氏。⁠ユーザ中心で製品の質を高めるLiferayのオープンソースコミュニティ」として、Liferayの概要を紹介しました。ファルクナー氏は、⁠今回のイベントはLiferayやスタッフのご紹介も目的のひとつですが、もうひとつの大事な目的は、皆さまにコミュニティに参加していただきたいというご案内です」と述べ、Liferayの現在を紹介しました。

Liferayのコミュニティ・マネージャであるジェームズ・ファルクナー氏
Liferayのコミュニティ・マネージャであるジェームズ・ファルクナー氏

Liferayは、Webシステムを短時間で構築できるオープンソースのプラットフォーム。特に世界的にコミュニティが活発です。オープンソースコミュニティの目的は、⁠製品に対するイノベーションを社外の方々からもたらしていただくこと」⁠大勢の外部の人たちの時間とエネルギーを持ってコントリビューションに寄与していただくこと」であるといいます。

現在のLiferayの登録ユーザは世界で7万人以上おり、日々ログインしてコントリビュートしているユーザは約5千人、一日あたり150にのぼるコントリビューションがあります。ライセンスはLGPLを採用しており、無償で提供されるLiferayをダウンロードしたユーザは、自身で変更した個別の製品をLGPLの規則に則って再販できるようになっています。ここ2~3年は特に人気が高まっており、ダウンロード数が増加しているとグラフを示しました。

Liferayのユーザは7万人を超え、さらに増加傾向が続いている
Liferayのユーザは7万人を超え、さらに増加傾向が続いている

さらに具体的な数字として、フォーラムのポストは前年比で25%の増加、複数のポストは同15%増加しており、特にフォーラムポストで重要な回答の件数は前年比で125%と大きく増加しています。同様に、コミュニティで新しいユーザが放って置かれるのは問題ですが、ポストに対する回答までの平均日数、つまりエンゲージメントタイムは2010年で平均15日でした。それが2011年には4日になり、2012年は1.1日になりました。この数字はコミュニティにおいて、有用性と解答を出す機能の改善のひとつの指針となるでしょう。

ファルクナー氏はLiferayのWebサイトを示し、共有できるダッシュボードや。いくつものコミュニティで、リアルタイムにどこでどんなアクティビティがあるかチェックできることを紹介しました。アナウンスの内容や、ブログの最新情報を表示することもできます。また、コミュニティのメンバーと社員の努力によって多言語の翻訳版も作成しており、日本語のバージョンも用意されています。まだ日本語の表記などの課題もありますが、引き続き改善していくとしました。

Liferayによって、スケーラブルなコラボレーション、コミュニティメンバー間が協業できるような場が提供されます。コミュニティサイトはポータルだけでなく、アカウントの管理やユーザグループの管理も可能です。コミュニティで共有管理するオブジェクトが、メンバーにより修正された場合には、クラスタ内のすべてのサーバへブロードキャストメッセージが送出されます。そのために、コミュニティ内での情報や経験を共有し、継続的な改善につなげられるわけです。

さらにLiferayは単なる利益追求主義ではなく人のために役に立つ事業を追及する企業であり、毎年利益の10パーセントを慈善事業に寄付し、災害復旧などに役立てていることも大きな特徴。日本のユーザ比率は現在1%ですが、どんどんメンバーにも加わっていただき、もっと大きくしていきたいと力を込めました。

フォーラムやコミュニティにはさまざまな側面があり、欧米を中心に活発に活動しています。特に国単位、地域単位でユーザグループが存在することも特徴で、それぞれ重要な機能を担当しています。たとえば「BugSquad」は人気のあるグループの一つで、これにより多くのバグが修正されました。日本にはまだ日本語による独自のユーザグループが存在していませんが、ぜひとも日本独自のユーザグループがさらに広がってLiferayの重要な一端を担って欲しいとフォルクナー氏はいいます。今回の来日もそのための取り組みの一環であるといいます。

Liferayには、⁠Portal」⁠Social Office」⁠Sync」といった製品があり、エンタープライズ向けにサブスクリプション製品も用意されています。これらの製品には、マーケットプレイスからアプリをアップデートや追加することができます。またマーケットプレイスにはUIのフレームワーク「AlloyUI⁠⁠、開発ツール「Developer Studio⁠⁠、⁠Liferay Faces」などから機能が追加されます。

2011年から2012年は、⁠Liferay Portal 6.1 CE」「Liferay Social Office 2.0 CE」などといったリリースを中心に、アクティビティとプロジェクトが密接に関連して活動しており、2013年のコミュニティは「Liferay.com」の最新版「6.1 EE」のアップデートをはじめ、リリースの頻度を高めていくとともに、Liferayやコミュニティを強化していくとしました。

Liferayのプロダクトファミリー
Liferayのプロダクトファミリー

豊富に用意されるカスタマイズツール

続いて、Liferay社のシニア・ソフトウェア・エンジニアであり、Liferayプラットフォームの責任者であるグレッグ・アマーソン氏が登壇し、セッション「顧客サービスの価値を高める企業ポータル最新版の紹介」を行いました。Liferayのデベロップメントには、ポータル機能のビルトイン、新しいアプリケーションの開発、アプリケーションの統合、⁠Liferay Portal」のカスタマイズといったタイプが用意されており、また6.0以降はプラグイン機能も提供、シンプルで移植性の高いプラグインが用意されています。

Liferayプラットフォームの責任者であるグレッグ・アマーソン氏
Liferayプラットフォームの責任者であるグレッグ・アマーソン氏

Liferayはすべてをカスタマイズすることが可能なので、開発者は必要な機能のみに絞って開発することができます。プラグインのデベロップメントは図のようになっており、色の付いた部分がプラグインとなっています。プラグインには新しい機能やサードパーティアプリのために使用する「Portlets⁠⁠、実装されている機能を置き換える場合などに使用する「Hooks⁠⁠、UIレイアウトのテンプレート「Layout Templates⁠⁠、ルック&フィールを変更、カスタマイズする「Themes⁠⁠、過去の開発方法の履歴をたどって旧バージョンに戻せる、あるいは不要な機能を格納できるエクステンション「Ext⁠⁠、そして「Web」の6種類が用意され、要件を満たせない部分をカバーできるようになっています。

Liferayプラグインのデベロップメント
Liferayプラグインのデベロップメント

また、開発のためのツールとして「Liferay Developer Tools」を提供しています。これには、プラグイン専用開発ツールやプラグインSDK、UI用のフレームワーク、EclipseとNetbeansへのIDEサポートが含まれます。⁠Liferay IDE」はアマーソン氏が担当しているツールでもあり、Eclipse用のエクステンションを搭載し、シンプルで容易にオプションへ加えられます。ウィザードやエディタ、テンプレートも用意されており、ホットスワップによるデバッグも可能です。さらに、IDEコネクタを介したリモートデプロイにも対応しています。アマーソン氏はこのほか「Liferay Developer Studio」⁠Development Env」の紹介を行い、実際にLiferayに機能を追加するデモも行いました。

実際にLiferayのデモも行われた
実際にLiferayのデモも行われた

Liferayの導入で250万ドルのコストを節約、しかも3名のみで運用を実現

実際にLiferayを活用したユーザ事例として、NPO団体Sesame WorkshopのCTOでありCIOでもあるノア・ブロードウォーター氏が登壇し「Building a More Agile Web Experience」と題したセッションを行いました。ブロードウォーター氏は、Webはバックオフィスとフロントエンドのふたつの世界がミックスされているといいます。

Sesame WorkshopのCTO、CIOであるノア・ブロードウォーター氏
Sesame WorkshopのCTO、CIOであるノア・ブロードウォーター氏

Sesame Workshopでは、2005年に「セサミストリート」のWebサイトを再構築しました。そのとき、Webが国内のお客様や視聴者に対するリーチだけでなく、世界の誰にでもリーチできる重要な配信メディアであると再認識したといいます。事実、世界の191カ国で閲覧されており、過去2年半にわたって毎月、各国にビューワがいるのです。

そこで再構築の際には、着目しているエリアで消費者に対して競合他社との差別化、また教育的なコンテンツを提供しているメディアとの差別化も図りたいと考えました。セサミストリートはぬいぐるみのふわふわ感などの楽しさが印象的で、それをWebでも展開したいと考えました。単にABCや123を教えるつまらないものではなく、セサミストリートの特徴やユニークな声といったことに着目したといいます。

このような独自性を維持するために、各部門のエキスパートに対して独自のデータをWebサイトのセクションにアップロードするよう依頼しています。しかし、彼らは技術者ではありません。専門の知識がなくても、平文で載せられることが第一の希望でした。また、編集されたコンテンツが各部門から一元管理されたセンターに届いたとき、それが適切なトーンであるか、またセサミの内容としてふさわしいものであるかどうかをまとめるためにユニークなワークフローが求められました。

セサミストリートのコンテンツはマガジンフォーマットという形で43年間にわたって保存されています。たとえばビッグバードがアルファベッドの「A」を掲げている映像は、実は1972年に撮影されたものであり、それが今日この場でも見られるわけです。当初は毎月1~3くらいのストーリーを提供できればいいと思っていましたが、現在では毎週1~3の頻度で提供できているといいます。

しかし、Webサイトの構築や運営、維持にはお金がかかるため、それをどう捻出するのかがブロードウォーター氏たちの悩みでした。一般的には、たとえばGoogleやAmazon、マイクロソフトといったところからの広告収入で資金を調達できます。しかし米国には、12歳未満の子供に対して広告を表示してはいけないという法規制があります。ではECではどうか、オンラインで製品を売ることで販売収益を上げられるかと考えましたが、Sesame WorkshopはNPOなので特定の目的のない製品を売ってはいけないという規制もありました。

では、ディズニーなどが実施しているサブスクリプションモデルはどうかという案もありました。しかし、Sesame Workshopには「教育は全員に対して公平でなければならない」⁠人種や社会経済的な状況を問わず、すべてに対して無償でなければならない」という信念があり、それも適用できなかったのです。では、どのように支払いをするのか。

成人が見るセクションに限れば、スポンサーシップに頼るという方法もあります。しかし、セサミストリートのWebサイトは成人だけでなく子供の目にも触れます。また、子供が見る部分にスポンサー関連のものが出ると広告と見なされるので、これもできません。

個人で寄付を募るという方法もありますが、実際にこのような寄付があったとしても、それはPBSの収益になるわけで、Sesame Workshopに来るのはサイトを運営、制作するコストの5%にしかならないのです。

収入が得られないとすれば、コストを削減するしかありません。そこで、これまでの専用システムよりも堅牢性、安定性、拡張性があり、しかも安価なものを探したといいます。まず20~25の異なるベンダを対象に選定し、それを10社に絞り込みました。そこには専用のシステムもオープンソースもありましたが、実際に第三者機関によって格付けをしてもらうことで3社に絞り、そのうち2社を採用したのです。それが、ともにオープンソースのLiferayとAlfrescoでした。

Sesame Workshopでは、アセットのあるレポジトリの運用にAlfresco、実際にパブリッシュレイヤでプレゼンを行うのはLiferayという役割分担としました。その後、Liferayから新しいメディアライブラリのサービスが提供されるようになったことで、Liferay1社に絞り、これによりさらにコストを節約できたといいます。

こういった経緯を経て、セサミストリートのサイトは2008年からLiferayによって稼働しています。現在では、3~5の開発プロジェクトを稼働させ、またテスト環境はふたつ、実際のステージング環境としてひとつを動かしています。それでコストはどうなったかというと、もともとの予算より250万ドルを節約することができたのです。

また、サーバのリソースは80%削減、実際の本番環境は50台あったサーバが5台に収まりました。本番環境の必要リソースは90%削減されたわけです。このデータをとった9月では、アップタイムが99.99%でした。この数字はAmazonのWebサービスやGoogleのGmail、またマイクロソフトのAzureのクラウドサービスを上回る数字です。

今までは外部のデベロッパーなどに報酬を支払ってページを書いてもらっていました。しかし今は、普通の平文で社内の人間が書いています。コード化も不要で、自動調整されてWebサイトにアップできるので、デベロッパーのコストも削減できました。さらに、ライブラリが自動アップロードできるので、ファイルやビデオをWebサービスに送信することも容易で、リアルタイムストリーミングも可能です。たとえば先日のプレスリリースは、発表の5分後にはビデオとプレスのアナウンスがWebに載っていました。Liferayとの協業が始まる前は、48時間かかっていた作業なのです。

Liferayによって生まれ変わったセサミストリートのWebサイト
Liferayによって生まれ変わったセサミストリートのWebサイト

コミュニティとオープンソースの活用は、Sesame Workshopに大きなメリットをもたらしました。カスタマイズの成果がサポートの対象になり、統合できることも特徴です。たとえば、新しいLiferay製品に採用されたアドバンスドワークフローは、私たちの協業の成果物として出てきたものです。常にコミュニティに目を向けて、何が提供されているのかを把握し、それを活用してコミュニティにフィードバックしています。

こういった作業を含め、本番環境とステージング環境、マルチ開発環境、テスト環境の運用を行い、毎月200万人、毎月191の国にコンテンツを提供していますが、それを支えているのはマネージャ、開発者、Webサービスエンジニアのわずか3人のチームです。この3人で99.99%のアップタイムで稼働しているのです。

将来はほかのパートナーとも組んで、さらに面白いことをしたいと考えており、それもLiferayのコードセットに基づいて展開したい。教育はグループよりも個別にカスタマイズされることが必要だと考えていますが、たとえば教室にいる全員に教育の内容をカスタム化できるとしたらどうでしょう。また、FacebookやGoogleなどの大手は皆さんのプライベートな情報を当然のように取得していますが、私たちはプライバシー情報は保護されるべきと考えています。今後は厳格な認証メカニズムをLiferayとともに導入したいと考えているといいます。

Sesame Workshopは非営利団体でありお金もありません。そのため、各大学やオープンソースコミュニティの支援を要請しています。それによってコンテンツも増えますし、新しいミッションで果たそうとしていることがさらに強調されます。それは、学校に上がる子供たちの準備をしてあげること。米国国内に限らず世界的にそのパーセンテージを上げていくこと。それを楽しいエンターテインメントの形で実現していきたいと考えています。そのために、日本を筆頭にメキシコ、中国、インドなどの各国にグローバルパートナーになって欲しいと考えていると、ブロードウォーター氏はセッションを締めくくりました。

最後に、日本ライフレイ株式会社の竹生泰之氏により「Liferay Community Contributor of the Year 2012」の表彰も行われました。この賞は、世界中のLiferayユーザの中から特に寄与したユーザを表彰するもので、選ばれた3名のうちのひとりが、日本人である小沢仁氏だったのです。

「Liferay Community Contributor of the Year 2012」を受賞した小沢氏(左)とファルクナー氏
「Liferay Community Contributor of the Year 2012」を受賞した小沢氏(左)とファルクナー氏
日本ライフレイ株式会社
URL:http://www.liferay.com/

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