変化の時代を生きるエンジニアの心得とは─エンジニアの未来サミット for students 2012 第2回開催

12月12日、技術評論社×芝浦工業大学×サイボウズ共催「エンジニアの未来サミット for students 2012」の第2回が、芝浦工業大学豊洲キャンパスにて開催されました。

「エンジニアの未来サミット for students」は、2008~2009年に開催された技術評論社主催「エンジニアの未来サミット」を受け継ぎ、第一線で活躍するエンジニアが、これから社会に出ようとする学生とともにエンジニアの未来をについて考えるイベントです。2010年に初めて開催され、以後毎年11月~1月にかけ2、3回開催されるのが恒例となっています。

今回の会場となった芝浦工業大学豊洲キャンパス
今回の会場となった芝浦工業大学豊洲キャンパス

大企業も変化なくして生き残れない

今年2回目となるこのイベント、前半は「変化を楽しむエンジニアになる」と題し、⁠モバツイ」の開発者として知られる藤川真一(えふしん)氏による講演が行われました。

講演を行う藤川真一氏
講演を行う藤川真一氏

藤川氏がキャリアをスタートさせたのは半導体設備メーカです。その後Web業界に転身し、ご存じ「モバツイ」の開発を期に起業、さらに会社の合併、売却と、変化に富んだエンジニア人生を送って来られました。講演はその経験を披露しながら、企業とは? エンジニアとは? を問いかけていくものでした。

最初のテーマは「大企業」について。一般的に安定していて就職しても将来の見通しが立てやすいイメージがありますが、藤川氏はデータを挙げてこれを否定します。大企業に就職して終身雇用の恩恵を受けられる人は、実は全体の9%足らずだそうです。また、誰もが名前を知っているような大きな企業も、10年スパンで見ると柱となる製品や業態に変化がないところはほとんどありません。とくにインターネットやWebの出現は大きく、ほとんどの企業に多大な影響を及ぼしているといえるでしょう。⁠大企業といえども変化し続けている。変化への対応はmust」⁠藤川氏⁠⁠。

では何を軸にして自分は大企業向きかを判断するのか? 藤川氏は「自分の希望する仕事の粒度」を会社の規模と比較することを勧めています。また自分がそこで成長するために必要なものがあるかも重要なポイントとのこと。

重ねて「⁠⁠安定的に儲かる仕事を持っている』というのは疑ってかかる必要がある。⁠新しい市場に適切な製品を生み出す力がある』方を重視したい」⁠藤川氏⁠⁠。そして「新しい製品を生み出す機会が自分に与えられるか」が最重要と説きます。いずれにしても、⁠変化を楽しめる社会人になるのがお得」⁠藤川氏)でしょうね。

次のテーマは「技術⁠⁠。エンジニアは特定の技術を深く追求するイメージがありますが、たとえばWebエンジニアに必要な職能をとってもプログラミングの他、企画、マーケティング、IA(情報設計)といくつも挙げることができます。これを最初から1人でカバーするのは容易ではありません。足りないものはチームで補いあう必要があります。そのためには「無知を自覚すること」⁠藤川氏⁠⁠。

自分と違う職能の人と協力して仕事するとき大切なのは「技術ののりしろ」を意識することです。たとえば開発者とデザイナーの間に重なる部分が少しあるだけで、共通認識をもつことが容易になります。⁠自分ののりしろを大きくすること、そして人ののりしろに関心をもつことを心がけたい」⁠藤川氏⁠⁠。

のりしろを広げることで、できることが大きく広がっていく
のりしろを広げることで、できることが大きく広がっていく のりしろを広げることで、できることが大きく広がっていく

話は「エンジニア」に移ります。まず前提として「コンピュータテクノロジーの進化は、抽象化と仮想化の繰り返し」と説きます。それまで難しかったことが、抽象化、仮想化することで多くの人が簡単にできるようになるのです。

そして、抽象化、仮想化された技術が普及することで、社会が便利になっていきます。藤川氏は、そんなサイクルの中でエンジニアが果たす役割は「そのとき進化している抽象化された技術を使って目的を具象化すること」だと論じます。つまり、⁠常に技術の進化について行きながら、それを適切に使って具体的な成果物に変換できる人が優れたエンジニアと言える」⁠藤川氏)のです。

抽象化、仮想化によって生み出されたコンピュータの進化
抽象化、仮想化によって生み出されたコンピュータの進化

最後に、仕事を面白くするコツとして「願望、野望を持て」と説きました。スティーブ・ジョブズの例を挙げるまでもなく、藤川氏の知るベンチャー社長はたいていワガママで願望の固まりだと言います。⁠格好悪いという人もいるが、かわまない。独立したい、有名になりたい、ナンバーワンになりたいなど、自分の願望をもって自ら変化を起こそうとすることも大切」⁠藤川氏⁠⁠。そして「変化をポジティブに捉えて、自分も進化できる環境を探そう」と講演を結びました。

今すぐコードを書きなさい!

後半はトークセッションです。藤川氏に⁠株⁠nanapi CTOの和田 修一氏、サイボウズ・ラボ⁠株⁠代表取締役社長の畑 慎也氏、司会進行に技術評論社の馮 富久を加え、参加した学生の皆さんからの質問に答える形で進みました。現在就職活動中の方が多くを占める会場からは、⁠どんな会社を選ぶべきか」⁠就職に有利なスキル」に関する質問が多く出ました。

トークセッションの模様
トークセッションの模様

まずパネラーそれぞれがご自身の経験を元に「大企業かベンチャーか」についてコメント。和田氏は、新卒で楽天に就職し、そこで社会人としての基本スキルを学べたと言います。その基礎をもってベンチャーで活躍している経験から「最初の3、4年は大企業、その後ベンチャーが良いのでは」と語ります。

畑氏は新卒でジャストシステムに入社し、その後サイボウズを起業した経験をお持ちです。⁠新人でもコードが書けそう、あとは『一太郎』という名前だけで選んだ(笑⁠⁠」と言いつつ、しっかりした研修を受けることができたのが結果的には良かったと言います。⁠新卒を採るということは、それなりの準備をしているので大企業、ベンチャーに限らずリスクは少ないと思う。サイボウズも研修期間あります(笑⁠⁠。

nanapi 取締役CTO 和田 修一氏。
普段使いの言語はPHP、理由は
「社長がPHPしか書けなかったから⁠⁠。
エディタはEmacs。
nanapi 取締役CTO 和田 修一氏。普段使いの言語はPHP、理由は「社長がPHPしか書けなかったから」。エディタはEmacs。

藤川氏は「今は⁠既存の事業⁠プラス⁠インターネット⁠の時代。ベンチャーだとインターネット以外の柱がないのでその部分を買収して大企業化している」と、ここでも変化を見極める重要性を説きました。

パネラーのプログラミング経験を問う質問には、皆さん小学生ごろにゲーム等でパソコンに触れたものの、本格的にプログラミングをはじめたのは社会人になってからとのこと。このあたりは世代にもよると思いますが、⁠プロが仕事として開発する」ためのプログラミングは、やはり実際の仕事の中でないと身につかない部分があると思います。畑氏は学生時代にもプログラミング経験があったそうですが「入社後の研修で初めてエラー処理とはどういうものか学んだ」と言います。

サイボウズ・ラボ 代表取締役社長
畑 慎也氏。言語はJavaScript、PHP、
Python、Java、C++、C#、
Objective-Cと多数。エディタは
MS Visual Studioと最近は
Sublime Text。
サイボウズ・ラボ 代表取締役社長 畑 慎也氏。言語はJavaScript、PHP、Python、Java、C++、C#、Objective-Cと多数。エディタはMS Visual Studioと最近はSublime Text。

仕事への心構えについては、⁠仕事を好きになるのが一番、自分が今作っているものを好きになれるかを意識する」⁠畑氏⁠⁠、⁠世界をどう変えるか』といった大義を考えて仕事に向きあう」⁠和田氏⁠⁠、⁠1つ仕事をやるごとに小さくても何か新しいことを入れていく」⁠藤川氏)と、いずれも視野を広くもつことを勧めました。

文系の学生さんからの「エンジニア志望だがコードを書いたことがない、何をアピールすべきか?」という質問には、⁠今できることをやった方が良い。少しでもコード書くことを学び、実際に書いてみること」⁠畑氏⁠⁠、⁠今日から始めてください。⁠○○言語を学びました』という理系学生より『こんなサービス作りました』という文系学生が採用される」⁠和田氏⁠⁠、⁠コードが書けないのは⁠学ぼうとする⁠から。必要なのは⁠こんなものを作りたい⁠という情熱」⁠藤川氏)とアドバイス。今は良質な参考書もあり、ネットには情報はもちろん本格的なサービスを動かす基盤も揃っています。あとはやる気だけ。ある意味幸せな時代ですよね。

藤川 真一(えふしん)氏。
好きな言語はJava(使ってないが⁠⁠。
使っているのはRuby on Rails(好み
と関係ない⁠⁠。エディタはEclipse。
藤川 真一(えふしん)氏。好きな言語はJava(使ってないが)。使っているのはRuby on Rails(好みと関係ない)。エディタはEclipse。

あえて就職せずフリーランスでやっていけるか? という問いには、⁠起業するならともかく、一人だとアウトプットが限られる。学生時代からアプリを作って商売しているような人ならアリ」⁠藤川氏⁠⁠、⁠まず企業に入り⁠仕事が回るしくみ⁠を学んだ方がいい」⁠畑氏⁠⁠、⁠私なら未経験の人には仕事を頼まない。社会的信用を得るのも難しい」⁠和田氏)と、やはり未経験で仕事を得る難しさを指摘する声があがりました。

最後に、プログラミング言語以外にエンジニアとして必要な知識は何かという質問には、⁠むしろ言語が知識の一部と思った方が良い、JenkinsなどのCIツールやテストツールの知識などは重要」⁠畑氏⁠⁠、⁠インフラをやってた経験からストレージやファイルシステムの知識」⁠和田氏⁠⁠、⁠今ならクラウドAPIの組み合わせや情報設計(IA)の知識、そして⁠人の心をいかにうまく使う⁠か」⁠藤川氏)とそれぞれ深いお答えが返ってきました。この日のセッションで「プログラミングさえできればエンジニア」という単純なものではないことを、参加者の皆さんも実感したのではないでしょうか?


次回の「エンジニアの未来サミット for students 2012」は年明け1月19日に再びサイボウズ東京本社にて開催されます。講演者はRubyの生みの親、まつもとゆきひろ氏。エンジニア志望の方でなくとも見逃せない講演になることでしょう。

エンジニアの未来サミット for students 2012 br> http://developer.cybozu.co.jp/tech/?page_id=686

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