FITC Tokyo 2013にみる未来のデバイス、オープン/シェアリングそしてインタラクティブ(中編)

2000年よりスタートし、全世界で展開されているデザインとテクノロジーのカンファレンスFITC(Future. Innovation. Technology. Creativity.⁠⁠。2013年1月26日、27日に開催されたFITC Tokyo 2013において、私がより強く受け取ったメッセージは次の3つです。

  1. 未来のデバイスは「触感」が大事。インタラクティブ≒タンジブル
  2. デザイナーもエンジニアもクリエイティブな人間は「オープン」たれ!
  3. インタラクティブの発展

2回目の今回は、クリエイティブな人間のオープンな考え方にフォーカスします。

デザイナーもエンジニアもクリエイティブな人間は「オープン」たれ!

エンジニアの世界では2000年中盤から、最近ではGitHubなどを利用して、ソースコードの共有がオープンにされるようになっていました。デザイン、クリエイティブの世界ではあまり「オープン」に自分のアイディアや利用ツール、コードが共有されていないと思っていたのですが、今回のイベントを通して一般的になってきていると感じました(もちろん、過去のFITCスピーカーであるErik Natzki氏やMarco氏などもセッション終了後に自分のコードを展開していました⁠⁠。そして今ではソースだけではなくツール自身も無償のオープンソースのツールを使い、その上で動くソフトウェアもオープンソースで提供するのがスタンダードになりつつあります。

人にアイディアを盗まれるのが怖い? だから作品はアイディアをオープンにしない? …そんな作品はとっとと手放してしまえ!

FITC主催のShawn Pucknell氏に今回イチオシのスピーカーは誰?と聞いたところ、一番にあげたのがKyle McDonald氏でした。彼はオープンソースのアートエンジニアリング活動に積極的に参加しています。今回の発表も彼の「クリエイティブ・シェアリング」活動について事例をあげながら紹介しました。

Kyle McDonald氏
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Kyle氏がアート活動に利用するツールopenFrameworksもオープンソースのツールキットです。自作の3DスキャニングソフトウェアもGitHubで公開しています。しかも「きちんと利用してもらいたいから」という想いも込めてチュートリアルも同梱しています。

アーティストは作品を作るだけではなく、コミュニティの活用やディスカッションなどを通し、人々と共有することが作品の価値が高まっていくと信じています。その信念はニューヨークでの教員活動であったり、2011年秋からの山口情報芸術センター(YCAM)での滞在研究プログラムにおける客員研究員活動を通して、多くのファンと仲間を作っていることです。とても21世紀的アーティストです。

また、広告案件を手がける際も、自分の作品をオープンソースにすることを条件にしていると言います。

Kyle MacDonald氏はGitHubを利用してソースコードを共有し、多くのアーティストが利用しやすい環境を整えている
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さて、彼はなぜオープン/シェアリングをアート活動の軸に据えているのでしょうか。

それは先ほども触れたとおり、オープンにすると作品が人の目に触れる機会が増え、新しい出会い、発展の機会が増える(Openness brings opportunities⁠⁠、共有すれば反応がその分多くなるので自分自身の軸がぶれなくなる(Openness brings reflection⁠⁠、オープンなモノ程生き延びる(Openness works survives)とし、それによりクオリティが高まり、未来に繋がる作品ができあがると信じているからです。

私が衝撃を受けたのは「stop working on things that can be stolen / 人に盗まれるようなものだったらそんな作品を止めてしまえ!」というスライドが紹介された時です。オープンにするとアイディアが盗まれる、誰か他の人が自分の作品を模倣してしまうのではないか?という恐怖心は自然なモノかと考えていたのですが、Kyle氏の考えは違います。

「人に盗まれるようなものだったらそんな作品を止めてしまえ!」

例えばビートルズが新作を作ると宣言したときに誰も盗もうとしない。自分に自信がないから盗まれると考え、オープンになることを避けてしまう。その負のスパイラルに陥る前に自分にしかできないことにフォーカスをし、オープンをし続けよう!とイベントの参加者に訴えかけました。

Twitterでの表明
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また、例えばTwitterの活用も良いかもしれない、という自らの事例も含めて話は続きます。

Kyle氏は何かを思いついた際にTwitterで意見を聞いてみるそうです。ここで大切なのは、1度ツイートしてしまうと、それは自分の作品ではなくなるため嫉妬心や競争心も消えることだと言います。それ以上に、Twitterで宣言した以上すぐに手がけなきゃ!という良いプレッシャーに変わるそうです。1ツイートから始まりデザインに1ヶ月、構築に1週間というプロジェクトの動かし方をしていると述べていました。

彼は最後に、来場者である日本のクリエイターに向けて「恥ずかしがり屋(Shy/シャイ)ではどこにもいけないよ!」とやんわりと警告もしてくれました。

シャイな人間とはモジモジしている引きこもりだけではなく、責任を果たしてないとビシッと言います。⁠Shyness is selfishness. You don't know who needs your help. / 恥ずかしがり屋=シャイって言い訳は結局自己チュー的な考え方なんだよね。世界中で君の助けを必要しているヒト達が見えてないのさ(意訳⁠⁠」

そして、⁠自分の作品で世界の人々のクリエイティビティ、もしくは新しいサービス(そのサービスには教育やヘルスケアも含まれるかもしれない)の発展が助けられるかもしれない。そのような意識でオープン/シェアリングを心がけよう」とKyle氏は語りかけました。その結果、自分の作品にどっぷり向き合い、さらに良い作品ができると結びました。

今回のFITC TOKYO 2013には日本代表のクリエイティブカンパニー、そしてクリエイターも登壇しています。DELTRO INC.真鍋大度氏、PARTYから中村洋基氏と清水幹太氏。彼らのセッションの中にもオープン/シェアリングする大切さが語られていました。

ここでは2つの作品を通して、この大切さを紹介します。

Perfume "Global Site Project" ファンとクリエイターを結ぶオープンソース/シェアリング プロジェクト

2013年第16回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門大賞を受賞した真鍋大度氏のPerfume⁠Global Site Project⁠は、人気グループPerfumeの世界進出プロモーションのために、Perfumeの3人の新曲ダンスのモーションキャプチャーデータをオープンソースとしてプロジェクトサイトGitHubに公開することで世界中のファン、クリエイターがオリジナルのPerfume新曲プロモーションに参加できるような仕掛けです。

Perfumeの3名のダンスの振付けをトラッキングできるコードをGitHubとWebサイトに公開
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この活動の肝はアーティストのプロモーションにファンやクリエイターも参加できるような仕掛けを真鍋大度氏がオープンソースプロジェクトで実施したことにあります。いままではアーティストの振付け/ダンスはアーティストに帰属し、ファンは受動的にアーティストからの情報を受けるだけ、クリエイターも特に関与できるキッカケがありませんでした。それが、今回のGlobal Site Projectによりファンとクリエイターは自分たちの得意分野を活かしてPerfumeの世界進出を応援することができるようになったのです。

私が所属するバスキュールのFlash/ActionScriptエンジニアの渡邊敬之も当プロジェクトに参加したクリエイターのひとりなのですが、ActionScript版を利用し、インタラクティブに動かせる作品を作って応援しています(マウス操作でモーションキャプチャにインタラクティブに参加できるので、ぜひ遊んでみてください⁠⁠。

このような一人一人のクリエイターのチカラがPerfumeの世界進出を支え、また、クリエイターの新たな制作意欲を掻き立てていることを知り、真鍋大度氏のオープン/シェアリング活動のクリエイティブ業界への必要性を改めて感じました。

町中が幸せになるオープン/シェアリング

PARTYの清水幹太氏が「セッション前の午前中に作った」サービスは、クリエイターだけではなく、町中の人々が幸せになるサービスです。

世田谷にある清水家の家の前にはバス停があるのですが、バス停でバスを待つ方々向けに自宅の家庭内WiFiをオープンにして自由に接続できるようにしているそうです。ポイントはただ接続できるだけではなく、WifiのSSIDに手を加えて、その名前を次のバスが来る時刻にしている点だと言います。これにより、清水家の家前バス停で待機する方々はスマートフォンを楽しみながら、バスに乗り遅れないという一石二鳥のサービスを享受できると紹介しました。

もちろん、バス停にいるため、バスを乗り過ごすってことはまずないんですけどね(笑⁠⁠。でもこの心遣いがとても素敵です。

清水家のWiFiは時刻表連動なので「次のバスは11:08に来ます」という時刻表機能まで利用できる!
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ここまで見てきたように、オープン/シェアリングにより、作品がより洗練されるとともに、多くの人々を巻込んで一つの作品からコミュニケーションが広がっていきます。今回のFITC tokyo 2013ではオープン/シェアリングの必要性および可能性を実感できるカンファレンスとなりました。

次回最終回は「インタラクティブの発展」をテーマにしてイベントを振り返ってみます。お楽しみに!

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