FITC Tokyo 2013にみる未来のデバイス、オープン/シェアリングそしてインタラクティブ(後編)

2000年よりスタートし、全世界で展開されているデザインとテクノロジーのカンファレンスFITC(Future. Innovation. Technology. Creativity.⁠⁠。2013年1月26日、27日に開催されたFITC Tokyo 2013において、私がより強く受け取ったメッセージは次の3つです。

  1. 未来のデバイスは「触感」が大事。インタラクティブ≒タンジブル
  2. デザイナーもエンジニアもクリエイティブな人間は「オープン」たれ!
  3. インタラクティブの発展

最終回である今回は「インタラクティブの発展」をテーマにレポートします。

ヘルスケアを凌駕するインタラクティブアート:アートは人類の未来のための研究開発機関たれ!

2日間のセッションを終え、来場者の人々にどのセッションがすばらしかったか?を聞いてみると、圧倒的に最終セッションのZachary Lieberman氏をあげる方が多かったです。開催から2週間経ったいま(2月11日執筆現在)私の中でも思い出しても胸が熱くなるのは彼のセッションでした。

Zachary Lieberman氏
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日本はもちろん世界のアーティストにも⁠ザック⁠と愛されるZachary氏。写真はFITC tokyo 2013初日のKyle McDonald氏が作った3Dスキャンソフトで加工した⁠ザック⁠の写真。後光が射している◎
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Zachary氏は世界中のアーティストに利用されているオープンソースのクリエイティブコーディング用のC++ライブラリーopenFrameworksの共同設立者として有名です。もともとファインアート出身の彼が何故openFrameworksを開発し世界中のアーティスト活動を支援しようと考え始めたのでしょうか。

彼はヴァン・ゴッホをアーティストの象徴とする「ART = solitary genius, misunderstood working alone in attic. / アート、芸術とは孤独な天才が屋根裏で生み出すもの。作品は死後にしか理解されない」などの⁠古いイメージ⁠を払拭したい!というモチベーションから「art is laboratory, R&D for future. / アートはラボ、実験の場で、人類の未来のためのR&D研究開発機関たれ」と考え、オープンソースのツールを開発したり、アート活動で世界中を巻込むムーブメントを起こしています。

人類のためのR&D活動をするのがアーティスト

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いままでも彼の作品や活動に感化されていた私ですが、今回は「アートは人類の未来のための研究開発機関たれ!」を象徴する事例が紹介され、とても感動しました。

特に興味深かったのは、アートが医療を越えて体に不自由な方を支えている事例です。

アメリカのグラフィティアーティスト

Tempt One氏はストリートをアートにする活動で1980年代から有名ですが、彼は2003年にALS(筋萎縮性側索硬化症)を患い、寝たきりの生活を余儀なくされています。

Zachary氏はテクノロジーとデバイスの進化をもちいて、Tempt One氏に再度グラフィティアートを制作してもらおうと、EyeWriterというデバイスとソフトウェアを作成しました。

EyeWriterは眼球の情報をトラックするので、寝たきりの方でも目を動かすだけで作品が作れる
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このEyewriterは眼球の動きをトラックすることで目の動き通りに描画できるため、寝たきりの人や筋肉が動かなくなった人でも文字やイラストが描けます。今回はグラフィティアーティスト用なので、眼球トラックした情報はTempt One氏が以前描画していたグラフィティテキストGraffiti Market Language(GML)を再現できるようにしています。

Tempt One氏が以前制作していたグラフィティを、眼球の動きをトラックすることにより再現できる
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入院中のベッドの中でもアーティストとしてグラフィティ作品を作れる
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Zachary氏は、病院のベッドで横になりつつEyeWriterでグラフィティアートを制作するTempt One氏の作品をプロジェクターでストリートやビルに投影し、Tempt One氏のストリートグラフィティアーティスト活動の再開を支援しています。

私は寝たきりのアーティストにとってこれ以上の治療法は無いと考えます。手や筋肉が動かせないのであれば、唯一動かせる眼球の動きをトラックするソフトウェアとデバイスを開発してしまえばいい!というZachary氏のアート活動は、まさに「アートは人類の未来のための研究開発機関たれ!」を体現しています。

ソフトウェアやデバイスの進化、コード、API、SDKのオープン化、無償提供など我々の身の回りには人類、未来のための研究活動に役立つ素材がたくさん用意されています。自分の作っている作品や仕事に納得できない、何かもっと人々の役に立つことをしたいと言う同業仲間からの声を聞くこともありますが、視座を変えるだけでZachary氏のように誰かの人生に夢と希望を与えるような作品が作れるかもしれません。

ワクワクしながら身の回りの新しいテクノロジーとデバイスを改めて見直すことで、⁠インタラクティブ」の可能性が、与えられたり、現在普及しているデバイスの外にあるかもしれないと考えさせられるセッションでした。


多分日本人の中ではトップ5に入るFITC参加率を誇ると自負する私にとって今回のFITCは今まで以上に「未来」を感じるセッションが多かったです。未来のデバイス、未来のインタラクション、未来に活躍するクリエイターが持つべきマインドなどを学べる2日間でした。

一歩先の未来を考えて行動しないと、グローバルトレンドから置いていかれちゃう焦燥感も同時に感じました。感度高く世界中のアーティスト動向、デバイス需要を見ていきたいです。

そして主催のShawn Pucknell氏やスピーカーの大半がクチをそろえて伝えていた「コミュニケーションを取ること、気持ちや考えのシェアリングが重要」ということを、これからも心がけて次の未来を迎えたいと思います。

Future. Innovation. Technology. Creativity, FITC!!

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