INBOUND MKTG 2013 TOKYOレポート(その2)~見込み客育成、人を惹きつけるクリエイティビティの価値

前回に引き続き、INBOUND MKTG 2013 TOKYOの模様をお届けします。今回は、パネルディスカッション2、3です。

パネルディスカッション2:Lead Nurturing Strategy and Tactics『見込客育成のためのクリエイティブ、その手法と課題』

2つ目のパネルディスカッションは、Lead Nurturing Strategy and Tactics『見込客育成のためのクリエイティブ、その手法と課題』と題して、シナジーマーケティング株式会社谷井等氏、株式会社ニューズ・ツー・ユー四家正紀氏、Responsys,Inc.日本地区セールスマネージャー鈴木望氏、株式会社ネクスウェイ上田代里子氏の4名が登壇し、モデレートは引き続き高広氏が務めました。

リードナーチャリング実践におけるeメールマーケティングの進化

まず、高広氏から1999年セス・ゴーディンの著作『パーミッション・マーケティング』が紹介され、日本語では土足マーケティングと訳された、インタラプションマーケティングからパーミション(許可)マーケティングに移っていくというセス氏の主張が、オプトインメールという形で現れたと解説されました。

四家氏は自身のキャリアを通して日本のメールマーケティングの歴史を語りました。メール内広告の台頭、オプトインメール、2002年頃には迷惑メール問題の勃発し企業が出すメールのあり方が問われ、メールマーケティング業界が少し下降し、そこから、2004年頃に同氏はリードナーチャリングという言葉がまだなかった時代に、メールだけでなくブログを活用して、もっとゆるく大きなファン層を作ろうと訴えていました。同氏は、インターネット黎明期から今に至るまでメールは最強の営業ツールだと言います。

高広氏はリーマンショック以降、IBM社が買収したUnica社をはじめ、USでメールマーケティングが盛り上がってきているということを指摘し、鈴木氏は2つの流れがあると解説しました。

1つは、Unica社のようにもともとメールマーケティング専業ではなく、ダイレクトマーケティングのキャンペーンマネージメントをやっていた会社がデジタル、メールマーケティングに寄ってきたという流れ。もう1つは、メール専業でもともとやっていた企業、たとえば鈴木氏が所属するResponsys社のほか、ExactTarget社、Experian社などがとくに伸びてきているという流れです。

この背景にあるのは、アウトバウンドマーケティングに使える予算が減り、自社で使えるオプトインをとった既存顧客や見込顧客へのプッシュ系のツールとしてのeメールが見直されてきたことと、アクセス解析との連動などマーケターにとって使えるデータが取得できるようになったことがあり、それらが大きく影響しています。

リードナーチャリングを実践する上で見るべきデータとは

谷井氏は、顧客を立体的に見るには、メールアドレスを中心としたデモグラフィックデータとそのレスポンスデータ、アクセスログ、購買データを見て初めてわかるもの、と主張します。最近のテクノロジーで取得可能となり、おもしろくなってきたデータとは?という、高広氏の問いかけに対して、同氏は、居酒屋のPOSデータを例にとり、IDとの紐付けと話しました。POSデータだけだと卵焼きが1日に30個売れていることがわかっても、新規顧客と既存顧客の割合はわかりません。それが、IDと紐づくことにより新規顧客なのか既存顧客なのかがわかり、売上がどのようになされているかを仮説立てられることと答えました。

B2Bでは、一度来てくれた方の継続閲覧率、継続閲覧量を見ることが重要でこれはテクノロジーでの進化によって初めて実現できるようになってきたとのこと。ただし、B2Bではデータの母数が少ないので、テレコールをした際のリアルな声や訪問時の態度、立てたシナリオが合っていたかどうかといったことと組みわせるとことが大事だと上田氏語る。

シナリオを立てる上では、ペルソナを検討するようにしていると言います。そのペルソナに対して複数のシナリオを立てていくことがベストではありますが、費用対効果は悪くなり現実的ではありません。複数のシナリオを立てるより、顧客データからしっかりペルソナのイメージを明確化させてシナリオを立てていくことがB2Bだと重要だと考えていると語りました。

パネルディスカッション2の様子
パネルディスカッション2の様子

顧客との関係性を作る上でのコンテンツの考え方とは

上記質問に対して、各登壇者から以下の回答が挙がりました。

上田氏:振り向いてほしい人は誰なのかを知りに行くことが重要で、発信する側の価値に振り向いてもらうようなコンテンツ設計が大事。B2Bでは払拭したいなにかがあってそれを払拭できるコンテンツを作り続けること。

谷井氏:魅力あるコンテンツを提供する上で、顧客、見込み客を見定めることが大事。これはデモグラフィック、レスポンスデータ、アクセスログ、購買データをつぶさに見ていくことでペルソナ的な価値観や興味関心といった属性が見えてくる。こういった属性、意識といったところに沿ってコンテンツを作り、コミュニケーションを取っていくこと。

鈴木氏:リードナーチャリングは一度バーミッションをとったあとのコミュニケーションが基本であるため、新しいコンテンツをどんどん作るのではなく既存の資産を活かすのが重要。たとえば、メーカWebサイトなどでは、普段あまり見られないようなアフターサポートであったり、お客さまと会ったあとのイメージをしやすくするコンテンツを出すようなことは有効。また、メルマガなどでは、パーミッションをとったすぐあと、1週間後などに出す内容は、企業側の都合ではなく、ユーザのタイミングにあったコンテンツがあるのであればそれを活用するシナリオをつくることが大切。

見てもらうためにはオンデマンドとコミュニケーションシナリオ

メールはプッシュ型のツールであるが、ユーザの望むタイミングに沿って届くのであれば、それはオンデマンドであると高広氏は語ります。これが実現できれば、メールの総配信総数は減るはずと高広氏は言いました。

上田氏は小学生にたとえ、1度クラスを受けてくれた子供はその反応に応じてその学習スピードに応じて教材を変えるなどの工夫はできますが、校門をくぐってもくれない子供に対しては、呼びかけ方を変えるべきか、家庭訪問を行うべきか、あるいは学校ではない別のところへ行かせるべきかなどアプローチを変えなければならないということです。

メールマーケティングでもワンクリックでもしてみようと思わせることが大事。ただし、小学生の例のようにアプローチ方法があっていなければならず、顧客の反応を見ながら受け取りたいメディア、ツールで提供するようにしなければならないのです。

メールと親和性が高いツールとは

メールと親和性が高いツールとはという高広氏の問いかけに対して、鈴木氏からはディスプレイという回答が出ました。理由はメールは1日に何通も送れないという制約があり、タッチポイント数ということを考えたときにディスプレイは親和性が高いというわけです。

上田氏は、B2Bのシナリオ設計ではテレマーケティングが重要になるとのこと。アウトバウンドという意味合いではなく、ちょっといいなと思ってくれたお客さまを次の心理状態に持っていくためには、人が対応するシナリオというのが効果的だと説明しました。これについて、海外ではメールとコールセンターの連携ツールが増えてきていると高広氏は補足しました。

谷井氏は「一番オーソドックスには静的に整理して情報を出すこと」とし、コントローラブルなものとしてWebサイトを取り上げました。

四家氏からは、メールは最強だが見ない人というのも必ずいるので、そこに対して、近い効果を狙っていくという意味ではFacebookであったり、LINEなどをメール的な発想で使うというのはあると思うという意見が出ました。同氏はメールを見逃したなんていうことはいくらでも起こりうるし、顧客がどこを通ってくるかはこちらにはわからないからこそ、通ってくれそうな可能性があるところには情報を置いておくべきだというアクティブウェイティングの考え方を補足しました。

パネルディスカッション3:Thinking Lovable Content and Marketing 『人を惹きつけ、愛されるためのマーケティングとは?そのためにマーケターが身につけるべきクリエイティビティとは?』

3つ目のパネルディスカッションの冒頭、高広氏はマーケティング活動とは人に愛される活動として考えて行かなければならないという述べ、インバウンドマーケティングの直接の実践者じゃなくとも、どうやって読者に好かれるようなコンテンツを作るのか、どうやってサポートをしていくのかといったような観点で活躍する、交わりのないゲストをパネリストに迎えたディスカッションが始まりました。パネリストは、good design company水野学氏、株式会社インフォバーン増田隆幸氏、コミュニケーション・デザイナー河野武氏の3名です。

パネルディスカッション3の様子
パネルディスカッション3の様子

消費者は普通のものを見たい。顧客が見たいものを見たいタイミングで丁寧に見せる

水野氏は徹底的にシズルにこだわっていると言います。化粧品なら化粧品のシズル、カメラならカメラのシズル。つい、広告会社やメーカの人は毎日同じものについて考えていて飽きてしまうがゆえに、反動としておもしろいものを作りたくなってしまいます。しかし、実は消費者は普通のものを見たい、そこにギャップがあるというのです。顧客が見たいものを見たいタイミングで見せるためにシズルにこだわっていると語りました。

機能デザインと装飾デザインの2つがあり、機能デザインは当然満たせるべきもの。たとえば腕時計というものの基本機能は100年前からほぼ変わらないが装飾性を求めて今も買い求めてられています。一方、装飾デザインとは、たとえばスパゲッティを食べるときの気分はどんな気分だろう、どんな皿で食べたいだろう、どんな背景だったら食べたいだろうといったような細かなことを丁寧に考えることを意味します。

インバウンドマーケティングと同じなのは精度であると同氏は説明しました。つまり、どれだけ丁寧にものをアウトプットできるか、あなたのものですよといってあげることができるのかという精度の時代に入ってきているとのこと。

差別化を推し進めた結果市場のドーナツ化が起こっている

ここ10年で従来の広告、マーケティングと今のクリエイティブで最も大きな変化とはという高広氏の投げかけに対して、水野氏は市場のドーナツ化を挙げました。市場のドーナツ化とは、差別化、差別化といってドーナッツのまわりの部分ばかり出てきて、実は消費者はドーナツの穴の部分を食べたいのではないのか。こういった状況が80年代から2000年代まで加速してしまったのです。真ん中を訴求している会社としてはファーストリテイリング社、無印商品などがあり、そういった会社が伸びていると語り、そういったところを修正する作業を丁寧にやっていると持論とともに紹介しました。

企業側が身に付けるべきクリエイティビティ、リテラシーとは

マーケッターはデータドリブンだけでなく幅広い知識を

水野氏はデザインがユーザのために最適化されているかを企業側が見極めることは大切なこととし、センスは知識で学ぶことができるものと言い切っています。ネットのマーケティングはデータドリブンが中心になっている一方で、必要なリテラシーはそれ以外にも増えてきており、デザインはその1つと高広氏は続けました。

本セッションタイトルである「人を惹きつけ、愛されるためのマーケティングとは?そのためにマーケターが身につけるべきクリエイティビティとは?」に通ずるもので、マーケッターは得意分野を増やしていくことが大切と語りました。

読者側のリテラシーが上がってきている中で、企業側がどのようなリテラシーを身につけなければならないか

企業側はサービス、製品のプロではありますが、情報提供というところではどういうスタンスを取るべきなのかはこれからの課題だと思っていると増田氏は語ります。この課題に対して増田氏の取り組みとして、下から目線を実践しているそうです。どういうことかというと、ものによっては読者のほうが詳しいという状況がある中で、客観的というのではなく、私はこう思います、という視点を出していくこと。つまり、提供側が、読者とコミュニティの一員として、自分たちの意見を出しながら、さらけ出していく覚悟を持ているかどうかが大事だと語りました。

アクティブサポートにおいてはある程度のルールと塩梅、そして精度

困っている人がいて、企業がその対応をするときに公的、客観的に話しかけるのが良いのか、人として、主観的な形で人の付き合い方をすればいいのか、という問いが高広氏から河野氏に投げかけられました。これに対して、河野氏は、すべての人に同じルールではないが、すくなくとも一番最初に話しかけるときには、あまり馴れ馴れしくなりすぎないように、かといってよそよそしすぎてもいけない、そのバランスが大切と答えました。

アクティブサポートの研修時には、まず、話しかけるべきかの判断をするトレーニングをします。この人は話しかけることを望んでいるのか、話しかけられて不快ではないのかを判断する力が重要で、その判断材料に過去のTweetなどを見てどれだけフランクに話しかけていいかの塩梅を決めていると答えました。

ただし、ある程度の型を作らないと現場が困るので最低限のルールは作っているとのこと。たとえば、顔文字。河野氏は音符マークと星記号は使ってよく、その他は企業の代表者が使うには不適切とした事例について語りました。その細かさは、☆はOKで★はNGであるというレベルにまで及びます。こういった印象差まで設計することが大切なことだと同氏は考えています。水野氏はこの違いについて、先に同氏が述べた精度の時代はまさにここにあり、こういったところは声にはならないが人は必ず認識していて、人が人の顔を記憶する能力として、同じ顔なのに1万人ぐらいは認識できる、この能力をばかにしていませんか?という例をよく話すそうです。こういった精度にこだわることはとても大切なことだと続けました。

好かれるコンテンツ、クリエイティビティを実現するうえでどういう考え方、姿勢が重要か

上記質問に対して、各登壇者から以下の回答が挙がりました。

水野氏:消費者を仲間に入れること。水野氏が関わった、NECカシオモバイルコミュニケーションズ社のメディアス知名度UPを目的としたキャンペーンを例にとり、お笑い芸人に消費者が一緒になってどっきりをしかけるという仕掛けを行いました。この仕掛けは自分たちが使われているのではなく、自分たちが参加しているということを意図したものでこういった消費者を仲間に入れることが大事なのです。これはコンテンツの内容ではなく、コンテンツの機能を考えるということと語りました。

水野氏が関わったキャンペーン
水野氏が関わったキャンペーン

増田氏:水野氏と同じく、共犯関係、巻き込むということが大事とのこと。これは本セミナーでいわれているAuthentic(嘘をつかない)ということであり、すなわち本音トークです。自社の例では、読者モデルの本音トークは中身が面白いというだけでなく、読者からのツッコミを受ける。これは少し隙を作るということで、弱みを見せていることでもあるわけです。企業側が発信したい情報と読者が知りたい情報とのギャップは、同じくクライアントも巻き込む努力をしています。ただ、納得の面でも一度作ってみて、担当者とすり合わせていくこともしているそうです。

河野氏:巻き込む、隙を見せる、プロセスを見せるというのは1つの切り口としては良いと思います。同氏が取り組んでいる事例として北欧雑貨のECを行うクラシコムを紹介しました。同社はコンテンツマーケティングに取り組んでおり、ブログ執筆、小冊子を発行しています。

クラシコム
クラシコム

同社のブログ運営では自分が書きたいことではなく、みんなが読みたいものでもなく、⁠自分が読みたいこと」を書くという軸で考えていると言います。コンテンツを作ろうという中で、この「自分が読みたいこと」を書くということでうまくいくのではないかと語りました。

クラシコムでは、業務の一環としてブログを書いているため、みんなが読みたいものを追いかけ続けるとものすごく大変で続かなくなってしまうそう。しくみとして継続可能であることが業務として実施するうえでは大切なこととも語りました。

以上、INBOUND MKTG 2013 TOKYOのイベントレポートをお届けしました。イベントレポート冒頭で書かせていただいたとおり、インバウンドマーケティングを考える上で、答えを聞くカンファレンスではなく、考えるカンファレンスであるため、なるべく端折らずレポートさせてもらいました。次回は最後に少し私が今、インバウンドマーケティングに思うことを書かせていただこうと思います。

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