ターゲットは国内製造業のビッグデータ!? Treasure Dataがトレジャーデータとなって日本市場で本格展開

5月20日、米Treasure Dataの芳川裕誠CEOが来日会見を行い、同社のクラウド型ビッグデータプラットフォーム「Treasure Data Platform」のグローバルおよび日本市場における事業戦略を発表しました。

会見には日本法人トレジャーデータ株式会社の実質的責任者であるジェネラルマネージャの堀内健后氏も同席し、日本でのビジネスを本格的に開始する旨を明らかにしています。米国で順調にビジネスを展開しているTreasure Dataが"トレジャーデータ"として日本企業に対しどんなサービスを提供しようとしているのか、その動向にさまざまな方面から注目が集まっています。

gihyo.jpの読者であればご存知の方も多いでしょうが、Treasure Dataは2011年12月に、芳川CEOとCTOの太田一樹氏、そしてソフトウェアアーキテクトの古橋貞之氏の3名がファウンダーとなってシリコンバレーに設立されたベンチャーです。太田氏も古橋氏も若いながらオープンソース開発の世界では非常によく知られた開発者であり、彼らが新しいビジネスをシリコンバレーで始めるということに多くの人々が期待と関心を寄せました。商用サービスの正式ローンチは2012年9月でしたが、それ以前から目の肥えたシリコンバレーの投資家たちから注目されてきており、ベンチャーキャピタリストとして著名なビル・タイ氏やYahoo!創業者のジェリー・ヤン氏、Ruby生みの親のまつもとゆきひろ氏などそうそうたる顔ぶれが同社の投資家として並んでいます。

参考記事
あのジェリー・ヤンも出資! 話題のベンチャーTreasure Dataがめざすのは"ビッグデータをシンプルに"
発表の冒頭、Treasure Dataの概要を紹介する芳川裕誠CEO(右⁠⁠、左は日本法人のジェネラルマネージャ 堀内健后氏
発表の冒頭、Treasure Dataの概要を紹介する芳川裕誠CEO(右)、左は日本法人のジェネラルマネージャ 堀内健后氏

日本法人のトレジャーデータは2012年11月に設立されています。代表取締役社長は芳川CEOが兼任していますが、日本での事業を本格的に展開するため、2月に堀内氏が入社したと芳川氏は説明しています。

「商用サービスをローンチして以来、日本のお客様からの引き合いが非常に増えてきた。また、米国でビジネスをしていると日本の技術者が本当に優秀であると実感させられる。日本法人をビジネスの拠点として活用するだけでなく、開発の拠点としても活用し、日米で一体となって企業のビッグデータ基盤を支えたい」と芳川CEOはコメントしました。現在、米国には11名、日本オフィスには堀内氏を含めて6名のスタッフがいますが、開発者を中心に今後も積極的に採用を図っていきたいとしています。

"ビッグデータ・アズ・ア・サービス"

Treasure Dataの顧客数は現在約70社、有名なところではクックパッドや博報堂、Salesforce.comなどが挙げられます。日本企業は約30社ほどで、今後も大きく伸びると見られています。数あるビッグデータベンチャーの中で、なぜTreasure Dataのサービスがこれほど注目されているのでしょうか。

Treasure Dataが提供するのはクラウド(AWS)上でのビッグデータの収集とレポーティングサービス、つまり"Bigdata-as-a-Service"です。堀内氏はTreasure Dataのサービスについて「企業のオンプレミス環境にあるデータをクラウド上にインポートするサービスを2つ用意している。ひとつはログコレクタのtd-agent、もうひとつはBulk Importer。これらから集めたデータを、自社開発のカラム指向データベース"Plazma"にストアし、HiveやJDBCインタフェースを通じて可視化、レポーティングを提供し、企業の分析に役立ててもらう」と説明しています。

ここで企業が得られるのは圧倒的なスピードです。⁠数時間かかっていたバッチ処理が数分で終了」⁠1日1回だったレポーティングが1日に何度でも」といった劇的な効果により、経営サイクルの大幅な短縮につなげることができるのです。クラウドベースなので、従来のオンプレミス型のデータウェアハウスに比較して、数十分の一から数百分の一にもコストを削減できる効果も見逃せないでしょう。

「ビッグデータ管理の運用コストを劇的
に下げることができる」と語る堀内氏
「ビッグデータ管理の運用コストを劇的に下げることができる」と語る堀内氏

Treasure Dataの導入企業としてよく名前が挙がるクックパッドは、自社で行っていたHadoop運用をやめてTreasure Data Platformに移行したことで「検索結果のデータベース蓄積など、運用にかかっていた工数を大幅に減らすことができ、エンジニアが本来集中すべきサービス開発に専念できるようになった」⁠堀内氏)という効果を得ています。スピード、コストというわかりやすい指標だけでなく、導入企業が本来やるべき業務に専念できる環境を提供できる、これがTreasure Dataの最大の魅力といえます。

もうひとつ、Treasure Dataの特徴はログの収集とレポーティングサービスの提供のみにこだわっている点です。芳川CEOも「導入企業が行っている解析にまでは踏み込まない。Treasure Dataが提供するのはあくまでデータの収集とレポーティングのみ」と明言しています。ビッグデータ界隈ではアナリティクスがブームになりつつあるある昨今ですが、Treasure Dataは「企業が直面している問題はクラウドへのデータ移行であり、移行したデータの処理である」と捉えており、その分野にコアコンピタンスを集中するという同社の方針が見えてきます。

日本の製造業は“ビッグデータの宝庫”

米国で順調にビジネスを展開するTreasure Dataが、わざわざトレジャーデータとして日本市場に注力する意思を表明したのはなぜなのか、その理由は芳川CEOや堀内氏が会見中、ところどころで使った「製造業」という言葉に隠れているように思えます。

「米国にいると日本企業の製品のすごさ
にあらためて気づく」という芳川氏
「米国にいると日本企業の製品のすごさにあらためて気づく」という芳川氏

Treasure Dataの顧客は現在、ソーシャルゲームやアドテク、Webマーケティングといったネット企業が中心です。いずれもネット上で膨大なデータを扱う企業であり、Treasure Data Platformとの親和性も高く、今後もこうした企業が同社の重要な顧客であることには変わりありません。

しかし一方で、Treasure Dataがただのビッグデータベンチャーという殻をやぶり、IPOが期待される規模の企業へと成長していくためには、製造業に代表されるオンプレミス中心のクラシックな企業における事例を増やしていく必要があります。ベンチャーがネット企業だけを相手にビジネスを回しているというイメージは、会社を大きくしていくためにはマイナス要因になりかねません。正式ローンチして1年経っていない今だからこそ、エンタープライズにも参入する意思を明確にしておく必要があるのです。

日本にはレガシーを数多く抱えた、クラウドに移行することすら困難な企業がまだまだ多く、その代表が製造業といわれています。こうした企業のIT環境にもしTreasure Dataのようなソリューションが入れば、非常に画期的な事例となるのは間違いありません。そしてそれは米国でのビジネス展開にも大きな前進をもたらすはずです。そのためにはトレジャーデータとして国内の営業/開発サポート体制を整えておくことは必須だといえます。⁠公開できる製造業の事例を増やしていきたい」という芳川CEOの言葉は、日米両方でのビジネスのカギを握る重要な目標でもあります。

今後、Treasure Dataだけでなくトレジャーデータとしてどんな事例が登場するのか、大きな期待が寄せられます。

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