「WACATE2013 冬」参加レポート ─それにしても、WACATEは広大だわ

みなさん、はじめまして。フクダリナと言います。今回WACATE2013冬のBPP(Best Position Paper)賞をいただき、その副賞として寄稿の機会をいただきました。少しでもこのワークショップの楽しい気分をお伝えできれば幸いです。よろしくお付き合いください。

賞をいただいた私
賞をいただいた私

WACATE(Workshop for Accelerating CApable Testing Engineers)「内に秘めた可能性を持つテストエンジニアたちを加速させるためのワークショップ」で、夏と冬の年2回、神奈川県の三浦半島で開催しています。私はWACATE2013夏に続き、2回目の参加となりました。これから2日間、約30時間どっぷりとテストが好きな方たちのためのワークショップが始まります。

オープニング

私のように遠方から来る人は半年ぶりに再会する方も多く、この時点でテンションがあがります。恒例の実行委員の仮装? から始まるオープニングは、私の緊張をほぐして、一気にヤル気に変えてくれます。回数を重ねるごとに私の楽しみのひとつとなっています。

3分勝負!~ポジションペーパーセッション~

WACATEでは、参加登録の時にポジションペーパー(参加表明書)を提出します。ワークショップの2日間持ち歩き、コミュニケーションツールとしても活用します。ポジションペーパーには以下のようなことを書きます。

  • 仕事について
  • 今の問題
  • ワークショップで期待していること
  • 特に議論したいこと

名刺よりも本人の想いなどが詰まっているので、ワークショップ閉会後にも読み返します(人物を思い出すのにも役に立ちます⁠⁠。さらにこのポジションペーパーの中で、一番加速していると思うポジションペーパーに参加者全員が2日目のお昼までに投票します。一番票を獲得したポジションペーパーに贈られる賞がBPP賞となります。

本セッションでは、ポジションペーパーを使ってグループ内で自己紹介をします。一人あたり3分×席替えをして2回行います。2回目の自己紹介を行ったグループが2日間一緒にワークをするチームとなります。

炎上(Enjo)+愛(i)=Enjoy! BPPセッション~炎上駆動改善~

WACATE2013夏でBPP賞を受賞された根本紀之さんによるBPPセッションです。根本紀之さんは、日本でよく遭遇する「改善意識が高い人とそうでない人が混合するチーム」の中で、どのようにチーム全体の意識を高めていくかというテーマについて語ってくださいました。ご自身の上司が「炎上中の業務に次々と改善を施す」という実体験を基にこの方法を取り入れているそうです。

根本さんのセッション
根本さんのセッション

ここでのポイントは、顧客を改善に巻き込むことでチームの危機感を煽り、改善に積極的な人も消極的な人もチーム一体となって改善を進めることです。その時に消極的な人を上手に褒めることで改善が回っていくということでした。意識改善は私自身よく考えていることでしたので、違った視点の話はとても参考になりました。

片時も休む暇はない!グループランチ

WACATEには楽しいルールがたくさんあります。各セッションの時間だけでなく、ランチも各チームで摂ります。一日目のランチメニューは「海鮮丼⁠⁠。さすが三浦半島。まぐろがメインのランチです。ランチをしながら、チーム名を考えたり、自己紹介の続きを話したりします。同じ悩みをもった仲間たちなので、初対面でも話題が尽きることがないのが、このワークショップの魅力です。人見知りで引っ込み思案な方でも初参加の方でも、数回参加されている方たちが優しくフォローしてくださるので打ち解けられると思います。

プレゼンのレベルの高さもお楽しみ!~状態遷移テスト~

いよいよセッションの始まりです。今回から実行委員になった朱峰錦司さんのセッションです。朱峰錦司さんはテスト設計コンテストの予選でもプレゼンのレベルの高さが話題となっており、個人的に楽しみにしていました。WACATEでは講義はもちろんのこと、レベルの高いプレゼンを拝見するのも非常に勉強になります。

朱峰錦司さんのセッションの模様
朱峰錦司さんのセッションの模様

今回のセッションは、状態遷移テストの説明がありました。この後、例題として「簡単な音楽プレーヤー」を状態遷移図と状態遷移表に書きました。問題には2つ、状態に漏れがあると提示されており、実際に⁠漏れを見つける⁠ことを体感できました。個人ワークを行ったあと、チームでの議論を通じてさらに知識を深めることができました。

テストだけではない!伝えるためのセッション~伝えるために出来るコト~

冬のWACATEでは、いろいろなテーマのセッションが立て続けに行われていきます(夏開催のWACATEは時間をかけて問題に取り組み、各チームで発表するようなセッション形式であり、冬はさまざまな内容のセッションが行われるのです⁠⁠。

上條飛鳥さんのセッションでは、ソフトウェアテストという要素の枠を飛び出して、技術者として『伝えること』を考えるためのセッションでした。グループの中でペアになって、⁠自分は知っているが、相手が知らないことを伝える」ワークを行いました。

グループワーク中
グループワーク中

私の回答

CMSについて以下のように説明しました。

会社などのホームページのサイトを簡単に作成できるためのシステム。WordPressなどはCMSとしても有名なシステムであることを紹介。あわせて図図1参照)を描き、HTMLコードを書かなくてもサイトを構築できることを説明しました。

図1 サイトの画面例
図1 サイトの画面例

リスクベースドテストを活用しよう

井芹洋輝さんのセッションは、知識や勉強量の凄さを感じたセッションでした。

私は「リスクベースド」という考え方を暗黙的に使用していたと思いますが、本セッションを通じて、頭の中を少し整理することができました。ワークではスマートフォンゲームアプリを例に、以下の手順でリスクの識別を行いました。

  • ① 危害の重大度、発生確率のリストを作成
  • ② 危害をリストアップ
  • ③ 危害シナリオを作成
  • ④ ③の危害シナリオからリスク管理表を作成
  • ⑤ リスクに重大度・発生確率を割り当て

①の後、リスクマトリックスを使ってリスクレベルを記述します。リスク管理表にリスクレベルが記述できるようになるそうです。私には難しかったのですが、井芹さんがヒントを徐々に提示してくださったので、書くことができました。

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私が実際に業務で使いこなすには、もっと勉強が必要だと思いました。あらためてじっくり聞きたいと感じるボリュームのあるセッションでした。

休憩/ディナーセッション

夕食まで2時間程度休憩になります。この時間で参加者同士、各部屋に移動したり、温泉に入ったりとチームと別に部屋班に分かれての行動をします。施設には温泉もあり、裸の付き合いをすることで仲を深めることも可能です。

ディナーセッションでは名前の通り、お料理を堪能しながらのセッションがあります。セッションの内容は、WACATE参加申し込み時に記入したメッセージを読み上げたりクイズ大会があったりと盛り上がります(クイズの景品はあのソフトウェア技術書など!⁠⁠。

寝るのはまだ早い!夜の分科会~皆で語ってみませんか?

テーマに沿ったグループに分かれての話し合い(分科会)が行われます。今回は飛び入り分科会も含め、4つの分科会が立ち上げられました。私はWACATE2013夏の時に1つの分科会のみに参加したので、今回は少しずつ全部の分科会に参加してみました。その結果、各分科会の雰囲気を感じることはできましたが、自分が発言することがほとんどどできず勿体なかったです。次回はやはり少数に絞って参加しようと思いました。

夜の分科会
夜の分科会

どの分科会も参加者全員が真剣に自身の問題や悩みに向き合い、世代やジャンルを問わず話し合っていました。おそらく、この時間が一番、普段の自分の悩みなどをみんなと共有したり、意見し合える時間ではないかと思います。

その気にさせる!~おーい、磯野ー! 論文書こうぜー!

2日目最初のセッションは、1日目にもセッションをされた朱峰さんによる論文についてのセッションでした。⁠論文」という私には思ってもみなかった遠い世界のことでしたが、凄く身近に感じさせていただきました。

一言で論文と言っても、権威ある学術誌に投稿するだけではなく、シンポジウムの発表などさまざまな種類があることがわかりました。改めて考えると、やはり論文を書くというのは難しいことだと思うのですが、それを「あれ?もしかして自分でも書けるの?」と思わせていただけた素晴らしいセッションだったと思います。

2日目の朝
2日目の朝

ラルフチャートを身近に感じる!~探してみようテスト条件~

近江久美子さんのテスト条件についてのセッションです。本セッションでは、テスト条件のインプットやアウトプットについてラルフチャートを用いて探す方法を説明していただきました。ラルフチャートは以前私も勉強したことがあったのですが、その場限りで活かしきれていませんでした。

私は、先に単語を聞いてしまうと「何だか難しそう」と身構えてしまっていましたが、近江さんは「ラルフチャート」という単語を使わずにラルフチャートの説明をしてくださり、とても素晴らしいと思いました。身近なことを例に説明されていたので「そういうことだったのか!」と理解が深まりました。

本セッションでのワークは「ある架空会社における出張管理システムの機能テストのテスト条件を考える」という問題を個人ワーク、グループワークの順で行いました。業務でもすぐに取り入れられる手法であることがあらためてわかりましたので、今後少しずつ取り入れていこうと思います。

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さまざまな“品質”とは何かを探る!~だけじゃない!TEST~

藤原洋平さんが担当されたセッションです。品質と一言に言っても、会社や業種によって定義は異なります。先人たちの品質に対する考えを聞くことが出来ました。その中で、私が一番心に残ったのは『品質とは誰かにとっての価値である(Weinberg⁠⁠』という言葉でした。

またISOの品質特性についての説明を聞きました。藤原さんが「WACATEは⁠ソフトウェアテスト⁠のワークショップですが、⁠ソフトウェアテストだけ⁠に着目せず、品質を高めるためにどうすればよいか考えていきましょう。」とまとめていたのが印象的でした。

藤原さんのセッション
藤原さんのセッション

YWTで再考する~そのテスト、再考R~

実行委員が担当される最後のセッションです。中野さやかさんによる、WACATE2013夏に続いて「再考」をテーマにしたセッションでした。本セッションでは「YWT」を使ってワークを行いました。⁠YWT」とは「Y(やったこと⁠⁠W(わかったこと⁠⁠T(次にやること⁠⁠」を書いていくという方法です。

今回はWACATEでの2日間のYWTを個人、それからグループで書いて数名の参加者が発表しました。私のグループの方はセッションの内容について書いている方が多かったのですが、私は2日間過ごすことについて、参加前にやりたいと思ったことをYWTに書きました(表1⁠⁠。

表1 私が作成したYWT
表1 私が作成したYWT
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知識体系を知る!~ソフトウェア品質の知識体系とオープン・クローズ化に向けて~

WACATE2013冬のクロージングセッションは、早稲田大学の鷲崎弘宜氏による知識体系とSEMATについてのセッションを聴講しました。

鷲崎弘宜氏
鷲崎弘宜氏

私は今までSQuBOKのみ知っていたのですが、いろいろな知識の体系が「BOK」としてまとめられていることを初めて知りました。⁠BOK」はあくまでも知識体系へのガイドであり、分類整理やアクセスを簡単にするためのものであることがわかりました。自社でも技術や知識の整理が必要だと試行錯誤しているところでしたので、⁠BOK」を使うことにより、漏れのない整理ができると感じました。

ポジションペーパー賞

最後にWACATE実行委員長の澤田悠介さんより、ポジションペーパー3賞の発表がありました。

  • 実行委員が最も加速していると認定したMost Accelerationg Paper賞
  • 招待講演者が独断で決めるBiased Favorite Paper賞
  • 参加者の投票で決めるBest Position Paper賞

Biased Favorite Paper賞を決めていただいた鷲崎先生は「GQM」を用いてポジションペーパーをメトリクス化して評価する方法を紹介してくださいました。私はメトリクス計測の実例を初めて見たので、ポジションペーパーについても計測できることに驚き、最後までとても勉強になりました。

おしまいに―今すぐ何かをはじめてみよう―

WACATEに参加することで私自身「すぐに何か始めなくては!」と毎回強く感じます。講演者からだけでなく、実行委員からも参加者からも元気とやる気を貰える素晴らしいワークショップです。もし、少しでもWACATEが気になった方はぜひ参加してみてください。私は次回のBPPセッションを担当させていただきます。WACATE2014夏でお会いできることを楽しみにしています。

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