2014年3月、技術評論社では「ワンランク上のクリエイティブを実現するポイント ~アイデア×インフラの可能性~」と題したテクニカルセミナーを名古屋と広島で開催しました。このセミナーでは、メディアの新たな形の1つとして定着しつつある、企業自身が情報を発信してメディアを運営する「オウンドメディア」にフォーカスしたセッションが展開されました。このセミナーの模様をレポートします。
LINE谷口氏が語るコンテンツ制作の極意 ―LINE( 株) 谷口マサト氏 in 名古屋・広島
LINE( 株) 谷口マサト氏
マーケティング上の新たな取り組みとして、自社のWebサイトで積極的にコンテンツを展開する「オウンドメディア」に注目が集まっています。従来の広告のように外部のメディアを利用するのではなく、自らメディアを運営することで顧客とダイレクトにつながることが可能になるほか、ソーシャルメディアと組み合わせることで伝えたいメッセージを効率良く伝搬できるなど、オウンドメディアにはさまざまなメリットがあるとされています。こうしたオウンドメディアに取り組むうえでの実践的なヒントを提供することを目的に、技術評論社では「ワンランク上のクリエイティブを実現するポイント ~アイデア×インフラの可能性~」と題したセミナーを名古屋と広島で開催しました。
セミナーで最初に登壇したのは、今回のメインスピーカーであるLINE( 株) の谷口マサト氏です。「 ネットでウケるコンテンツの特徴 ~「 見せる」から「使う」へ~」と題し、人気コンテンツを続々と生み出す谷口氏ならではの視点で、コンテンツの企画と制作の方法論が語られました。
谷口氏は「スマートフォンの普及でコンテンツは小さくなっているが、一方で数は増加している」と現状を説明したうえで、コンテンツと広告の関係の変化について言及します。
谷口氏 「これまでの広告の露出は、まずコンテンツがあってCMをその中に挟むような形で行われていました。しかし、この方法はインターネットでは通用しません。スキップされてしまうからです。そこで広まっているのが、コンテンツと広告を一体化した『ネイティブ広告』です。今後は、このネイティブ広告の形でコンテンツを作り、ソーシャルメディアでシェアしてもらうことが重要になるでしょう」
このネイティブ広告を制作するうえでのポイントとして谷口氏が挙げたのは「一線を引く」ということでした。
谷口氏 「企業メッセージや広告はどうしても嫌われやすいという特性があります。ただ、広告をそのままコンテンツ化するのには限界があり、また広告とコンテンツを混ぜると信用を失うことになりかねません。そのため、広告からコンテンツを独立して表現する、つまり一線を引くことが重要になります。一線の引き方はさまざまですが、この部分が企画を考えるうえでの大きなポイントになります」
また従来の広告とネイティブ広告との大きな違いとして、谷口氏は「見られるものと使われるものの違い」を挙げました。
谷口氏 「従来の広告は、おもしろくてもユーザは笑うことしかできません。しかしネイティブ広告ならば、仲間内のコミュニケーションで使ってもらうことができます。たとえばコンテンツでボケれば、それに対してソーシャルメディア上でユーザがツッコミを入れられます。そのため、コンテンツを企画する際はツッコミを入れるための『空白』を作ることが重要です」
谷口氏が制作したネイティブ広告は、TwitterやFacebookでシェアされ、多くの人たちの目に触れてきました。その背景には、ユーザがツッコミを入れられるように、コンテンツでボケ倒すという考え方がベースにあったようです。
最後に谷口氏は「かつて映画会社はテレビ番組を映画のように制作して失敗しました。成功したのは軽く安く作ろうとした制作会社だったんですね。同様にスマホ時代の現在において、PCのコンテンツのように作り込むと自爆しかねません」と話し、お金をかけて大がかりのコンテンツを作り込むのではなく、ローコストで小さいコンテンツを量産するほうが効果が大きいとアドバイスを送り、プレゼンテーションを締めくくりました。
オウンドメディアのメリットとリスク ―技術評論社 馮富久氏 in 名古屋
続けて登壇したのは、技術評論社の馮富久氏です。「 ソーシャルネット時代のオウンドメディアを考える」と題したプレゼンテーションにおいて、馮氏はまずこれまでのインターネット業界の変遷を振り返りました。その中で2004年にサービスインしたミクシィ、2007年のTwitterブーム、さらには2012年のLINEの登場に触れ、人が情報を発信することに抵抗がなくなり、さらにオンライン上でのコミュニケーションを優先するケースの増加や情報の共有による分散などの影響が生じていると指摘しました。
技術評論社 馮富久氏
今回のセミナーのテーマとして設定されているオウンドメディアについて、馮氏は「自社・自組織で所有しているメディアであり、Webや紙媒体、イベント、人なども含まれます」と定義し、主体的な価値として「一次情報を担保できる」 、副次的な価値に「コンテンツが増えて資産になり、宣伝や広報戦略が行える」とメリットを挙げつつ、リスクがあることも意識すべきだと続けます。
馮氏 「ユーザは自分が都合の良いように情報を受け取って伝搬させる可能性があり、これによってコンテンツ制作側が想定していたストーリーが壊れる可能性があります。そのためネットの文脈にあったコンテンツ作りや、一次情報は崩さない姿勢などを意識しなければなりません」
さらにオウンドメディアを運営するリスクとして、俗に「Yahoo砲」や「Gunosy砲」と言われる突発的なアクセス増があると説明し、インフラ戦略を日ごろから検討し、そしてクラウドをはじめとしたテクノロジの活用が重要であるとまとめました。
トリプルメディアの活用こそが成功の鍵 ―( 株) アント 田中千晶氏 in 広島
広島の2つめのセッションでは、( 株)アント 企画営業部の田中千晶氏が「多様化する消費者心理に響く、オウンドメディアとは?」と題したセッションを行いました。
( 株) アント 田中千晶氏
田中氏は、自身がこれまで行ってきた企業サイトのコンサルティングの経験談をもとに、FacebookやTwitter、LINEなど、実際のソーシャルネットコミュニケーションツールを使ったマーケティングに関する、より実践的な話題について取り上げました。
たとえば、LINEのビジネスアカウント「LINE@」の活用例として大阪のショップ「PANTS WORLD」を例に挙げ、この店舗で行っているO2O(Online to Offline)戦略について、具体的な手法をその効果とともに紹介しました。ここで田中氏がポイントとしたのは、「 まず、その店舗の中でオンラインソーシャルネットコミュニケーションに慣れている人を探し出し見極めること」が最初の躓きを減らせるということでした。運営側の体制をしっかり固めることが大事というわけです。
また「オウンドメディアを最大限に活用するには、それ以外のソーシャルメディア、ペイドメディアへの理解を高めることが重要」と説明しました。つまり、オウンドメディアは単体で効果をねらうものではなく、LINEやFacebookをはじめとしたソーシャルメディア、交通広告や雑誌広告などのペイドメディアと組み合わせることが大事ということです。
変化する消費者に常に向き合うこと、またコンサルタントの立場としては、消費者のタッチポイントとなる企業サイト運営者としっかりとコミュニケーションを取り、そこからきちんと戦略を立てることが大事という、基本的かつ重要な内容でまとめられたセッションとなりました。
NTTスマートコネクトのアライアンス戦略 ―NTTスマートコネクト 幸村輝昭氏 in 広島・名古屋
最後のセッションは、NTTスマートコネクト クラウドビジネス部 シニアマネージャーの幸村輝昭氏が「NTTスマートコネクトにおけるビジネスパートナー様との協業スキームについて」と題したプレゼンテーションを行いました。
NTTスマートコネクト 幸村輝昭
NTTスマートコネクトでは「スマートコネクト マネージドサーバ」をはじめとするクラウドサービスを提供しています。幸村氏はこれらのサービスの強みの1つとして、堅牢なデータセンターで運営されていることを挙げました。
幸村氏氏 「NTTスマートコネクトでは、データセンターとしてNTT西日本の通信ビルを使用しています。ビル自体が堅牢であり、さらにICカード認証や対人認証、生体認証を組み合わせるなど非常にセキュアな環境でサービスを展開しています。また大阪市内に立地しているため、万一の際にも短時間で駆け付けられる利便性の高さも特長です」
続けて、前述した「スマートコネクト マネージドサーバ」のほか、「 スマートコネクトVPS」や「スマイルサーバ」など多様なクラウドサービスを活用したパートナー様とのアライアンスビジネスとして、パートナープログラムを展開していると話します。
幸村氏氏 「パートナープログラムは、取次プログラムと再販プログラムの2つを用意しています。取次プログラムは、契約を締結したパートナー様が弊社のサービスを販売/申込仲介していただくことで、パートナー様へ取次手数料をお支払いするというものです。一方の再販プログラムは昨年7月に新しく制定したもので、私たちのサービスを利用してパートナー様のブランドとしてエンドユーザ様へ提供していただく形になります。たとえばアプリケーションを提供されているパートナー様であれば、この再販プログラムを利用することでインフラからアプリケーションまでを一体化してエンドユーザ様に提供できるメリットがあると考えています」
取次プログラムと再販プログラム
さらに幸村氏は、この再販プログラムはパートナー様に新たな強みを提供するものだと続けます。
幸村氏氏 「昨今、エンドユーザ様から『IT-BCP対策としてのクラウドサービス利用やITインフラとアプリケーション一体でのサービス提供』といったニーズが増えつつある中、多くのシステムインテグレータ様やアプリケーションベンダ様にとって、専門領域ではないインフラを含めて短期間でサービスを構築/提供するのは難しいという課題があります。そこで我々のクラウドサービスを活用していただき、また必要に応じて自社のサービスに合う形にカスタマイズして利用することで大きなメリットを得られるのではないかと考え、再販プログラムを提供することにしました」
なおパートナー契約を締結することで、NTTスマートコネクトが開催しているカンファレンスに出席できるほか、検証環境の貸し出しなども受けられるとのこと。自社のサービスを組み込むことを考える際、こうした検証環境の提供を受けられるのはうれしいところでしょう。
続けて幸村氏は、具体的なサービスを紹介します。まず取次プログラムで使えるクラウドサービスとして紹介されたのは、スマートコネクト マネージドサーバとスマイルサーバです。とくにスマートコネクト マネージドサーバは、クラウドの拡張性/自由度とレンタルサーバの手軽さを両立したユニークなサービスであり、検証公開用ディレクトリと本番公開用ディレクトリを簡単に切り替えられる機能など、実践的な機能を数多く提供しているのが強みになっています。またroot権限はNTTスマートコネクトが保持するため、パートナー様側で運用監視やパッチの適用などの作業を行う必要がなく、サーバの運用負荷を大幅に軽減できることも利点でしょう。
パートナー様が自社のアプリケーションやミドルウェアを組み込む再販プログラムでは、必然的に、root権限をパートナー様が使えるスマートコネクトVPSを選択することになります。前述したように高い信頼性を実現していることに加え、インターネットや各種閉域網、学術情報ネットワークなど多様なネットワークが利用できることも特長です。
そして幸村氏が強調したのは、24時間365日の運用管理体制が整えられていること。たとえばスマイルサーバは、これまでの稼働率は99.998%と高い安定性が実現されているため、安心して自社のサービスをご提供いただけるというわけです。また電話によるサポートを提供している点もパートナー様やエンドユーザ様に高く評価されていると幸村氏は胸を張ります。確かに、何らかのトラブルが発生したときに電話でリアルタイムに相談できるのは安心でしょう。
最後に「NTTスマートコネクトではアライアンスの取り組みを強化しており、サービスの拡充や対応するスタッフの数も増やしています。契約していただいたパートナー様にも、そのエンドユーザ様にもメリットのある形でクラウドサービスを提供できるので、ぜひ取次プログラム、そして再販プログラムをご活用ください」と話して幸村氏はプレゼンテーションを締めくくりました。